電撃☆殺虫器
残酷な表現があります。
「旧妖精帝国を攻めるだと!? 皇帝陛下は馬鹿でないのか?」
手紙を受け取った将軍、ソラ・ウェイバーはあまりの先見性のなさに激怒していた。
「いかに現皇帝家の甥とはいえ、それは不敬すぎるのでは? とにかく伝えましたゆえ……」
使者は答える。
「こんなことをどう、コーリンに言えばよいか……」
ソラ・ウェイバーは現在ウェイバー家で演習の指揮を取るコーリン・ウェイバーのことに思いを馳せる。妖精族たちとの信頼関係もようやくできてきたところで、次の戦争に向けて臨戦態勢に入りつつあるような状態のときの急な方針転換。
ソラ・ウェイバーはそんな裏切り行為に腹が立った。
そして頭を抱える。妖精族たちを取り仕切るコーリンにこんなことが知れたらどれだけ怒り狂うか知れたものではない。ウェイバー家は一族全体が武闘派なのだ。いざとなれば誰であろうと手や足が出る。
「これほどの重要な案件、まさか冗談とか乱心とかいうこともあるまいが……」
気に入らない。とにかくソラ・ウェイバーにはこの戦略が気に入らなかった。
――メキド共和国の人口は多く、攻略には時間が掛かる、だから妖精族たちが大厄災と呼ぶ能力の低下に合わせて旧妖精帝国を叩く。確かに理屈の上ではそうだろう。だが、今もって妖精族たちの能力は高い。たとえ時間が掛かったとしてもメキド共和国であれば1ヶ月もあれば落せるハズ。すくなくともウェイバー家内での内偵ではそう見積もっている。それなのに――
現行の妖精族たちを止める算段も裏では進行しているとのこと。これは将軍であるソラ・ウェイバーでも知らなかったことだ。
――何者かが皇帝陛下の裏を引いているのか?
まっ先にソラ・ウェイバーはそれを疑った。だが、さすがに皇帝陛下は身内の系譜であり内偵等行っていない。それが今は痛かった。
そして、時間がない。指令は可及的すみやかに実行せよ、だ。
不満があったとしても、ソラ・ウェイバーは帝国の将軍として行動を起こさなければならない。
「妖精族たちを殺めるだと!? 皇帝陛下は馬鹿でないのか!!」
行動のために呼び寄せたコーリン・ウェイバーの反応は、血族のサガなのかソラとまったく一緒であった。
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エンパイヤ帝国軍演習場――
ぱんぱん。
コーリン・ウェイバーは二拍手する。音に反応して妖精族が全員群がってくる。
コーリンの隣には衛兵。
「んー。なになにー?」
「ごはんー?」
「ごはんにはちょっと速いんじゃない……」
「ねぇねぇー。コーちゃんなんでそんな暗い顔してんのー?」
「これで全員か?」
そこに衛兵が問いかける。
「あぁ……」
「あんれー。コーちゃんなんで泣きそうになっているの……」
「すまない……」
「ん? どしたん?」
「ねぇねぇ、なかないで」
妖精族たちがコーリンをなだめようとさらに近寄った、そのとき。
「ここはエンパイヤ帝国演習場近くの小屋だ――」
衛兵がつぶやいた。
その瞬間、妖精族たちが硬直し、文字通り地面へと堕ちた。
「ぎゃッ」
「きゃー」
そこに衛兵の足が飛ぶ。
妖精族たちがまるでゴキブリのように踏み潰されていく。
「な、なんで……、なんでクリックが効かないの……」
それは強制的に発動する各人が故郷とする場所変更許可要求のイベント実行。
イベント実行により身動きが取れなくなった妖精族たちは墜落するしかなかったのだ。
演習場にできあがる血の海。
『ここはエンパイヤ帝国演習場近くの小屋です。各人が故郷とする場所を変更しますか?
(Y/N)』
ある妖精族は発生するイベントに気づきすぐさまyesを押すが次の瞬間、衛兵の新たな、
「ここはエンパイヤ帝国演習場近くの小屋だ――」
発言が再度強制イベントを発動させ、すぐに身動きを封じられてしまう。
そして有無を言わさぬ虐殺。
演習場に血の海が広がる。
妖精族は一騎づつ消滅し光りとなって消える。
「どうして、コーちゃん」
「私たちは殺したって死なないのに……」
「すまん。本当にすまない……」
ついに泣き出すコーリン・ウェイバー。
だが、死してなお、さらなる悲劇は続くのだ――
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エンパイヤ帝国王都、演習場近接の小屋。
スキル使いである妖精族は死ねば各人が故郷とする場所で生き返る。だがその各人が故郷とする場所に何か物が置かれていたとしたらどうだろう? 例えば針金。普通の強度のものではスキル使いにとってはなんともないかもしれない。だが、それが同じスキル使いの生産者スキルによるものであったとしたら? 針金の張り巡らしが、盗賊の罠スキルによるものであったら?
その答えがここにある。
「ぐぎゃーー」
「ああああああぁぁぁぁぁぁー」
「やめて…、もう赦して……」
コーリン・ウェイバーについて来ていた妖精族たちは便宜性を図るため、全員の各人が故郷とする場所をここに変えてある。つまり死ねば必ずここに召喚され、必然的に張り巡らされた針金のトラップに引っかかることになる。
復活した瞬間、身体中を貫く張り巡らされた鉄線。そのダメージは相当なものだ。
5分と持たずに消滅し、精霊光となって消える。
だが復活する場所はまたこの場所。
すぐに妖精族たちの身体には同じように激痛が走り続ける。
何度も、何度も。継続する激痛は精神をも滅ぼす刃。
しかもこの小屋には従来の魔法を発動させない精霊よけの結界が設定されていた。
従来の魔法で封じられる魔法は精霊魔術師(4th user)だけではあるが、妖精族たちにとってはそれで十分だった。妖精族たちの持つ魔法スキルは攻撃のための精霊魔術師(4th user)か、回復のための精霊の巫女(Script Healer)しか所持していない。回復魔法では針金をどうこうすることはできず、そして攻撃のための既存の妖精族固有スキルは当然のこと、精霊魔術師(4th user)を封じられては筋力(STR)の低い妖精族たちにはもう、どうすることもできないのだ。
砂糖大好き「な、なんなんだよこれは! 酷すぎるだろうが! 運営はなにしてるんだよ!」
アリーナー「あぁ、あがあああー」
あがる悲鳴。通常では絶対に発声が難しい音域の声色。
アリーナの魔王、佐藤は大いに慌てた。
自宅で仕事をしながらこっそり開いていた『魔王になろう』のウィンドウ。
そこで始まる突然の悲劇。
砂糖大好き「だれだよ。衛兵の魔王って誰だ! しかも平日とか。絶対抗議してやる」
アリーナ 「く……、あ……」
見ているうちに針金によってアリーナが蓄積ダメージで死ぬ。
これで2回目。だが復活してもすぐに蓄積ダメージが発生し始める。
こんなのを繰り返したら、狂ってしまう。
佐藤は状況を確かめ、一つだけこの状況から逃れられる方法を思いついた。
だがそれをするにはわざわざ課金してまで入手したアイテムを消費しなければならない。
公式リリース後に使おうとしていた高額の経験点蓄積アイテム。
この時点で使ってしまえば公式リリース後のスタートダッシュは当然取れなくなる。
だが公式リリースは数週間後だ。それまで使うのを躊躇っていてアリーナはこの痛みに、精神が持つのか?
この異世界はあらゆるものがリアルすぎる。
もしかしたらアリーナは廃人状態となってしまい、もとに戻らなくなってしまうのでは。
佐藤は恐怖した。
躊躇わず事態を打破するために最適のクラス選択をする。
空間魔術師(Sky walker)
普通なら絶対に選ばれない移動術ばかりの玄人向け支援クラス。
佐藤は身動きの取れないアリーナに代わり、その魔術スキルのアイコンをクリックした。
空間魔術師 Level.30 スキル≪瞬間転移≫




