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1つ目「なろうにイベントがぜんぜんない」

 魔王になって、ホンモノの異世界を異世界の住人と旅してみませんか――


 そんなコンセプトのMMO―RPGがあった。


 異世界に名前はない。地球に住んでいる我々の世界に名前がないように。

 しいて言うなら「なろうの世界」とでも言うのだろうか。

 うたい文句は「ホンモノの異世界と思わせる詳細/精密なグラフィック!」「ANIエンジンで作られたまるで中に人がいるようなキャラクター!」「社内でのチューリングテストにことごとく合格!」「アルファ版のいまなら『プレミアム専用回線』の使い砲だいでをグラフィックの読み込みが速い!」「魔王になろう史上最大のアカウント増大作戦」「爆速餃子!」などなど。


 だが彼は知っていた。

 ANIエンジン? つまり人工(artificial)無(-non-intel)能(ligence)のことだろ。チューリングテストに合格? そりゃぁ身内というあまあまな環境だったらいくらでもするさ。『プレミアム専用回線』? 笑顔になる動画サイトかよ。


 ある小説サイトの弱小小説の一つがベースとなっているというそのMMO-RPGは、聞いたこともないような名前の海外企業の会社が運営している。


 本当はどこか有名なMMO-RPGを運営している上場企業などに営業面は委託をしたかったらしかったが、ことごとく断られ、資金繰りにも困っているらしいというネタが会社が運営するブログには書かれていた。


「はん。そんなわけがあるかよ。アスター侯国の支援を受けてるくせに」


 ソフトウェア開発の技術者である佐藤勇気は寒い文言にため息を付く。だいたい、どこの企業がブログにわざわざその企業に不利なことを書くんだ? わざと弱っているところを見せて同情を誘っているようにしか思えない。


 佐藤がその1日のアクセス数が1000にも満たないような小説サイトを知ったのはたまたまだ。正確に言えば小説サイトを先に知ったのではないのだ。その小さな海外企業のネットワーク設備の敷設に絡み、企業(クライアント)の事情を調べて出てきたからであり、要は怪しい会社であったので億単位の取引するのに与信を取る必要があったのだ。その中で出てきた情報の一つ。


 そんな経緯で知った企業なのだが、たまたま会社の企業サイトを見ると「魔王になろう」と呼ばれるMMO-RPGのクローズドアルファテストの第2弾として、少人数の募集があるようだ、というのが分かった。

 佐藤は多少興味が沸いた。聞いたことのないような会社であり、どうせ人気のないサイトの悲しいゲームだ。何かの縁だしやってみてみるかという正義感も多少入った気持ちで、会員登録をしてクリックするとすんなりゲームのアカウントの登録が出来た。速いもの勝ちであるようだが、やはり人気はないのだろうか? 実はものすごい倍率であった。ということは後で知ったことだ。



 佐藤は最初の登録はできた。できたのだが――



 今回の募集は全て女性の妖精族(フェアリー)だそうだ。

 なにやら偏っているが意味があるのだろうか?

 ここは日本だから媚びるため、というのは確かにあるのだろう。だがそればかりというのはどうなんだ?

 しかし自分は男なのだから♂キャラを扱いたかったのだが。どうにもそういうわけにもいかないようだ。

 さらに抽選で「妖精帝国の女王がアタル!」らしいのだが、佐藤は女王ではなく普通の妖精族(フェアリー)であった。自キャラと思われる可愛らしい女の娘が、画面上で木に寝そべっている。トンボのような半透明な羽。それには淡いピンクのエフェクトが薄く纏っている。エルフを思わせるとがった耳。美しい身体ではあるが、体長は30cmくらいだろうか。そのためか容姿は多少幼く見える。

 佐藤はその画面を回転させたりズームアップしたりして楽しんだ後、ため息をついた。


「あぁ、こりゃダメだは……」


 その原因は魔王になろうのサーバ=クライアント間のパケット解析をした結果だ。送られてきたのは、あなたの流れる動画サイトと同じくストリームデータそのものだった。


 一般のMMO-RPGでは少しでもデータ転送容量を圧縮するためにオブジェクトのIDと位置情報といったものが送られてきてくるのが普通だった。であればクラッキングの余地もあるのだが、これはある意味画期的なクラッキングに対する防衛方法だと関心する。だが動画データの垂れ流しは性能の不足に直結する。技術力が高いのか、それとも低いのか悩ましい感じだ。


 では送信側はどうだろうか。さっそく妖精族(フェアリー)にアクセスしてみることにする。

 社内(笑)でチューリングテストに合格したというANIエンジン。

 魅せてもらおうか。


砂糖大好「こんにちはー」


 ハンドル名は気にしないで頂きたい。

 まさに今考えた名前もじりの思いつきなので。


アリーナ「ん? このメッセージウィンドウの紫文字。

ま、まさか。キミが私の魔王さま(マスター)か??!」


 やったー。と喜び飛び回る妖精族(フェアリー)。

 表情はすごく愛くるしい。

 時代は進歩したものだと関心する。

 その動画、じゃないMMO-RPGを見て、佐藤は始めて初音ミ○をみたときのような感動を覚えた。


砂糖大好「しっかし、さすがに喜びすぎじゃないのかね」


アリーナ「そりゃ喜びますよー。ジア様からアカウントを配布を頂いてからはや1週間。ようやく魔王が決まったのですもの」


砂糖大好「ははは。そんなに喜ぶなら赤飯でも炊こうか?」


アリーナ「いいですねー。魔王さま(マスター)の世界で作られてもこっちでは食べらないですけど!」


砂糖大好「ふむ。確かに」


 佐藤はまず普通に会話ができていることに驚く。

 佐藤が次に驚いたのは会話の音声の滑らかさだ。

 人工的に喋らせたのであればなんとなく違和感を感じるハズなのだがそれがまったく感じられない。多少女性的な高い声のようにも思えるがアニメ声と考えると十分許容範囲だ。これは凄いと素直に認識を改めた。送受信パケットはやっぱり音声データそのものだったが。まるで有名声優が普通に語りかけているように佐藤は感じる。ちなみにCVは斉――以下略似だ。素晴らしい技術力だ。


アリーナ「こっちには米はありますけど、小豆はないのでね。人血を使った血みどろの赤飯なら作れ――」


砂糖大好「やめろ」


アリーナ「う、はーぃ」


 どうやら妖精族(フェアリー)だけにお茶な点もあるようだ。


砂糖大好「それで、めでたく魔王さま(マスター)になったわけだが俺は何をすればよいんだ?」


アリーナ「まずはクラス決めですね! 剣士とか、魔法使いとか。他には支援職とかもありますよ。あぁ、やっと、やっとこの画面が開けるよぉ」


 嬉しそうに画面操作を続けるアリーナ。どことなく涙目になっている。クラス選択がそんなにうれしいのだろうか? 喜びが口調の変化として現れる。愛くるしく、まるで中に人がいて放送でしゃべっているんじゃないかと思わせるようなレベル。企業のブログサイトではメッセージウィンドウの文字と高低のある抑調であたかも感情があるかのように思せる技術とかいった文言があったが、そんな技術でなんとかできるような問題ではない気がした。では何だ? ホンモノの異世界なのか? 少し考えてそんなはずがあるかと佐藤は一笑に付した。


砂糖大好「ふーん。では剣士系にはどういのがあるんだ」


アリーナ「えーっと、剣士系ですか?


 近距離攻撃を主体をする剣士(Sword Dancer)、

 中遠距離を得意とする弓兵(Multi-Archer)、

 トリッキーな技や罠とかを得意とする盗賊(Attack burglar)


 なんてのがありますね。

 でも私はおすすめしませーん」


砂糖大好「なぜ?」


 普通初心者にやさしいのは剣士系じゃないのかね?


アリーナ「それは私が妖精族(フェアリー)だからでーす。体長30cmくらいでーす。

 なので剣士系とか取るとステータスにとてもバットな補正が……」


砂糖大好「だめじゃん」


アリーナ「だから魔法使い系がお勧め、とも言いがたいんだけどね」


砂糖大好「それこそなんで?」


アリーナ「魔法使い系には、


 四大精霊を扱う精霊魔術師(4th user)

 回復系を扱う精霊の巫女(Script Healer)

 その他、


の大別して3種類があるんだけどね」


砂糖大好「攻撃魔法系と、回復系かな? あと1つは――補助系かな?」


アリーナ「補助系とはちょっと違うかもですね。

その他は特殊な1種類の属性を極めたような魔法がほとんどっぽいよ。

精霊魔術師や巫女が初心者系ならこっちは玄人向け、みたいな感じかな?

たとえば、空間魔術師(Sky walker)とか、執行者(Programer)とか。でも私、飛べるからいまさら空間魔術師になって空を飛べるとか言われても……」


砂糖大好「それもそうか。意味ねーな」


 自身も開発を行う身としては執行者(Programer)はすごく気になったが、明らかに突っ込み待ちのネタにしか見えなかったので放置しようと佐藤の心の中で決めた。


アリーナ「私が妖精族(フェアリー)だから、という理由で精霊魔術師もお勧めしません。既にある程度使えるもの。それから回復系はー、周りにたくさんいるので――。エアリ様みたいに人化の魔術が使えるのは魅力的といえば魅力的だけれども」


 そういいながらアリーナは呪文を唱えた。

 炎の魔法が使えることのアピールだろうか。派手に光る炎が出現する。メラメラという音が聞こえてきそうだ。

 砂糖はステータスウィンドウにある「ジョイント:妖精族 Lev.3」で魔法を行使しているのだろうと当たりをつけた。


砂糖大好「うーん。あとは生産とかの支援系かな?」


アリーナ「支援系には、広報系/販売系/生産系の3種類ですね。


 物語を語ったり、作った商品の宣伝を担当する記者(Sunrizer)、

 商品を運搬、販売することに長けた商人(Mookari-Maccker)、

 なんでも作れちゃう生産者(Worker Holicer)


 さらに生産者系はスキル次第でにいろいろ別れるみたい。

 たとえば農耕関係の農家(Farmer)とか、料理人(Iron Chief)とか、衣服とかの生産をするコーディネイターとか、魔法のアイテムを作る錬金術士(Atorie)とか、死体を駆逐する退魔士(Taiwander)とか」


「なんだよそのモウカリマッカーって……、それにワーカーホリサーって、MMO-RPGの中でまで仕事してどうする」


 支援系は英語の説明が酷かった。モウカリマッカーに至っては英語ですらない。

 ぼちぼちでんな。


アリーナ「で、クラスどれにするの?」


砂糖大好「こんなネタネタしいクラス群の数から一つのクラスとかおいそれと選べられるかよ」


アリーナ「えー。そんなー」


 悲しそうな顔をするアリーナ。まぁAIならそういう反応するよな。しかしどんだけ表情のパターンを用意しているんだこのシステム、などと佐藤はクラス選択とは別のことを考えていた。


アリーナ「なんか簡単なのでもクラス選んでよー。スキル使えるようになるの私楽しみにしてたのにぃー」


砂糖大好「クラスは途中で変えられるのか?」


アリーナ「私単独では無理です。魔王さま(マスター)ならカキーンと呼ばれる特殊な力で変更可能とかリカーニャ様――妖精帝国の皇女様です――が言ってました」


 カキーン?


 あぁ、課金ね。

 佐藤は画面上のウィンドウを操作して課金の項目を開いた。


「キャラかえるーん?:300百万円。

 クラスかえるーん?:300百万円。※制限あり

 スキルかえるーん:100百万円。

 ステータスかえるーん:100百万円。

 容姿かえるーん?:100百万円。

 名前かえるーん?:100百万円 (1回のみ)

 CVかえるーん?:100百万円。

 光が消えるーん?:100百万円。

 RMTするーん?:売上の8%。

 経験点ためるーん?:1百万円。

 完全蘇生薬:100百万円 (※プレーヤーに限る)。

 万能回復薬:10百万円 (※プレーヤーに限る)。

 万能回復薬:10百万円 (※NPCに限る)。

 各人が故郷とする場所(セーブポイント)変更:10百万。

 すぐきもちよくなーる1H(エッチ):1百万円。

 すごくきもちよくなーる1H(エッチ):1百万円。

 おなかがふくれーる:500円。(ヒロシマ風/冷凍食品)

 いわゆるガチャ:1百万円 (今月のレア:空中庭園)。

 …………

 ……

 …


」


 佐藤はあまりのお手軽高額料金に課金ウィンドウをそっと閉じた。

 まだクローズドアルファーの段階でぼりすぎである。


砂糖大好「クラス決定は保留だな」


 しかし「すぐきもちよくなーる」ってダメだろう絶対。


アリーナ「えー」


砂糖大好「あぁ、そのかわりこっちの世界の『科学文明』というのを教えてやるよ。それでいいだろう?」


アリーナ「おぉ、ありがとうございます。なんだか分からないけど!」


(まぁ、普通科学の力が導入できちゃうようなMMO-RPGなんてないだろうけどね。そんなことになったら、ゲームバランスとかむちゃくちゃになって革命とかおきちまうぜ)


 佐藤は内心そう思っていたが、どっこいその後はげしく後悔することを今の佐藤は知らなかった。


アリーナ「でもでもぉー、やっぱり魔王さま(マスター)が私に付いたんならやっぱりスキル、使いたいよー。何かないのです?」


 アリーナがそう言うくらいなのだから何かがあるのだろう。

 クラス設定だけでもこれだけ大変で、初見では辛そうだということを理解した佐藤はインターネットを駆使し、要するに検索かけてwi〇iを探して――、一般スキルの項目を探した。


砂糖大好「お、始めから持っているのあるじゃん」


 佐藤はスキルのウィンドウを開く。



『メインジョブ:スキルポイント1/1

- 聖なる光(ホーリーライト)      Level.1|([使う]/[詳細])

- その他|([追加取得])』


 聖なる光とはどのようなものだろうか。


『スキル名:聖なる光(ホーリーライト)――

習得可能 Job.Level.1 / Skill.Level.1 MAX (パッシブ)

ごめーん。これ取るとレーティングに対応するためにえっちぃなシーンになるとアニメみたいに謎の光が現れて大事なところが隠されて見えなくなるんだ。

光が不適切なようなところだと黒くなったり、謎の花瓶が出現したりしちゃいまーす。

全キャラ取得可能。スキルポイント消費不要。というか必須スキルでーす』



 ……。

 なんでこのゲーム。ネタに走るかな。

 だがコンシューマー向けと考えればわからんでもない。


砂糖大好「さぁアリーナ喜べ。今でも一般スキル使えるぞ。俺の前で脱げ。聖なる光が発生するら――」


アリーナ「いやーん。マスターのえっちぃ。私たちまだ早いよー」


 なんとなく声までかわいい。やっぱり中に声優がいるとかじゃないよな?

 送られてくるのは単なる音声データ。

 最初だけオペレータが喋っているとか手法としてはありなんじゃないだろうか。

 プレーヤーが増えたらこんな手は使えないだろうが。


砂糖大好「聖なる光はスキルポイント消費不要だからいいけど、他の一般スキルはポイント消費だから取れないな。スキル取得には3ポイント必要だから、あと2ポイント調達しないと……」


アリーナ「でもスキルポイントはクラスを取らないといけないから、やっぱりクラスを――」


砂糖大好「いやそうでもない。調べたところによるとイベントなるものでポイントが得られるらしい」


アリーナ「おー。いつのまにそんなものが……」


 アリーナはウィンドウを操作し始める。勝手に動いてくれるって楽だな。

 勝手に動いて壮大に失敗するシーンもあるかもしれないけど。

 アリーナはイベント一覧なるものをほどなく発見した。


砂糖大好「最近できたものらしいからイベントの中身については調べた資料(wi〇i)にはなかったんだが」


 だが佐藤は予想ができた。





 イベントもきっと壮大に斜め上の方向へネタに走っているだろうと。

#

 補足です。

 職業未設定の場合、ステータスはものすごく低いものになります。

 ジアちゃんが未設定の時点ではデュアルジョブを持っていたのでそれなりでした。ということにしておいてくださいお願いします。


『名前:アリーナ

HP:12/12

MP:16/26

SP:7/7

種族:妖精族(フェアリー)

性別:♀

職業:未設定 Base.Level.10 Job.Level.1

ジョイント:妖精族 Lev.3

称号:妖精帝国南部第26歩哨部所属』


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