妖精連帝国(フェアリー・エンパイヤ)
凍りつくような銀色の巨城。
その名を、エンパイヤ・ステート大宮殿。
その中を進む500騎の妖精族。
中央に妖精帝国の皇女リカーニャ・キルデワルド四世。
彼女たちの進むその先で対するはエンパイヤ皇帝。
それらを取り囲むように人間の群集がその成り行きを見守っている。
緊張で誰も話さない。
聞こえるのは妖精族の小さな羽音のみ。
二人の間には台座があり、2枚の約定がその上には置かれている。
約定に互いに署名を入れる妖精皇女とエンパイヤ皇帝。
帝国74年。後にステート宣言と呼ばれる歴史的な会談はいま、クライマックスを迎えようとしていた。
「「いまここに、エンパイヤ帝国の妖精帝国の併合が成立したことを宣言する!」」
2人の声が響く。
おおぉぉぉー。
今まで息を呑んでいた周囲の妖精族たちや群集から声があがる。
「ということで、これからよろしく頼むぞ。公女」
「まずやるべきことはそうだな。併合を周囲に認めさせるため、地域に戦力として配下の妖精族たちを展開することか」
「うむ」
妖精皇女からの打診にエンパイヤ皇帝が頷く。
過去に妖精帝国に攻め込み、数日も掛からず全滅の憂き目に落ちたこともあるエンパイヤ帝国としては妖精帝国の併合は悲願であるとも言える。それがあっさり手に入った。それも先の仮面舞踏会から妖精族の精鋭がエンパイヤ帝国の――皇帝の出身であるウェイバー家の騎士団に帰属してから始まる縁であった。
「こうして簡単に併合できるのであれば、もっと早くから打診しておけば良かったのかな? キルデワルド公」
「ふふふ……、物には順番というものがあるもの。私たちはスルターナの民とは良くしております。スルターナがエンパイヤに帰属し、うまく安定してからこそ決断できたというもの」
妖精帝国からの打診。それが今回の電撃的な併合劇の正体。
無血での併合といえば、すでにスルターナ家という前例がある。そのときの騒動をみて、妖精族たちも安心して帰属ができた。というのは妖精公女の言だ。
「そして2ヵ月後の大厄災か」
「えぇ……、それまでにある程度地位を確立しておく必要も、こちらにはありますからね」
それは妖精族たちを手駒にするためのサイン。
新たなる本格的な戦争への序章。
雷精霊群の技術基盤機構の手により『魔王になろう』の正式公開リリースを2ヶ月後に行うと正式なアナウンスがあった、3日後のことであった。
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タッキー「はぁぁああーーーー。なにこれぇぇぇー。いきなり帝国同士合体してんだけど、唐突すぎだぜ?」
GM3 「え、だってタッキー、ジアちゃんの暗殺止めるってこの前いったじゃん。こんなイベント起こされたらヴァリエール家だって暗殺とかやっている場合じゃなくなるし、政治系完封なのです。スルターナ家の無血開城にも増えておくことがキモ」
タッキー「酷い。酷すぎる」
GM3 「ほら、ある程度正式リリース始まる前に政治系統合しておかないと管理が大変かなぁと」
タッキー「あぁ、大抵のMMORPGってば下地になる国って大抵連合組んだりとかしてMOBと戦おうみたいな感じになるからねぇー。でもそれ楽しめない人もいるんじゃ? 政略好きの人もいるだろうし」
GM3 「いやぁ、難しいのはちょっと……」
タッキー「おーぃ。それでも運営かよ」
GM3 「それにねぇ、正式リリースするんだったら既存プレーヤーとの格差を縮めるために、レベルとか調整しないといけないのです」
ジア 「え、なにそれ聞いていないですわ」
GM3 「そりゃ言っていないからねぇ。それで慌てて妖精帝国が保身に走ったんだね。レベル零になってかつスキル使いが人側に増えまくる状況で妖精帝国攻められたら、さすがにひとたまりもないのです。どーん」
タッキー「おいおい、レベル調整ってレベル零から開始ってそれはないだろう。あぁ、だから『大厄災』か。ようこ。また今度おしおきね」
GM3 「きゃー(喜。でもジアちゃん安心して。ジアちゃんはぼくたちのプレーヤーだから現レベルのままだから」
タッキー「うわ。さすが運営。卑怯すぎ汚い」
GM3 「だっていいじゃない。公式勇者なんだもの」
タッキー「ソウデスカー。ソウデスヨネー(棒」
GM3 「で、ジアちゃん、ジアちゃんにはお願いしたいことがあるのです」
ジア 「なんでしょうか?」
GM3 「そんな身構えなくて良いから。これで、暗殺回避に向けてイベント系は暗殺によるスキルポイント配布停止で止めて、政治系はイベント起こして止めたでしょう。後は回復系――2ヶ月後には人がどばどば入って来るから良いとして、その前の下準備をしておきたいんだよねー」
ジアー 「それは?」
GM3 「あぁ、MMORPGによくありがちなNPCの配置さ」
●思惑:妖精帝国
旧妖精帝国領:妖精都市ボブバレンシュタイン――
「あんな簡単に併合などして、大丈夫なのでしょうか?」
妖精公女の側近が妖精公女に問いかける。
「人はずる賢い。幾ら今恩を売っておいたとして、後でどのようなことになるか……」
「やめよ。すでに賽は投げられている」
そう、既に投げられたのだ。妖精公女は天を仰ぎ見た。
国外退去にさせた妖精族たちはその殆どがエンパイヤ皇帝の師団に入ったと聞く。数としては100騎程度だ。2ヶ月と迫った『大厄災』前に彼女らはどこか戦場に行くとの話であった。それであれば何かあったとしても、ここ旧妖精帝国からは遠い場所で行われることだろう。
そしてそれはスキルを使った蹂躙だ。そしてそれは電撃戦になるだろう。圧倒的な力で、全てを破壊する。その恐ろしさはそのスキルを持つ妖精公女自身が良く知っていた。
「『大厄災』か。雷精霊群の技術基盤機構もやってくれる」
それだけの破壊を起こせば、復旧させるには大変な時間が掛かるし、復旧させたころには『大厄災』によってレベルが零になった妖精族たちであってもある程度レベルは復活するであろう。そうなれば人間のスキル使いが増えたところでどうということはない。
『大厄災』――
それは、全てのスキル能力をリセットし、新たに多数来るといわれる異界の魔王達とのレベルを調整するイベント。妖精公女の魔王からは「当日はアイテムボックスの中身もクリアされちゃうからなるべく外だししといてねー」などと言われている。
しかし、こんな重大なイベントであるにも係わらずなぜこんなにも魔王のノリは軽いのか。レベルが零になることになぜ憤りを感じないのか。そしてなぜこんなにも楽しそうなのか。妖精公女としてはさっぱりわからない――
●思惑:エンパイヤ帝国
エンパイヤ王都:エンパイヤ・ステート大宮殿――
「乗ってきましたね。妖精帝国の皇女はこんなに簡単に交渉が進むとは思っていませんでした」
「あぁ、面白いように釣れたな」
「は?」
はずむ声の少年。それに答えるエンパイヤ皇帝。
少年の名はネーム・ゲイード。ゲイード旧王家の嫡子。
だが皇帝の「釣れた」発言に戸惑う。
「今回集める兵は前回の10倍の約10万。だがそんなことは関係ない。そこにスキル使いの妖精族が100もいる。メキド共和国を1ヶ月で落とすには十分な量だとは思わないかね」
「はい。スキル使いが100もいればもはや10万も兵が必要なのか疑問に思うところですが」
「あぁ、メキド共和国の兵士だけを墜とすだけであればな」
「??」
そこでさらにに戸惑う少年。
いまや西方側の憂いは妖精帝国を併合することによって抑えられている。
とすればこの規模での制圧となれば南方のメキド共和国以外に考えられないのではないか?
「ところで≪針金≫の用意は大丈夫かね」
「?? はい。いまのところ順調です。あの程度、彫金のスキルがあれば造作もなく――」
「頼むよ。スキル使いの妖精族攻略の鍵となるのだからな」
少年、ネーム・ゲィードがスキル使いであることは既に皇帝には知られている。当然だ、自ら語ったのだから。
少年はゲイード旧王家の嫡子という一点でスキル使いのことを皇帝に知られても自分に害はないと考えていたため、スキル使いのかなり多くのことを皇帝に喋ってしまっていた。
しかし、皇帝は今何といった? 妖精族の攻略だって?
「ま、まさか皇帝陛下。10万の兵力で旧妖精帝国を攻めようというのではないでしょうね?」
「ほぅ。分かるかね」
「いけません。そのようなことをすれば――」
「ゲイード王家が旧王家になったときのように、また大敗するのではないか? か?」
「そ、そうです。そんなことをすれば帝国の精霊術士なども黙ってはおりますまい」
「だが今攻めなければ今の100騎程度ではなく、妖精族の大半がスキル使いとなってしまう。知っているか? いま有名な異世界人の別の異世界を旅するゲームは最大で会員登録数350万件以上だという。そんな数がスキル使いになってしまえば、帝国のキャパシティーを超え、もはや人だけでは足りない。妖精族たちにも大勢のスキル使いが誕生してしまう。そうなってしまえばその後の攻略は一切不可能だ」
「だからどうしたというのです。妖精族は味方でしょう?」
「あぁ、今は確かに味方だろう。だが今後どうなるかは分からない。メキド共和国は大国はいくら10万の大群といえど1ヶ月で全滅させることは不可能だ。それは相手も同じ。しかし妖精帝国は総数1,200騎程度。注力すれば殲滅することは可能だろう。今ウェイバー家にいる妖精を拘束し、妖精帝国を殲滅できるスキル使い使いがいれば」
「誰です? そんな愚かなスキル使いは?」
ここでネームは始めて自分とは別のスキル使いが皇帝に付いていることを知る。一体誰が――
「知る必要はないな。とりあえずあと2ヶ月待て。それで全てが片付く。ゲイード家が王家から没落する遠因となった妖精帝国を潰せるのだから簡単であろう」
「お待ちくださ――」
「ゲィード家には2ヶ月の謹慎性分を申し渡す。罪は私への不敬罪だ」
皇帝に睨まれネーム・ゲイードは押し黙る。
「くれぐれも。変な気を起こすなよ。衛兵! ゲィード家のものを連行せよ」
「「ははッ」」
ネーム・ゲィードは連れてかれていった。
一人、皇帝だけが残される。
「あとはコーリン・ウェイバーの説得と、ジア・スルターナ・アフタースクールの聖戦モードか……」
≪針金≫も用意した。
スキル使いの妖精族を倒す算段も付いている。
後は、人を丸め込むだけだ。
皇帝は、これから起きるであろう狂気の戦場に思いを馳せた。
●思惑:妖精族アリーナ
エンパイヤ王都:ウェイバー家演習場――
「だいやくさーい♪ だいやくさーぃ♪」
妖精族アリーナの浮かれた声が響く。
「アリーナちゃーん。レベルダウンするのに浮かれるってどういうことよ?」
アリーナは大厄災の話を魔王から聞いた後、上機嫌だった。
仲間の妖精族は呆れ顔だ。
「えーだってぇー。大厄災が始まったらようやくわたしの魔王がクラス選択してくれるんだよー。もう嬉しくってー」
「そもそも魔王なんか無視してクラスを自分で勝手に選択すればいいじゃない」
「ちっちっち。分かってないなー。あたしは魔王をそれなりに愛しているんだぜ」
アリーナは仲間の妖精族にアイテムボックスから1本のビンを取り出し見せびらかす。
「じゃじゃーん。課金アイテム『経験点蓄積ビン』!」
「「おー」」
「これで経験を保存しておけば大厄災後、一気に使って他の人たちと差を付けられるんだぜ。もう大草原wwww」
「「なにそれ欲しいー」」
「あげれませんよー。課金アイテムだから譲渡不可でーす」
「んー。でもでもー。大厄災時にアイテムボックスの中身もクリアされるんじゃなかったでしたっけ?」
「課金アイテムだから大丈夫だってー」
「アリーナちゃん愛されてるねー。それ1個1百万円でしょー」
仲間の妖精族がウィンドウを操作して確かめる。そこには確かに、
経験点ためるーん?:1百万円。
というアイテムが記載されていた。
「えへへー」
アリーナは照れたように笑った。
今までスキルがまともに使えなかった苦労がこれで報われる、と――




