第7話 宇宙駆逐艦
キーワードに軍艦と艦艇擬人化を追加しました。
「城ヶ根勇輝君。」
「あんたは…」
夕食を終えて部屋に戻ると、程なくして来客があった。
一目見て普通の人間では無いと分かった。全身にパワードスーツを着込み、頭にはヘルメット。
咄嗟に光の壁を出して身構える。まずこいつは間違いなくこの学校の生徒では無い。そしてこの学校のセキュリティは尋常じゃ無い。そこをくぐり抜けてきたと言う時点でただ者では無かった。
「そう警戒しないでください。敵ではない。」
「何のご用ですか?」
わざわざレンジャーに接触してくる時点で敵では無いだろう。経験上侵略宇宙人やテロリストが対話をしてくれるのは追い詰められて命乞いをするときくらいなものだからだ。味方かどうかは知らないが。
俺は光の壁をそのままに尋ねる。
「私は“商人”。惑星を股にかけて商売をしている者です。今回はあなたにセールスに来ました。」
「あんた…異星人か。」
セールスは「結構です」の一言に尽きるだろう。但し、俺はこの商人と名乗る人物が何を扱っているのか興味が湧いた。好奇心は猫を殺すと言うが…
「ええ。地球の者では有りません。扱っている商品も…」
この瞬間、勇輝の心に好奇心が生まれた。
セールスとはいかに相手に興味を持たせるかによる。つまりは相手が興味を持ったらセールスは成功したと言える。
「今回はお近づきの印に“こちら”をプレゼントさせていただきます。」
そう言って、商人は紙切れのような物を渡してきた。
なんだこれ…「スタートダッシュチケット」?
その瞬間、紙切れが物凄い光を発した。
そして光が消えると、そこには…
「初めましてマスター。」
一人の少女が立っていた。
「おいおい…冗談にも程が…」
勇輝の背中を冷たい汗が流れ落ちる。これの意味するところは、この商人が勇輝のとある“秘密”を全て知っていると言うことになるためだ。
「冗談ではないですよ。…それにしても、やはり出来るのですね。…“艦魂”」
「…なんでそんなことを知ってるんだよ。何処で………まあ良い。まあいいさ。で、俺にどうしろって言うんだ?」
この商人は俺の何が目的なんだ?…俺に払える物など何も…
「多くは望みません。我々の目的は商売繁盛ただ一つだけ…そのためには怪獣によってこの国の文明が滅ぼされるのは良しとしません。」
商人は大げさに見える手振りで説明をして行く。
「…怪獣は倒す。それとも…なんだ、俺達に倒せない怪獣でも現れるかのような口ぶりだな」
「大怪獣が倒されてもうじき5年…そろそろ復活してもおかしくは無いと思いません?」
復活?これまでに現れた怪獣は全て倒した筈だ。
「この世界のルールみたいな物で。あのような“オリジナル”は消えれば代わりのものが生まれるわけです。」
「…あんたは…」
「これ以上は課金が必要です。情報は何より高いんですよ。」
「じゃあいいや。それよりも“こいつ”は?」
紙切れから生まれた謎の少女を顎で指して尋ねる。
「本人より聞いて下さい。カタログはこちらです。」
分厚い冊子を渡される。
「…それとこちらも渡して起きましょう。試供品ですが。」
謎のクリスタル×2
謎の腕輪×1
「これは?」
「“超能力”。便利なものですが使用制限がありましたね?」
確かにそうだ。超能力を使うとその分エネルギーを消費して行く。俺も核兵器など召喚すれば相応に消耗するし、軍艦そのものを呼び出したりは出来ない。
「このクリスタルはエネルギーの塊です。…容量は軍艦の召喚も可能です。もう一つ使えばその軍艦が一戦するだけのエネルギーを賄えます。」
「…何から何まで恐ろしいな…こんな物がよく…」
このクリスタルを使えば…
「そしてこれは転送装置です。一度行った場所へ瞬間移動が可能です。まあクリスタルも転送装置もそれほど高い物では無いので課金システムでは有りますが安くしておきますよ。」
腕輪は転送装置だそうだ…当然だがそんな物は地球のテクノロジーでは実現不可能なアイテムだ。
「…有難く貰っておくよ。ちなみにクリスタルは一つ幾ら?」
「一つ…そうですね¥3000でどうでしょう。」
「俺なんかじゃ無くてもっと上に持ちかければ10倍の値段でも買うだろうよ」
このクリスタル一つあれば様々な、夢のような事が可能になる。幾ら払っても買うと言う人たちは沢山居るだろう。
「そうすると使ってくれ無さそうですからねぇ。こう言う物はいかに現場で実用されるかに尽きるのですよ。なので私はそこそこの値段で直接現場に売ることにしてます。」
「…まあいいや。あんたは地球を侵略するつもりは?」
MK45 5インチ砲を出す。砲口を商人に向ける。
「まさか!私にとっては地球も数あるお客様の一つに過ぎません。今更惑星を侵略したところで何の利益にもなりませんよ。…地球でだってそうでしょう?」
確かに。第二次世界大戦まで列強国があれ程欲しがった植民地は今や何の価値も無い。
…根っからの商人か。この様子ではこちらから見て敵側にもよからぬ物を売ってそうだ。
一応、こういう事があったと言うことは中将さん達へ報告はしておこう。俺にとっては特に害も無いしこれはこのまま放置だな。
「…まあいいや。何か面白い物があったら売って欲しい。クリスタルはまた買う事になると思う。」
「是非ご利用をお待ちしております。それでは」
商人は自分の転送装置…腕輪を使って何処かに消えてしまった。
転送装置凄いな…俺は貰った腕輪を自分の腕に付けた。周りから何か聞かれたら、腕時計だとでも答えれば良いだろう。
「で?君は?」
残された少女に聞く。
この少女は兵器の心“艦魂”である事は間違いないだろう。
俺の超能力は戦車や戦艦と言った、武器というよりかは兵器も召喚可能だ。
しかし、それは物理的な問題があって出来ない。
その問題の一つが質量で、何トンも、何メートルもある軍艦はこんな狭い地下室には呼びだせない。精々主砲の砲身の先だけ呼び出すのが関の山になる。
二つ目がエネルギーの不足だ。俺のエネルギー…超能力の源で呼びだせる武器は最大でもミサイルが2、3発といったところだ。
なので、例えば質量もエネルギーも足りないのに無理矢理、戦艦や空母なんていう物を呼び出そうとすると、本体の代わりに別の物が出てくる。それが“艦魂”だ。
彼女たちが何者なのかは俺も知らない。
ただ本人に聞いたところに寄ると軍艦や戦車の“別の姿”らしい。
総じて無表情、無感情で鉄の塊を連想させるが人間の姿になって呼び出されて来る。
何よりも恐ろしいのは、あの商人が俺がこのような“艦魂”を呼びだせる事を知っていたという事実だろうか。あの紙切れも謎だ。どういうテクノロジーだったのかまるで分からない。
「私は…AB126型スペースデストロイヤー2261番艦。その“心”です。名前は有りません。」
デストロイヤー…駆逐艦か。
駆逐艦とは主に護衛や対潜水艦戦闘を得意とする小型艦だ。主砲は5インチ程度で排水量は満載3トン程度、全長は約100~130Mと小型だが速力は40ノット近くと高速で“必殺技”たる、大型艦をも葬り去れる魚雷や、ミサイルを装備している。
現在の駆逐艦は強力な対地、対艦、対空ミサイルを装備し高性能なイージスシステムと高度な情報処理能力によって200個を超える目標を追尾し10個近くを同時攻撃可能。
戦艦や巡洋艦を追いやって海戦の主役になった。
「名前が無いか…じやあ取り敢えず名前は…“アロン”とでも名乗っておいてくれ。」
宇宙駆逐艦。とてもプレゼントで貰える物でも無い気がする。
「分かりましたマスター。私の名前は“アロン”」
渡されたカタログを見ても何が何だか分からない。武装など特に。
なので本人に聞いてみる。
「君の武装は?」
「2500ミリ連装汎用砲5機10門、1000ミリ4連装パルスレーザー高射砲12機、500ミリ迎撃機銃30機。そしてAB対地ミサイル発射管4機8門、AC対艦ミサイル55セル。艦載機がBB艦上偵察機2機です。」
宇宙艦基準でどの程度強いのか謎だが、地球上で使うのなら明らかにオーバースペックだろう。
「主砲の威力は?」
「レーザーならば小惑星程度なら破壊可能です。精度はまずまずですので宇宙空間から地上も狙撃できますが、貫通力は貧弱ですので徹甲仕様でもこのような地下壕まで破壊する事は不可能です。」
破壊力としては十分な筈だ。この話の流れるではおそらく宇宙戦艦は惑星の破壊も可能としている可能性がある。
「こちらの本業は怪獣退治だから、戦力としては十分さ。」
「精一杯戦います。」
「2261番艦と言うことは姉妹艦が2260隻居るのか。」
最多と言われたアメリカ軍のフレッチャークラス駆逐艦でも姉妹艦は175隻。2000隻を超える姉妹艦が居るのは凄い
「ええ。私は既に時代遅れの設計です。主力と正面から戦う事は出来ませんが、傭兵団や民兵には安くてそこそこの戦力が整うため人気なのですよ。そのため現在も生産は続けられているのです。」
駆逐艦と言うよりかは護衛艦と言った方が正しいかも知れない。
アロンが述べた通り、AB126型宇宙駆逐艦は既に旧式化した船だ。元々出尽くした技術で作られており、動力源は太陽エネルギーを用いているが逆に太陽のない銀河での活動は制限される。出力も弱く新型機関を搭載した最近の駆逐艦には速度で劣り、対艦ミサイルも宇宙戦艦を倒せるほど強くは無い。
しかし出尽くした技術は確かな信頼性を持っており、太陽エネルギーは太陽系に居るうちは原子力艦宜しく燃料補給の必要が無いと言う利点があった。
武装も主力艦には及ばない物の海賊相手の護衛任務や哨戒任務には十分と言えた。
建造費からランニングコストまで格安で非常に扱いやすい手頃な彼女たちは現在でも建造され続けている人気型式でもある。退役する艦は同型艦を代艦とするなど需要は安定していて何時しか2000隻を超える姉妹艦が誕生するに至った。
「武装が問題なく使えるならば大丈夫。時代遅れとかは気にしないよ…その姿でも戦える?」
「問題ないです。この姿で居られるのはマスターの力でしょうか?この状態ならば私が直接戦う事も可能になります。」
俺の超能力は、少しばかり特殊ないことが出来る。兵器の心を呼び出して交渉する事が出来る。
ただの人間が5インチ砲やCIWS…武器を召喚して動かせるのはこの能力の応用に過ぎない訳だ。
しかし宇宙駆逐艦にも心があったのか…
「じゃあ宜しくな。…アロン。少しだけ力を貸してくれ」
もらい物だが使える物は何でも使おう。
むしろ後で酷い請求書が来ないか心配でならない。
「勿論。これからよろしくお願いします、マスター。ご用の時はいつでもお呼び下さい。」
アロンはすーっと消えてしまった。元々半分宙に浮いていたので実態があるのかすら謎だな。
ああ…宇宙駆逐艦かぁ……これはあれだな、いずれは宇宙巡洋艦とか宇宙戦艦とかも来るのかぁ
ーーーこうして勇輝の手札には強力な一枚が加わった。しかしこれが原因で後にいざこざが起きることは、彼はまだ知らない。ーーー
………
……
…
商人。
「これで対策の方はバッチリですね。後は“あれ”を目覚めさせるための細工ですか。」
彼がわざわざ勇輝に物資を渡したのは全て計画の一部に過ぎなかった。目覚めさせた大怪獣をレンジャーに始末させると言うのが作戦である。
作戦は順調に進んでいた。…大怪獣の復活は近い
主人公がなぜ超能力として兵器を召喚出来るのかについて少しだけ答えが見えました。
これ以降も主人公に武器を貸し出ししている存在として様々な軍艦が登場する予定です。




