未来は明るい!(ラウラ視点)
メリッサが乗った馬車が見えなくなり、手を振るのをやめて部屋に戻ることにした。
やっぱりメリッサはスタイルがいい。本人は背が高いことを気にしているようだが私としては羨ましい。目の保養である。私ももっと背が伸びないものか。
室内に籠もっていることが多いため合間を見てはストレッチや背伸びをしているものの効果はまったく現れない。
悲しいなあ、と思っているとホールできょろきょろそわそわしている人間がいた。まるで不審者だ。
「あ、ヘタレ暴言王子」
「何だとっ! って、ラウラか」
「いやあ、こう言うの私くらいでしょ」
発端は父だ。メリッサに暴言を吐き落ち込んでいた彼に更にダメージを与えた。
それを思い出してぷくくと笑っているとじろりと睨まれる。察するべきはこっちじゃないのにー。
「メリッサを知らないか?」
「もう帰りましたよ」
「なっ……」
目に見えてがっかりしている。面白い。
私達が話していたのは三十分ほど。私のところに来ていたと知らないくせによくもまあタイミング良く現れたものだ。いや、会えなかったのだからタイミングは悪いのか。
エディのところにいたと思うならそこへ行けばいいのに真ん中のホールで突っ立っているあたりがヘタレである。
直接話しかけようとしたのは進歩か。
「お茶会について話したかったのだが」
「ああ、聞きました聞きました。ペンダントつけるだけで顔から湯気とか純真すぎません? 二年後には結婚ですよ?」
「うぐっ……」
ペンダント自体は良かった。メリッサの葵色の髪によく似合っていたし彼女も気に入っていた。メリッサは他のプレゼントも気に入っているけれど王城では絶対つけてくれないので寂しい。目の前にいる男のせいだ。
私といたことを知ると何を話していたか知りたそうな顔をする。
「メリッサは私について何か言っていたか?」
「そういうのは感心しませんねえ。本人に聞いてくださーい」
「それができたら苦労しない!」
「大声で言うことですか」
夫婦になるということがきちんと分かっているのか。
一応今日もタイピンをしている。
メリッサの親友のポジションにいる私に嫉妬しているためか毎年誕生日のパーティーが終わった後自慢される。今も見せつけるように胸を張っているが私も毎年プレゼントをもらっているし彼女自身の前でつけられなかった情けない男を羨ましいとは思わない。
それにしても。メリッサも変わったなあ。テオ殿下が素直にならないことを諦めたと思っていた。呪いのようだと言っていたけれどお互いが変わるきっかけになったなら良いところもある。
メリッサは自分の気持ちに気付いていない。
彼女はテオ殿下の話をする時悪口だと悲しい顔をする。褒めても自分が知らないことだからいらっとしている。
先ほどテオ殿下が変わったと告げた時も知らないことだと一瞬不快な顔をした。
他の男性に対しては出ないこと。
私は彼女の心情は分かりやすいほうだと思っている。表情が変わりづらくても纏う空気が違う。メリッサ自身も気付いていないから周りも分からないのかもしれない。メリッサがテオ殿下に好意を持ち始めたのは彼の好意が本物だと理解し出してから。本気で嫌っていたこともある。
あいにく気付かせるつもりは今のところない。だってテオ殿下は暴言なのに、不公平じゃない。彼が素直になって、メリッサへ愛情を示してからだ。まずはメリッサの願いを叶えてもらいたい。
といっても私はメリッサには幸せになってほしい。昔から私の魔具談義を嫌がらず聞いてくれていたのは彼女だけ。
だからテオ殿下のことを応援しよう。頑張れ殿下。未来は明るいよ!
何せ、メリッサは陛下夫妻ほどじゃないにしてもラブラブになりたいみたいだからね。
「手紙を出したらいいんじゃないですか?」
「そ、それは……」
うじうじと渋っている。普段の字の上手さを見ると何故毎回あんな解読不能な字になるのか。
メリッサがお茶会を休んだ時も手紙一つ出せなかった男だ。
彼女のお見舞いに行った身としては手紙が来ないことを気にして日に日に沈んでいく姿を見ているからさっさと書けと促したい。
放っておいてもカルロさんが告げるしどうせお茶会の日程は変わらない。とはいえホールまでは来たのだ、後もう少し頑張れ。
「簡潔に次会えるのを楽しみにしている、だけでいいんですよ」
「自信がない……。もうメリッサを傷付けたくない……」
分かりやすく打ちひしがれる。
その表情をメリッサの前で出せたらいいのに、と思わずにはいられない。彼女にかっこ悪いところを見せたくないという男心なのだろうが、メリッサが見たいと望んでいるのはこういう彼女を想っている姿だ。
メリッサはこの男のどこに魅力を感じるのか。彼女の好みはカルロさんだから外見でないことは確かだ。
手紙でも素直になれないとは、本当に面倒くさい。
「メリッサ、趣味悪い」
「ん? どういうことだ?」
ぽつりと言っただけなのに聞き取っていた。こんなところで地獄耳を発揮しなくても。
「何でもありません。とにかくさっさと手紙を書いて出してくださいね。カルロさんに任せるようだったらメリッサに告げ口してペナルティ追加してもらいますから!」
「はあ!? や、やめろ!」
「知りませーん。私は手紙出しますもーん」
叫ぶテオ殿下を無視して魔術師団の区域に歩いて行く。
ここまで発破をかければ出すはずだ。ペナルティとは面白いことを考えたなあ。勝手に使ったことを手紙で謝っておこう。
当然のことながらテオ殿下の頭の上に文字は見えなかった。
一体どんな風に見えているんだろう。
お父様も聞きたかったらしいが二人きりになれる時間が取れなくて断念したそうだ。
そもそもこの魔法は難しい。まだ解明されていないことが多い。
口頭はもちろん筆談でも話せる人間が決まっている。メリッサは私に話せなかったのに私はメリッサに話せたのは彼女が当事者だからか。
20歳のいつ出るかも人によって違うらしく、テオ殿下は遅いほうだ。
だが私を含めた周り全員が運命の相手をメリッサだと思っていたので早々に婚約し、婚約解消はまったく考えなかった。テオ殿下の執着心からすると違っても婚約解消しないに違いない。
お父様は無理だったけれど私も傾向とか頻度とかいろいろなことを調べてみたい。もしかしたら消すこともできるんじゃなかろうか。
メリッサの願いが叶い二人がラブラブになったら消したいかどうか聞いてみよう。その時にはテオ殿下本人に伝えることをメリッサも了承してくれるはず。
お父様曰く、運命の相手に会えない王子もいるから本人に言わないらしい。探しても見つからないと他の相手と結婚しない可能性があるからだ。それと心を読まれるのを嫌がって探さない可能性も考えられている。
ヒントも何もなく、確かめる手段が言えるかどうかだけ。相手が挙動不審な態度を取れば確認をするとは難易度が高い。
それにしてはこうして伝承されているのだから会えなかった確率は低いのだろう。
運命の相手だから自然と引き合うのか。
ああ、反対にメリッサの心情をテオ殿下に聞かせられる道具を作れたら面白いことになりそうだ。ぜひ作りたい。
ふふ、わくわくする。
未来は明るい!




