告白
それは黒塗りの外車だ。運転手は黒服のいかつい男だった。
これが外交官車両というやつだろうか。
ナンバープレートがなんか変だった。
車の後部差席に乗るタッキー、ロロ、ジア。
両手に花の状態だが、タッキーはそれどころではなかった。
とても話しずらい。
「いやー。本当はオブ○レーでバリバリ音を響かせながらタッキーの家に突入したかったんだけどねー。さすがにじいやに止められたんだよ。わたしに逆らうなんていい根性していると思わない?」
その沈黙をやぶり、まじめな顔をしていたロロが突然笑い出した。
いや、ナイスだじいやとかいう人。
きっと黒のタキシード&蝶ネクタイでちょびヒゲとか生えているに違いない。
「で、俺らをどうする気なんです? ロロ姫?」
「いや、タッキーまで連れ去る気はなかったんだが、ついのりで。あのままジアちゃんだけ連れ去ってもタッキーは心配するだろうし。 それとも心配しないのかな?」
「そりゃしますよ」
「だろう? ヤツ――タッキーの親父さんには後でいっておくけど、とりあえず2、3日でがんばって口裏合わせをしようじゃないか。うちの領事館でちょっと美味しいものでも出すからさ。えせイタリア料理とか」
「俺、学校あるんですが」
「送り迎えしてやろう。この車で」
黒塗りのリムジンで学校に登下校――
そのシーンを想像し、タッキーは断固拒否をし、最寄の駅までで妥協した。
「ちっ……」
舌打ちするロロをタッキーは見なかったことにする。
「しかしネタかと思ったら本当に外国の方だったんですね――。氷河剣の動画見たときからなんとなくそう思ってましが」
「あぁ、ちょっと本国内で内戦があって、かなり長引いてしまったから、なんとか終わらせたいと思ってね……。でも終わらせるにあたって、ちょっと危ないものとか使っちゃたもので、いまだ本国とは友好関係にはあるんだが追い出されてしまったんだよ。それで友好関係にある日本に来たわけさ。あ、これは秘密ね」
「そ、それは……」
超国家秘密っぽい内容をいきなり話さないで欲しいとタッキーは思う。
「まぁ、それでようこと知り合って魔王認定されて今は雷精霊群の技術基盤機構とかで遊んでいるわけよ――。お、ついたみたいだね」
そこは都心の一等地にある、周囲の高層ビル群からは場違いな洋風の屋敷であった。
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タッキーたちが来た洋風の領事館は3階建てだ。
1階が事務一般の場であり、2階以上がもてなし用のフロアであるらしかった。
その最上階に案内される。最上階は幾つかのフロアに分かれており、タッキーとジアはそれぞれ別の、隣同士の部屋を割り当てれた。
高級なホテルのような部屋。1室はロロ用だが、残りは客人用とのこと。
まず割り当てられた自室で休んでもらっていたところだが、そのジアの部屋にロロは訪ねていた。
「で、魔法使いたるタッキーに何か変なことされなかった?」
「いえ、大丈夫です」
「あらためて自己紹介しよう。私の名はロロ・イェンヘー・アスター。異世界ではミドルネームがラストネームになるから一部逆だけど、分かるよな? そして雷精霊群の技術基盤機構の一人。日本――あぁこの地域ね――からだと西側、西欧では東側に位置する小さいがアスター候国という国の一応姫ということになっている。異世界の姫? ちなみに妖精族のエアリの魔王だな」
「私はジア・スルターナ・アフタースクール。エンパイア帝国スルターナ公国の姫ですが……、この異世界ではなんの意味もないですね」
「意味がないこともないんじゃないかな? 少なくとも立ち振る舞いとかは異なってくるわけだし」
「しかし……、こちらの世界はすごいですからね――。魔王のいる世界。ここに来るときに乗った馬もなく走る魔法馬車。今も見える、天井できらめくきらめく光魔術。目の前の机一つとってしてもこんな精巧な作りは――」
「魔法馬車ではなく可燃性の油で動く自動車、光はLEDだな。机もそりゃ機械で作っているから精巧にはなるだろうさ。原理的にはすべて電力――、まぁ説明するのもめんどうだから魔法ってことにしておこうか。というわけで本題に入ろう。いいかな?」
「なんでしょうか」
「ジア姫。キミはタッキーこと滝川健によってこちらの異世界に勇者として、正確には使い魔として『召喚』された。それは理解しているか?」
「はい」
「『召喚契約』とは使い魔に魔力供給などさまざまな特典が得られるが、デメリットもある。それは使い魔がマスターに逆らわないように掛かる呪いだ」
「呪い……」
「ところで、ジアちゃん。キミはタッキーのことが好きかね?」
「?? いえ?」
「ふーん。ならばまだ大丈夫かな。
タッキーことあの魔術師とキミはシステム的に使い魔契約を結んでいるから、キミは魔術師のことがだんだん好きになっていくことになるんだよ」
「そんなこと――」
「ありえないとは言えないだろう? キミも見ただろう。あのスキルの力を。素晴らしい。あの素晴らしい力が、感情については制御できない、なんてことがあると思うか? 根本的な問題として、魔王が嫌いなプレーヤーなんていたらいろいろ成り立たなくなるだろう? 我々にとってキミたちは異世界で遊ぶための駒にすぎないんだから。少なくとも嫌いじゃないはずだ。だが、そんな強制的な恋にどんな意味があるというのかな。 ようこは≪運命≫とかジャジャジャジャーンとか言っていたようだけれども」
「――」
「強制的な恋が嫌であるなら魔王ロロは選択肢を2つ選ばせてあげよう。1つはこの契約を断ち切り運命にあがらうことだ」
「運命にあがらうって……。どういう意味です?」
「契約を切る。それでキミに対するこちらからの干渉はなくなる」
「そんなことをしたらスキルが使えなくなるのでは?」
「そうだね」
「それは困ります」
「困りはしないだろう。既にキミは妖精族達と友達になっている。それでウェイバー家とは渡りを付けたし、空中庭園はそのままにしておくから、ゲイード家にも親交は保てる。そして今回みたいなプレーヤー同士の無用な戦闘にも巻き込まれなくて済む。このまま公式勇者を続ければキミは何度も死ぬことになるぞ。今回みたいに」
「――もう一つは?」
「もう一つは魔術師にこちらから恋することだよ。だが『あの魔術師のことが好きか?』に対するキミのその答えは『いいえ』。確かに今はそうだとは思わないとキミは言った。だけど、このままずっと時が過ぎたら? 時間が経てばキミの心は、必ず魔術が精神を蝕むぞ。それは不本意だろう?」
「だからって、魔術に蝕まれないようにするために先に恋するのはちょっと……」
「だが恋するといっても恋の仕方は人によって千差万別だ。そこに付け入ればなんとかなるさ。うまくプレーヤーを操ってくれるタッキーがスキとか、ようこがスキなタッキーがスキとか。そんなスキは嫌いかね?」
「それはちょっと――不誠実すぎるのでは……」
「ならば本気でスキになればいいのさ。まったくもって勧めはしないが」
「ロロ様は……、どうして、そのようないじわるを言うのですか?」
「2つあるな。一つはわたしがタッキーとようこをくっつけたいからだ。もうキミがいなくても彼らはたぶんやっていけるし、キミは邪魔だ。2つ目はキミが心配だからだ。タッキーはキミが死んだらこっちに来れることを知っている。しかも常に全裸で。次に何か殺されてこちらの世界に来たとき、それともスキルを使えなくするぞとか脅されたとき、身体を求められたらどう対処する気だ? なにできない話じゃない。タッキーがキミのウィンドウを操作して≪瞬間移動≫を使えばキミをこっちの世界に強制連行できるし、垢BANすればスキルは終わるんだから」
ジアは考える。スキルが使えなくなることは絶対に嫌だ。
今この力を失えば私は自信がなくなり、またあの屋敷から一歩も外にでれなくなる。
まだまだ自分が自信を付けたわけではないことはジア自身自覚している。
たぶん私は今スキルが使えなくなったら、外にでることを諦めてしまう。そしてまたあの孤独な時をすごすことに――
身体をどうこうされることも嫌ではある。
でもタッキーなら? ジアはタッキーの姿を思い出す。
タッキーは別段イケメンではないが、そんなに容姿が酷いというわけでもない。ときどき突飛な発言もするが、それは自分とこの異世界との価値観の違いから来るものかもしれない。
そう悪くわない、そうも思うが、でもそう思う心は使い魔契約による強制だとしたら?
「私は、私は――」
身体を求められたらどうする?
言葉が心の中でリフレインする。
「あー。すまん。もう一つある。他には――私がキミのことを邪魔だと思うのはこの前倒されたからだから、という解釈も成り立つな。確かにいじわるをしたのかもしれん。まぁじっくり考えればいいさ。ようこを差し置いてキミにタッキーを渡したくはないが、タッキーと相談してみるのもいい。そこにいるんだし」
隣の壁を指し示す。
そこの寝室にタッキーはいる。
「そうさせて、いただきますわ……」
ジアはゆっくりと席を立った。
ロロの言葉から、とある考えが浮かぶ。
こんなことを言えばタッキーは怒るかもしれない。
だけど内緒のままよりは、たぶんいい。
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「タッキー。起きてる?」
ジアはタッキーの部屋の扉をノックする。
すぐにタッキーは出てきた。
ジアはタッキーの寝室に入ると、近くの椅子に座った。
さすがにタッキーとベットに座る度胸はない。
「どうしたんだ? こんな時間に……。ってそろそろご飯時か? 呼びに来たのか? なんでそんなに、泣きそうな顔なの?」
「この前、タッキーは言ったわよね。今度こっちに来たらその――、えっちぃなことするって……」
「あぁ、それでか。ノーカンだよノーカン。ありゃ半分俺も悪いんだし……。だいたいジアちゃんも俺のこと好きでもないのに……」
「私はタッキーのことスキですよ」
「――は?」
「ねぇ、ちょっと聞いてもらっていい?」
「ん? 何を……?」
「私は――、ね…、ついこの前まで、ずっと一人だったの。
ほとんどの時間、屋敷で暮らしていて。
だから、友達とかいなかったの。リナはメイドだし。
だから、あのときタッキーにいきなり召喚されて怖かったけど、これから何が始まるのか期待も大きかったんだ。
そして、タッキーやGM3? ようこと画面越しに話をして……。
世界を空から眺めたとき、正直感動した。
世界は素晴らしいって。プレーヤーっていいなって……。
それからちょっとだけ旅をして、数千人死んだり、私は2回死んだり、思い返すと酷いことばかりだったけど、でも楽しかったんだよ。
だから――。だから私はタッキーを手放したくたくないし。
手放すことなんて考えたくない。
だから、タッキーのことは打算で、スキ。
だから、ちょっとくらいなら……。いいよ?」
「打算でスキって…。まぁ嫌いじゃないだけいいか。
でもな……。
やっぱりジアちゃんなんか捨て身になってない?
そんなことしなくてもジアちゃんかわいいし。
手放したりなんかしないよ」
「じゃぁ、タッキーは私のこと、スキ?」
「え、えーっと。じゃぁ答えを教えてあげようか?」
ゆっくりとジアに近づくタッキー。
そして唇を――
「はーぃ、すとーっぷ! すとーっぷぅぅぅ! 2人でなにやってるんだナニを!」
タッキーの部屋にようこが入ってきた。
「大人の会話? ところで、ようこ、おまえどうやって入ってきた」
「ふふふ。ロロたんから貰ったこのマスターキーを見よ!
これで夜討ち、朝駆け。なんでもこーぃ!」
「いやそれ、襲撃用語だから。夜這いでもする気かよ。受けて立っ」
「おぉぅ。立たれてしまったかッ。はさておき、ごはんですよー。
今日はエセ洋食だってー、ハヤシライス! オムレツ! ナポリタン!
ジアたんもこっちの料理はいかがなのです?
ロロたんちのご飯おいしいよ?」
「ご相伴させていただきます」
「よーし、タッキーもいこー」




