物理で殴れ
「秘境≪グンマー≫」
左手に鍵を持ち、空中庭園へ行くための詠唱を行うと右手が勝手に上へと伸ばされパチンと小気味良い音を指が鳴らす。するとそこに金色の光の紐が現れた。
ジアが手を伸ばした瞬間、ジアの身体は転移し、空中庭園の入り口に飛ばされる。
そこには大きな畑が広がっていた。中央には一見の小屋。
空中庭園、秘境≪グンマー≫は暗殺を謀るような敵は存在せず、ジアにとっては安心できる場所の一つだ。
「ジア姫様。このたびは――」
「あ、どうもこんにちわ」
畑で働いていたのはゲィード家からの農夫。そして数匹の妖精族だ。
農夫は立ち上がりジアに対して礼をとった。
「ネーム様はまだこちらには?」
「はい。実はそのことなんですが……」
口どもる農夫。
ネームの名前は昨日から派閥のリストから消えており、心配してその確認のためにグンマーに来て見たのだが。
「実はネームさまは皇帝からなにやら謹慎処分を受けたようでして、しばらく来られないと……」
「謹慎処分!? 理由は? 期間は?」
「理由はさすがにわたくしどもでは……、期間は2ヶ月だと……」
2ヶ月。
ジアはそのときに発生するイベントに覚えがある。
公式リリースだ。
「一体なにが起こっているの……」
「わたくしどもでは分かりません……」
申し訳なさそうに謝る農夫。確かに農夫の立場ではろくな情報は集まらないだろう。
そして今は昼の時間。タッキーに問いかけけることもできない。
いや、問いかけてまともな答えが得られるのか。
ジアは最近の急速な変化に戸惑いを覚える。
空中庭園。
妖精帝国との併合。
イベントホライズンによるイベントの配布。
そして2ヶ月後に迫る公式リリース
あまりも急速すぎるのではないだろうか。
急速すぎる進化は反発を受ける。
『その悩み、解決してやろうか?』
ふと目をそらすと道脇に1匹のスライムがいた。
特筆すべきはその身体に付けられたステータス表示。
『名前:視線の48
HP:500/500
MP:30/30
SP:30/30
種族:スライム
性別:♀
職業:魔物 Level 15
ジョイント:なし
称号:チーター』
それは、喋る魔物だった。
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「スライム? チーター?」
ジアは身構えた。どこかで聞いたことのある言葉だ。
急速に血の気が引いていく。
Level 15。低レベルとはいえ何をしてくるか分からない未知の相手だ。
いつでもスキル≪次元の壁≫を使えるようにアイコンウィンドウに手を伸ばす。
『そんなに慌てなくて良いよ。こちらに敵対の意思はない』
スライムは語る。
その声は直接脳に響くようになっているらしく、実際には耳からは聞こえない。
「あなたは、誰?」
『私は≪視線の48≫。始めまして公式勇者ジア』
「なぜ、魔物がここにいるの?」
『ロージス家の『猫の』さんに運んでもらいました。公式勇者の貴方に会うために、ね』
「なぜ?」
『この世界は破滅に向かって走り出している。雷精霊群の技術基盤機構の手によって。そう思わないかね』
「そんなことは……」
『スキルとはこの世界には存在しない、本来あってはならなぬモノ――』
「そ、そんなことは……」
ない、とはジアには言えなかった。
ジアの行動によって、確かに世界は壊れ始めている。
ジアはそれを実感してししまっているのだ。
『少数のいまならばまだいい。しかし、これから起きる公式リリースでほとんどの人にスキルがばら撒かれたらこの世界はどうなる? その目で見ただろう? 破滅の火炎が地域を破壊する様を。スキルを持った誰かが、それこそ遊びで使えばそれは世界が破滅するほどの力だ。先の戦争を思い出せ――』
魔王ロロは一撃で1万の兵士を皆殺しにした。
公式リリースによってスキル使いとなった人たちが将来経験を溜め、その力を簡単に振るえるようになったら?
今ですら、妖精帝国の併合やメキド共和国への侵略など世界が急速に変革している。それが加速したら、一体どうなるというのか?
各人が故郷とする場所の変更権限を配っているのはジア自身だ。ジアは、自分の決断の一つが、さらにこの世界をさらにめちゃくちゃにしていることを知っている。
「貴方は――どうしたいというの? 私に何をさせたいの?」
『簡単なことだ。少しの間だけでいい。≪解析≫させてくれ』
「≪解析≫、ですか?」
『そう、≪解析≫。公式勇者の力を展開すればこの世界からスキル使いを一掃できるかもしれない。そうすれば世界は元どおり、スキルのない平和な世界が訪れる』
「平和な世界――」
ジアは動揺する。
「さぁ、受け入れるがいい」
スライム≪視線の48≫がにじり寄る。
『あぁ、言うのを忘れていたが、≪解析≫するためにちょっと脳がとろけるかも知れないがな。なあに、死ねば各人が故郷とする場所で元に戻るさ』
そう言うと、素早くスライムがジアに飛び襲い掛った。
だが、あと数センチというその瞬間。ジアの身体が掻き消える。
『なにッ』
すぐ後方に再び姿を見せるジア。スキル≪瞬間転移≫だ。
ジアは伊達に何度も殺されているわけではない。反射神経はかなりの練度で鍛え上げられている。ましてやスキルの発動はアイコンのボタンクリック。瞬間的に避けることなど造作もない。
「次元の壁」
ジアはスライムとの間に魔法壁を作り上げる。
スライムは何かを飛ばしたがその壁に阻まれた。
『ただの防御壁だろう。それではスライムである我を倒すことは出来ないー―』
スライムがあざ笑う。
本来であれば攻撃のためにその魔法壁を「壁ドン」しなければならないが、周囲一体は畑でありそれはできない。壁を押し当てるな何かがなければ圧殺することはできないのだ。
だがジアはそれを無視して壁ドンを実行した。押されるスライム。
続けて押された反対側にジアは≪瞬間転移≫をすると、再び次元の壁を作り上げて――
2枚の魔法壁に挟まれてプレスされたスライムは面上に引き伸ばされて死んだ。引き伸ばされ分解されるスライム。精霊光が走る。スライムは消えていった。
ロロ「あぶなかったな」
そこに左下のメッセージウィンドウからメッセージが入る。
ジア「ロロ様?」
ロロ「あぁ。そこの死んだスライムはセーブポイントを書き換えて『お仕置き部屋』に連れて行ったから安心しろ。このスライムを自機とするやっかいな魔王も特定ができたからこれから始末しに行くところだ。
物理的にな」




