将軍ソラ・ウェイバー・ブレイク
時は経過した。
各地から集まったエンパイア帝国軍はスルターナ公国に集結。
まもなくスラッシュ王国に進撃を開始しようというところ。
戦争に先立って行われた降伏勧告の使者は受け入れられることはなく付き返された。
侵入を試みた間者はスルターナ公国からの間者と同じく次々と討ち取られている。
「スラッシュ王国はあくまでも徹底抗戦を貫く構えか。このエンパイア帝国に屈せぬと」
今回遠征のエンパイア帝国軍の中心となるエンパイア帝国精鋭騎士団、およそ200名。
その頂点に立つ皇帝の甥。ソラ・ウェイバー・ブレイク。
老いたとはいえ、壮健で屈強な体つきの男だ。
白銀の甲冑の姿は見るものを魅了する。
「はッ。ヤツラは決戦の場所と時刻を指定してきました」
野営地のテントで将軍ソラ・ウェイバーは使者からの報告を聞く。
追い返された使者ではあったが敵国からは手紙を受け取っていた。
呪術的形跡がないことを確認後、ソラ・ウェイバーはその手紙に目を通した。
それを見守る将兵達。
主だった将兵はそのテントへと集まっていた。
「『ワレ。今雌雄ヲ決サン』か。我らエンパイヤ帝国の通伝式だな。敵ながらやりおる」
「そのような場所、どのような罠が仕掛けられているか分かったものではありません。
無視するべきかと」
将兵の一人が進言する。
「たわけが! そのような事をすれば拝領した軍に、つまり皇帝陛下に傷がつく!
どうどうと受けて立つべきだ。どのような罠でさえ食いちぎる。
そのくらいの気概がなくて、どうする。
だいたい兵力に10倍近い開きがあるのだぞ」
その進言を一顧だにしないソラ・ウェイバー。
「報告します。兼ねてより話のありましたジア・スルターナ・アフタースクール第一公女。 妖精族と妖精族が起動する地のゴーレム、総勢1,200が北部にて終結しております」
新たに野営テントに報告が入ってくる。こちらはスルターナ公国に出した使者だ。
「あぁ、あの古だぬきの娘か。スルターナ公はまた妙な隠し玉を持ってきたな。それで戦費分担金を減らそうという魂胆か」
「なんでも、魔族の手に落ちたスラッシュ王国討伐に対して協力して欲しいとジア公女が妖精皇女を説得したとのことで……」
先ほど叱責された将兵が挽回の機会とばかり追随する。
「はん。エンパイヤ帝国の吹聴に騙されたのか?」
スラッシュ王国に内乱が起きた事情をソラ・ウェイバーは知っていた。
妖精族が人に化けて第三王子ケインと交際していたころを、第一王子がその妖精族を魔族と*間違えて*謀殺したことに第三王子ケインが腹を立て、内乱を起こし国王、第一王子、その他彼らに従うものを皆殺しにしたと。
で、あるならば妖精帝国が肩を入れる側は我らエンパイヤ帝国ではなく、スラッシュ王国側ではないか?
「どう見る? 妖精帝国からの援軍の中心人物がジア姫だという。ジア姫は直近で妖精帝国側に攫われたそうだな」
「スラッシュ王国側に騙されて妖精帝国が人質として攫い、しかしジア姫の説得によって皇女からの協力を取り付けた。とのことです」
「それならば確かに筋は通る、かもな?」
ソラ・ウェイバーは考え込んだ。
(まさか、な…)
もしかすると、スラッシュ王国が魔族の手に落ちたのは本当かもしれない。
だから妖精帝国はジア姫の言葉に耳を傾けたのではないか?
「たとえ、スラッシュ王国とはいえ魔族と手を組んでいたのとして、だからどうだというのだ。皇帝陛下は我々にこう言ったのだ。『蹂躙せよ』とな」
「それで妖精帝国の妖精族達はどうしましょうか。
我らエンパイヤ帝国軍の前面に出し盾とすることも考えられますが」
幕僚の一人が進言する。彼は策謀を得意とする情報部の参謀だ。
「やめておこう。それから軍中央にも寄せるな。
万が一妖精帝国がスラッシュ王国と手を結んでいた場合、目も当てられぬ。
それにもし完全なる味方だったとしてもだ。
下手に妖精帝国やスルターナ公に手柄を取らせるのは面白くない。
貸しを作ればあの古だぬき、何を言ってくるか分からないからな。
威圧として妖精帝国軍は出させるが動かさない。これが方針だ」
「ジア姫だけでもこの場に連れてこさせますか?
追随する妖精族達にもひけを取らぬ素晴らしい容姿の女性だそうですよ」
「アレだけの妖精族群から離れてヤツラがコントロールできなくなるのは困る。
来るのは不要と伝えろ。一部妖精族が一緒に来られて反乱とかはさらに困るしな。
それに明日には決戦だ。その後であればいかようにもできるだろ」
一見儚く美しい妖精族といえど中身は凶悪。
妖精と戯れるジア姫は麗しいとはいえ、その実棘があるに違いない。
あのスルターナ公の古たぬきめから生まれた最愛の娘。
興味はあるものの決戦に向けて意識をすぐさま切り替える。
そして、スルターナ公国とスラッシュ王国との国境線前の空白地へと進撃を開始する。
決戦の時は訪れたのだ。




