エピローグ
結局、リナはそのまま倒された。
レベル差も大きいところだが、ケインにはエアリによる回復支援があったのだ。
回復支援のないリナに負ける要素は存在しない。
どちらにせよ大局には影響がないのだ。
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「というわけで、スラッシュ王国は帝国の手に落ちたわけか」
「はい。皇帝陛下。我々のエンパイヤ帝国ではなく、いまいましいことに妖精帝国ではありますが」
帝都にまさに一瞬で死に戻った皇帝の甥である、将軍ソラ・ウェイバー。
苦しげな表情で皇帝に頭を下げる。
「妖精帝国の軍門に降った国を攻めるのは……、無理か」
「妖精帝国の大森林は精霊魔術師の聖地。攻めれば全国の精霊魔術師が黙ってはおりませぬ」
「今回は一人も『死ななかった』からよしとするか。
しかしスルターナ公の古たぬきめ。なんという隠し玉を持っているのだ。
娘といい、妖精帝国といい……、ん? まさかとは思うが、妖精帝国とは始めからグルであった。
などということはないであろうな?」
「否定はしませぬ。
スルターナ公国は我がエンパイヤ帝国に編入されるに際し、兵のほとんどを解放しております。
その弱点を埋めるため、裏で妖精帝国と手を組んでいたとしたら――」
「ぐぬぬ。確かにスルターナ公の古たぬきはあのころから古たぬきであったな。
いや今なお顕然だった。というべきであろうな。
編入のあの時、無理難題を言っていたらどうなっていたのやら……。
ところでその噂の姫というのは手駒に使えそうか?
勇者を名乗ったそうだが」
「あぁ、アレですか――」
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「どうしてこうなったんだろう……」
剣士ケイン、妖精族と一緒にパーティを組んでいたパーティメンバーの一人。
精霊魔術師のパティは屋敷で妖精達と戯れるケインとケインにうな垂れるエルフ姿のエアリを眺めながら机につっぷした。
今のパティの肩書きは宮廷主席魔術師。
破格の出世である。
あの戦争の後「再度攻められるのも困るよねー」という一言の元、仲良くなった妖精帝国の皇女の軍門に降り、スラッシュ王国は妖精帝国の一属国。スラッシュ公国となった。
表向きは魔王ロロ・アスター・イェンヘーを討伐した妖精帝国が、そのままスラッシュ王国の魔族をも駆逐し、領土を広げた。
ということになっている。
共同でエンパイヤ帝国も手伝ってはいるのだが『生き残り』はジアしかおらず、何も主張することができなかった。
ということになっている。
なんでもかんでも「ということになっている」だが、それにわざわざ意見するものは妖精帝国内にはいない。
いま妖精族はこの国の上司であり、ケインは妖精帝国内唯一のニンゲンの公爵だ。
メリットもあった。妖精族は地のゴーレムを操ることができる。
その地のゴーレムをいまやスラッシュ公国は労働力として使うことができるようになったのだ。
地のゴーレムの労働力、妖精族の支援、ニンゲンの技術力によって、あらたな果樹園の計画が進めれている。桃栗はおよそ3年、柿はおよそ8年程度で生産が開始できる見込みだ。
もっとも、遊び好きの妖精族の力はあまり当てにはできないのだが。
「パティ~。桃切ってぇ~。そして大きなモモがゼリーの上でどんぶらこ~、どんぶらこ~って流れる感じのケーキ作って欲しいなぁ」
いつの間にかパティににじり寄ってきたエアリ。
ケインとエアリの恋物語はいまや国中に広まっていた。
「エアリってばまた桃ですか? あまり食べると太りますよ?」
「だってー。最近ケインてばいろいろ忙しくて私も体力付けないと身体がもたないんだものー。それに食べるのは私だけじゃないよ?」
期待を胸に抱く妖精族達がエアリとパティのまわりにわらわらと群がってくる。
「 (はッ、このリア充めが…) はいはい。分かりましたよぉ……」
宮廷主席魔術師の主な任務はニンゲンと妖精族達との仲を取り持つこと。
つまり、妖精と戯れることという、ほとんど遊びのようなことが中心である。
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ジアはベットに寝転がりながら、リナからの定期報告を受けていた。
それはパーティチャットというスキル持ちが持つ能力の一つだ。
ジアはスルターナ公国の自室にいながらにして、遠隔のリナからの話を受けられる。
リナは今現在スラッシュ公国にいて、戦後処理などをやってもらっている。
なんでも国王のケインと妖精族のエアリとのいちゃつきっぷりは相当なもので、
『惚気に当てられていろいろ溜まる』
だそうだ。
ここは空間魔術らしく近くの壁殴りを代行してあげるのが良いだろうとリナは思った。
なんでも、向こうの世界では壁を代行で殴るバイトまであるらしい。
ジアはいい感じに邪悪な魔法使いに毒されていた。
「お客様がお見えです」
引きつった声で寝室のドアをノックする音がして、ジアは服を着替えた。
あの声はジアの執事長だ。
何をそんなに引きつっているのだろうか。
応接室に行き、その理由を理解する。
応接室には魔王ロロ・アスター・イェンヘーの姿があった。
「やぁジア姫。私が誰だか分かるかな。ちょっとムカつくが撃破おめでとう。」
「魔王ロロ・アスター・イェンヘー……。なぜここに?」
魔王ロロ・アスター・イェンヘーは死んではいなかった。
だがそれはあたりまえだ。
ジア自身が構築した聖戦モードの中で戦っていたのだから。
死んだとしても各人が故郷とする場所へ帰るだけ。
「あぁ、要件は1つだけだよ。私の撃破記念にこれを渡そうと思って」
そして魔王ロロ・アスターは空中で何かを操作する。
ジアのアイテムボックスの中に一つの鍵のようなものが追加された。
「これは?」
取り出す。やはり何かの鍵のようだ。
これは知り合いに渡せるように同じものが何度でも取り出せるようになっているようだ。
取り出した1本を執事長に手渡した。
「ほぅ……」
しげしげと眺める執事長。
「撃破記念の特典品だな。
亜空間に存在する城だよ――
ちょっとした避暑地にでも使うといい。
面積およそ6,363km2。」
ジアの背後の執事長が驚きの声を上げる。
それは「ちょっとした避暑地」どころか1国の領土といっても良い広さだ。
「その名を、秘境・グンマ。
それを持って叫べば顕現するから。大きな声で。
右手の指を鳴らして『ぐんまぁぁー――』
って」
魔王ロロ・アスター・イェンヘーは≪さいてーの魔王≫のハリセンに対抗してネタに走ったようだった。
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≪視線の48≫
それが、彼女に付けられた仮初の魔王の名。
彼女はディスプレイ上で繰り広げられる血みどろの惨劇に目を覆った。
≪さいてーの魔王≫/七日野ようこと≪黒き汚点≫/ロロ・アスター・イェンヘーが探り当てえた異世界。
彼女が魅了されたこの異世界。
広がる青空。
新鮮な空気感。
さまざまな冒険譚
いつしか彼女はその世界にどっぷりと浸っていた。
たとえこの世界での役割が哀れなスライムだとしても。
その異世界がいま、壊れようとしていた。
1万の軍勢の行進。
聖戦。
広域範囲攻撃破壊魔法。
馬鹿みたいなネタ武器。
異世界には存在しない、本来あってはならなぬモノ。
原因は分かっている。
≪さいてーの魔王≫の男だ。
彼に媚びるためか、雷精霊群の技術基盤機構はより過激なコンテンツを世界に撒き散らしている。
過激になりすぎれば世界そのものがどうなるか、雷精霊群の技術基盤機構は分からないのだろうか?
「早く、なんとかしないと……」
暗い部屋の中、彼女は一人つぶやいた。
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かつて、ようこは魔王の資格認定という仕組みを作った。
ようこの周りにはたくさんの魔王がいた。
何百年という時を過ごしたが、ようこはそれなりに楽しかった。
しかし、ようこの同族の友達はすっかりいなくなってしまった。
何十年か前の世界大戦で多くの魔王が亡くなってしまったから。
ようこは戦争にはいかなかった。
魔王の資格認定ができたからといって、ようこ自体は妖怪の中ではかなり弱い方だったから。
だから、生き延びた。
国に保護され、このひよしの地でぬくぬくと行き続けてきた。
誰とも合わず、永遠とも思えるときを引きこもった。
もう魔王資格認定者をすることもないだろうなと思いながら。
楽しくない日々を過ごす。ようこ。
退屈だったようこは、当時ひきこもりながらできるゲームに熱中していた。
そして、ようこはあるとき、地元ひよしの地にある大学でダブリューというプロジェクトが行われていることを知る。
それは世界に網を巡らせんとする壮大な計画の名前。
そこでは、まじめな研究の傍らで学生達がわいわいとネットワーク上で遊べるゲームを作っていた。
日本のへんたいと呼ばれる程度の能力。
その地に留まっていたネタは、世界に拡散させていく。
その一つが、RPGと呼ばれているものだ。
剣と魔法の世界。ぱこぱこやる。
当時はテキストだけが中心だった。
攻撃も防御もキーボード上の1ボタン。
それが楽しかった。
いつしかそれが少数人数で行うMO RPGになり。
多人数で行うMMO RPGになり。
世界は広がっていく。
『このMMO RPGをホンモノの異世界でやったら楽しいかな?』
遊びながらようこは思った。
何百年と生きられる九尾の妖怪狐。
それが七日野ようこの正体。
妖怪狐は現実世界でも幻想系の魔法を得意とする生き物だ。
妖怪狐であれば異世界に干渉することも、できないことはない。
世界で始めて行われる異世界干渉。
そこで、異世界であればようこが持つ魔王認定の力は絶大な効果を発揮することを知る。
たとえ、現世ではどうにもならないことであっても。
この世界と違い、異世界に対する干渉は『なんでもできた』。
人が殺されても死なない世界をその地で作ることができたのだ。
ようこはダブリューと呼ばれるプロジェクトの中で遊んでいる学生達に呼びかけた。
それが、雷精霊群の技術基盤機構の始まりだった。
『魔王になろう』のサイトを作り、少数の『魔王たち』を集め始める。
そしてようこは、彼に出逢った。
ようこは最近は自分でも不思議なくらい楽しい生活を送っている。
設定の検討から、技術的な課題の克服まで。
いやな魔力の増幅訓練ですら楽しく感じる。
でも……
ようこは考える。
ゲーム飽きられてしまえば私にさえも飽きてられてしまうのではないかと。
ようことタッキーの接点はゲームにしかない。
飽きられないようにするためには、面白おかしいイベントをまた考えないといけない。
それは、なんだろう……
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そしてある日。
ジア姫が屋敷で殺されたところから次の物語は再び始まる――




