第8話 大怪獣出現
久しぶりに怪獣が現れます
富士山麓 青木ヶ原樹海
富士山の麓には広大な樹海が広がっている。
この辺りは文字通りの魔境で360度殆ど変わらない風景が方向感覚を狂わせ、方位磁針でも無い限り一度足を踏み入れたら二度と出てこれないとまで言われていた。好き好んでここへ行く人はそうそう居ないだろう。
そんな鬱蒼と茂る森の中を、数人の集団が歩いていた。
「…あったぞ」
彼らは目当ての物を探し出したらしい。
そこは洞窟だった。
地面が一部分だけ割れており、その地割れの中に洞窟が広がっていた。
「ここで間違いない。」
「ここにダイヤモンドの…」
彼らは洞窟の中へと入って行った。
それ以降、彼らを見た物は居ない。
ここ最近、この場所では集団が訪れては洞窟に消えて、という光景が繰り返されていた。
集団はダイヤモンスに変わる前に生成されるというダイヤモンドを狙ったトレジャーハンターや最近現れ始めた怪獣を信仰する宗教の一団など多岐にわたったが、皆二度と出てくることは無かった。
さらに悪いことにこれがもしも“町中で突然、大勢の人間が消えた”などと言うことだったら別なのだが、ここは人の寄りつかない樹海の果て…この事は事件として取り上げられる事は無く、警察が動き出すまでにはかなりの時間を要した。
結局、警察が動き出したのはそれから2週間後。“宝石が獲れる”という情報が表社会にまで広がってからだった。
隕石の墜落以降どういう訳か世界中でそれまで獲れなかった宝石が獲れるようにはなっていたのでこの情報は瞬く間に信じられて広まり、結構な人数の野次馬が集まって騒ぎになってからの事だった。
………
……
…
二週間後…
ゴゴゴゴゴゴ……
地震だ。突然付近一帯を恐ろしい地響きが襲う。
そして…
ピシッ……
大地が割れた。地面に亀裂が入り、巨大な穴が現れた。
「…シャオオオオオ!!!!」
割れた地面から、咆哮とともに怪獣が現れた。
大怪獣ダイヤモンスの誕生だった。
身長は60メートルに達し、背中に背鰭のような突起物、頭には巨大な角、そして長い尻尾を持つ王道スタイルの怪獣だ。
大怪獣ダイヤモンスは“生贄”を得た事により、誕生したばかりにして嘗ての個体と同等の力を保持していた。
「シャオオオオオ!!!!ッ」
ピカッ!!!
ダイヤモンスの全身が光りに包まれる。
ゴオオオオオオオ!!!!!!!!!
次の瞬間、ダイヤモンスの口からブレス…破壊光線が放たれた。
虹色の、まるでダイヤモンドのような輝きを持つ光線が一直線に突き進む。そして光線は約10キロ離れた麓の町、河口湖付近にまで到達して炸裂。光線の線上にあった物はなすすべ無く消滅し、光線が通った周囲は衝撃波によって破壊され、そして直撃した麓の町は大爆発が起こって一瞬にして壊滅した。
そして、完成した“道”を、ダイヤモンスは麓へ向かって歩き始めた。
……
国防軍 陸軍司令部
「ダイヤモンス……だと?」
怪獣出現を受けて大急ぎで招集された参謀たちは報告を見て動揺する。大怪獣ダイヤモンスは嘗て東京を滅ぼした恐怖の怪獣だ。
「馬鹿な…」
「ダイヤモンスは倒した筈だ」
「別の個体なのか?」
しかしスクリーンに映し出される、今も進行を続ける大怪獣は間違いなくあの日東京を襲った大怪獣だった。
「奴が金剛石の竜だとしたら…首都圏に入る前に何としても倒すしかあるまい…」
東京要塞の外壁は強力な怪獣の襲撃を想定してはいるが、大怪獣クラスの攻撃を正面から防げるかは未知数だった。
「倒すとなると遠距離からのアウトレンジ戦法一筋になりますね…弱点破壊前に接近すれば奴の超能力で八つ裂きにされてしまう…」
ダイヤモンスは背中の突起を数回点滅させるだけで周囲…半径数キロ圏内の全てを破壊し尽くす殲滅攻撃“シンチレーション”を持つ。接近戦は自殺行為と言えた。
「要塞は最後の砦だ。陸上部隊は要塞西側へ展開。海軍と空軍にも協力要請を…弱点破壊までは偵察隊含め奴の周囲3キロ圏内には絶対に近付くなと伝えろ。」
長官が作戦を決定する。
この世界には怪獣をやっつける専門の防衛隊は存在しないため、陸に怪獣が出現した場合は陸軍が、空の怪獣は空軍が、海の怪獣は海軍が相手にすることになっている。
「一帯に避難指示を。要塞西側はこれより戦闘配備。」
御殿場、笛吹、甲斐、甲州、大月、都留、上野原と現在怪獣が目前に迫る富士吉田に避難指示が出された。同時に東京要塞は戦時体制に突入し西部一帯には警報が発令された。
…………
御殿場付近
陸軍第一機甲師団
第2、第4戦車中隊
5式戦車
第一機甲師団は陸上自衛隊第一師団第一戦車大隊の規模を拡大した組織だ。増強に従い新規に開発された5式戦車で構成されている。
「目と鼻の先で良かったな。」
「でも近付くなとの命令だからなぁ…」
怪獣は富士吉田付近へと進行。
この場所は丁度陸軍の駐屯地のすぐ傍だったため、彼らは30分もしないうちに展開を終えていた。
「3キロ圏は間もなくです。我々の出番は直に来るでしょう」
「背中の結晶を破壊出来たらだが。」
ダイヤモンスの力の源…恐ろしい超能力を生み出す力の根本は背中の突起にある。
背中の突起さえ破壊出来れば殲滅攻撃“シンチレーション”は封印され、接近戦に持ち込める。
実際は弱点というわけでは無く破壊されても怪獣本体の能力はそのままで突起自体も数時間後には修復されてしまうが、一時的でもブレスや範囲攻撃を阻止出来るのはとても大きい。
ただこの突起は流石にダイヤモンドというだけあって凄まじく硬く、並大抵の火力では破壊する事は不可能だった。幸いなことにダイヤモンスをはじめとする大怪獣は結界…バリアを張る事は殆ど無いため、直接攻撃が可能という点だろう。
この部位破壊の任務は海軍と空軍に任されたが、怪獣を仕留めるのは陸軍の仕事だった。
………
伊豆半島沖
海軍“連合艦隊”第一水雷戦隊第三駆逐隊
旗艦 駆逐艦吹雪
吹雪型駆逐艦は、新生国防海軍初の駆逐艦である。
敵の軍隊よりも恐ろしく巨大で強い物を相手にすることを想定し武装は大幅に強化された。
巨大怪獣の出現に備えて、海軍も増強されている。
他国における主力艦…大型の空母こそ海上自衛隊時代からの伊勢型、出雲型のみだが吹雪型をはじめとする強力な新型ミサイル駆逐艦や巡洋艦は計画的に建造されてゆき、現在の海軍は大怪獣を相手に戦えるだけの戦力を保有していた。
「“長槍”は使えるな?」
「問題なく使用可能です。いよいよですね」
長槍とは3年前に制式化された新型の艦対地ミサイルだ。射程は中距離だが徹甲仕様の貫通力は怪獣の硬い皮膚を貫く事を目的として開発されたため深さ60メートルの地下壕をも破壊可能という。
「この戦いは雪辱戦だ。我々もやられるだけでは無いさ。」
最後に出現した大怪獣が倒されてから5年。人類はただ時を過ごしていた訳ではない。嘗て歯が立たなかった怪獣を確実に葬り去るべくあらゆる新兵器が研究、開発されて実戦配備されていた。
彼らは生存のため出来ることは何でもやる構えだった。
例えば現在は鹵獲した侵略宇宙人のテクノロジーや怪獣の超能力やそれを元にした必殺技の解析が進んでいて近く、それらを元にした新兵器が誕生するだろう。
……
厚木航空基地
空軍 第3航空群 第901航空隊
入間基地や厚木基地には今も昔も変わらず戦闘機は配備されていない。
首都防空の任務を負うのは茨城県の百里基地に在籍する第7航空団の戦闘機隊になる。
本土に攻めてくるのは人間の乗る飛行機だけでは無くなったため、こちらの戦闘機隊も増強されたが、厚木基地と入間基地には別の“切り札”が配備されていた。
「いよいよか。こいつの出番は…」
「やっとこの日が来ましたね…」
整備士やパイロットたちが見上げるその切り札の名を、“XA-5攻撃機”という。たったの6機だけ先行配備されている新型ヘリコプターだった。
この新型機の特徴はAH64Dアパッチロングボウと比較すると最高速度が200キロ程度に押さえられている事だ。そして形状は4つの小型プロペラで飛行するドローンのような姿をしている。
この機体はただ一つの目的…怪獣を退治するという目標で設計されていて、この機体を知る物からは「ヴィラン・キラー」の相性で呼ばれている。
強い俊敏性と操縦のしやすさから市街地へ入り込む事も可能とする。短距離の敵には40ミリ機関砲で、中距離の敵にはロケット弾と小型ミサイルで攻撃し今回のような接近出来ない戦いでは105ミリ砲徹甲弾・榴弾によって狙撃するなど怪獣退治のエキスパートとなる新型機だった。
そんな彼らは今回初めて出撃命令が下り、意気揚々と出撃準備に取りかかっていた。
…………
陸と海、そして空…想いと願い、そして決意はただ一つ。
勝利を目指し、国防軍は大怪獣に挑む。
人類VS大怪獣…5年ぶりの決戦が始まろうとしていた。
陰謀によって大怪獣が目覚めてしまいました。
新生国防軍は、特に増強されてからはこれが初めての実戦になります。
大怪獣ダイヤモンスは人間の生身の生贄と、ダイヤモンドを求める人々の欲望や悪意などをエネルギーとして吸収し、たったの2,3週間で急速に成長しています。




