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詳しく教えて

 久しぶりに王城でのパーティーが開催された。私は他の家が主催するところへは行かない。婚約相手を見つけることが目的のものが多く、私に付き添う兄が狙われるからだ。

 テオ?

 王太子をわざわざ他家主催のパーティーに呼ぶことはない。そもそも彼は忙しい。


 ふむ。テオ、という呼び方もだいぶ慣れた気がする。本人に直接言うのは躊躇われるものの人間慣れは大事だ。

 彼から贈られてくるドレスは私の髪や瞳の色に合わせた紫系が多い。次に青系。今回は私の瞳と同じ菫色でグラデーションになっており袖や裾は白に近い。

 それに添えられた手紙には

『貴女と踊るのを楽しみにしている』

 とあった。かくかくとした読みづらい字は相変わらず。貴女なんて、そこは代名詞じゃなく私の名前を書いてほしい。

 昔の簡素な手紙は今どこにあるか分からないくせに文句をつけつつ最近の手紙を丁寧に引き出しにしまうあたり現金なものだ。


 待合室にいたテオはネクタイがドレスと同じ菫色だった。珍しい。何に遠慮しているのかネクタイを一緒にするのは誕生日だけだったのに。

 部屋に入るとテオは一歩私に近付いてくる。

「き、き……綺麗、だ」(綺麗だ)

 …………はい? あれ、今声に出ていた?

 挨拶も何もなく突然言われたから幻聴かと思った。

「よ、よく、似、合う」(よく似合う)

 口調も動作もぎこちなかったがまさか褒められるとは思わなかった。隣にいる兄も目が点になっている。

(い、言えた、やっと言えた!)

 私達の反応に関わらずテオは大きな物事を達成したかのように喜んでいる。文字だけでなく顔が紅潮していた。

「ありがとうございます」

 ……どうしてここまで私は一本調子にしか話せないのか。表情も変わっていないに違いない。

 私の失礼な反応に対し「ああ」とテオは満足そうに笑った。……何故?


 その後エディがやってきて褒められたので同じように感謝の言葉を贈る。

「??? 兄さんから全然睨まれないんだけど、何、何かあった?」

「おい、失礼だぞ」(私のほうが早く言ったからな!)

 自信満々な文字はさておき、私が見ていても片眉をつり上げてエディを見つめている。エディは口を開けながら私とテオを交互に見た。

「は? え? 本物?」

 少し感情を表に出すようになっただけなのに実の弟にまでこう言われるとは面白い。

「本物だ。そろそろ行くぞ。……メリッサ」(本当に失礼だな)

 テオが私に手を差し伸べてきた。素直に手を合わせる。

「は、はあ……?」

 エディは不思議そうに頭の後ろに手を置きながら会場へ向かって歩き出した。テオにエスコートされて私も歩いて行く。

 兄は未だに呆然としていた。お茶会で見ていたと思ったのだが、後ろに立っていたせいで見えていなかったらしい。




 *   *   *




 パーティ―会場にはいくつかの風船が浮いて飾られていた。

 わざわざ飾ってくれたのか。会場を歩きつつ風船を見渡す。嬉しい。

「ありがとうございます。嬉しいです」

「終わったら持って帰るか?」

「ぜひそうしたいです」

「そうか」

 柔らかい口調に風船からテオに視線を移せばふ、と笑う。彼はあれから笑うことが増えた。


「あ、メリッサ!」

 珍しくラウラもいて大きく手を振りながらこちらに来る。にこにこ笑う彼女の表情を見ると私の心も温かくなる。

 ラウラは私の傍に来ると悲しそうに眉を下げた。

「メリッサに会えたのはいいけどパーティードレス嫌い~。重いし動きづらいし窮屈だし姿勢良くしないと怒られるー。研究したい~」

「……? じゃあどうして参加したの?」

「お父様に命令されたのよ」

 彼女が指差したほうを見れば彼女の両親、現魔術師団団長のアレッシオ殿下とリータ妃殿下がこちらに来ていた。アレッシオ殿下は御多分にもれず金髪碧眼。この国の王族の金髪碧眼の遺伝子が強すぎる。彼は娘を見ると吹き出した。

「ぶはっ、どうしたのラウラ。可愛い顔が台無しじゃん。ぷくく。猫背になってるとただでさえ小さいのにもっと小さく見えるよ。可愛いね」

「ぬなっ! ひどいですお父様!」

 つんつんとラウラの頬をつつき嫌がられている。

 相変わらずの笑い上戸だ。愛嬌のある顔だから許されるがなかなかの発言である。

「んもー!」

 ぷくりと頬を膨らませたラウラが父から逃れて私の隣に来た。可愛い。つん、と頬をつつくと萎んでいく。可愛い。

「あ、メリッサが可愛いとか思ってるー。ひどいんだー」

 両手をぶんぶん動かしている。かわ……おっと。ごめんなさいと謝ったらすぐ許してくれた。

(どうして分かるんだ。羨ましい)

「え、羨ましい? テオ殿下も変なこと考えてるね」

 今度はテオを見て口を尖らせている。

 どうして分かるの。昔も聞いたことがあるが「分かりやすいよ」という返答だった。ラウラには何か違うものが見えている?


「久しぶりー。相変わらず、というわけではなさそうだねお二人とも」

 アレッシオ殿下がくすくすと笑いながら私達に小さく手を振る。この方達もパーティーに出席することは珍しい。

 挨拶した後で理由を聞いてみれば

「んー、何か面白いことが起こりそうだな、と思ってラウラと一緒に来ちゃった」

 面白いこと? この人が言う場合万物が当てはまりそうだ。

「アレッシオ叔父上の仰る面白いこととは何ですか?」(どうせろくなものじゃないな)

「さあね。何かは私も分からないな。ふふふ。でもいいのいいの。私の勘は当たるんだよ」

 機嫌良さそうに笑っている。リータ妃殿下に視線で問いかけるも知らないとばかりに首を横に振られてしまう。


 リータ妃殿下はアレッシオ殿下曰くツンデレらしい。お義母様も「私達以上にラブラブよ」と言っていた。

 ラウラからは時折話を聞く。

「お母様がデレるのはお父様と二人きりの時か近くにお父様がいない時の二つね。昔からお父様がどれほど素晴らしい人間かって言われたけど、お父様が帰ってくると言っていた言葉を否定していたの。おかげで昔はよく分からなかったわ」

 私は近くにアレッシオ殿下がいる時しか会ったことがないため未だに本当かどうか分からない。そもそも二人ともあまり話したことがない。


 一頻り笑った後でアレッシオ殿下が周りを見回す。

「お兄様達も誘ったんだけどねー。まだ来てないみたいだね」

 何と。娘だけでなく陛下達まで巻き込んだのか。大事件が起きないといいのだが。

「あの、本当に大丈夫なのですか?」(大丈夫か?)

「お父様達もいらっしゃるなら万が一のことを考えて警備を強化したほうが……」

「何か魔法を使ったんですか?」

 テオだけじゃなくエディも兄も危惧し再度質問したもののアレッシオ殿下の返答は的を射ない。

「だから私も分からないって。でもそんな大げさなものじゃないよ。ね、テオ?」

 皆の視線がテオに集まる。テオ殿下の頭の上にははてなマークができていた。

「さ、まずは挨拶をしようかな~。行こう、リータ。ラウラはご自由にどうぞ~」

「え? え? お、叔父上?」(何だ、一体何なんだ?)

 焦るテオには目もくれずリータ妃殿下を伴い遠くへ行ってしまった。訳が分からない。


「お父様のあの感じなら本当に大したことじゃないと思う」

 というラウラの言葉で一旦は落ち着いたけれど、テオは何か考えるように手を顎に置いている。

(まさかあれか? あれなのか? しかし面白いことか? わざわざ来るほどのことか?)

 あれとは一体何だ。心の声にも関わらず何故詳細が不明なのだ。教えてもらいたい。ああもう、文字のことをテオが知っていれば聞けるのに。

 悔しいと思う私の近くで

「多分テオ殿下とメリッサのことだと思う。最初の挨拶も二人に向けられていたから」

「そういえば相変わらずじゃないって言ってたね」

「もう笑顔は見たんだが、どうもあれだけじゃないっぽいんだよな、アレッシオ殿下の場合」

 ラウラ達がぼそぼそ相談していたことには気付かなかった。

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