帝国の貴族は化け物か
多少グロイ表現があります。
『スキル名:次元の壁――
習得可能 Job.Level.50 / Skill.Level.5 MAX
空間魔術最終奥義。スキルレベルが上がればなんでも防げる。
また壁を叩くことによっていわゆる『壁ドン』が実現可能。対象を押し潰せる。
効果時間はMAG、リキャストタイムはINT、壁ドン時の命中補正はDEXに依存する。
ただしアカウント・バーンの効果に干渉することはできない。
- Level.1 物理耐性,
- Level.2 +魔法耐性,
- Level.3 +物理無効,
- Level.4 +魔法無効,
- Level.5 運営だって止めてみせる!』
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(て、帝国の貴族は化け物か…)
ランクBの冒険者である剣士、フランツは今起きている事象に戦慄する。
同じ派閥のロマンもあんぐりと口を開け、固まっていた。
それは、フランツが考えていたゴブリン討伐というものではなかった。
(圧倒的じゃないか…。護衛の必要なんてまったくないぞこれ)
道楽で受けたという貴族の少女とメイドのゴブリン討伐依頼。
ただそこにいたというだけで指名された剣士の2人。
始めての討伐依頼でどうなるか分からないと笑っていた少女。
だが後をつけてきた他の冒険者達には当初から気づいた少女達――≪気配感知≫という能力をメイドは持っているそうだ――は街から出た瞬間、風系統と思われる魔法で彼らを一瞬で振り切る。
まさに瞬間的に移動したかのようだった。
そしてゴブリン達の前にやってくるとすぐさま討伐を開始した。
殺戮が始まったのだ――
「やはり思った通り、たいしたことはありませんでしたね。用心しすぎではないでしょうか」
短刀を持ったメイドの動きは目に追えない程に速い。
姿が消え、現れたときには既にゴブリンの首が刎ねられている。
貴族の少女に至っては左手をゴブリンに向けただけだ。
それだけで圧力が掛かったのかのようにゴブリンは斜面の岩肌に押し付けられ、透明な空間の壁のような何かによって押しつぶされる。
斜面はごつごつした岩肌であったのに、今やその圧力に屈し綺麗な壁となっている。
血に濡れた赤い壁画がそこには完成していた。
ゴブリンは、まるで踏まれたカエルのように潰れている。
およそ50体。それが5分と掛からない。
「はは……」
自分のしたことが信じられないのか、貴族の少女は自らの両手を見ながら力なく呟いた。
がくりと両足の膝が落ちる。貴族の少女はうな垂れていた。
醜悪なゴブリンの血の臭いに吐きそうになる。
だが、ケインは男である。
ケインは耐えた。
剣士であるケインが吐いたりしたら情けなさすぎるだ。
少女は確かに力を持っている。
確かに力は持っているそれに伴って発生する事象の凄惨さを少女は知らなかった。
ケインはそう判断して少女を宥めようとした。
だが実際には違っていたのだ。
タッキー:「というか、始めて戦闘見るんだけどグロすぎんっだろうが、これ。リアルに作りすぎ!」
GM3 :「だからこれはロロたんの趣味で――」
タッキー:「だからロロたんて誰だよ。しっかし空間魔術師って防御とか移動主体なんだろ? それでこれってことは攻撃系本職の剣士とか範囲攻撃系の魔法使いってもしかしてとんでもないんじゃね?」
GM3 :「ふっふっふ。一撃で城がぶっとぶのです」
タッキー:「あぁ、『魔王になろう』読んだよ。ケイン君かっこいいよねー」
GM3 :「ふっふっふ。一撃でブサイクがぶっとぶのです」
タッキー:「ってあれ?? さっき、ジアちゃんと剣士くんが話してたのってケイン君のいるスラッシュ王国討伐だよね?」
GM3 :「ふっふっふ。一撃でエンパイヤ帝国軍がぶっとぶのです」
タッキー:「おぃおぃ、だめだろうが。エンパイヤ帝国軍ってジアちゃんとこだろ。ジアちゃんとこぼっこぼこになるんじゃ?」
GM3 :「そこでタッキー。拉致ですよ拉致。エンパイア帝国軍は瞬殺され、公国はジア姫を人質に取られてあっさり降伏。勢いに乗ったスラッシュ王国は帝都に向けて進撃。兼ねてからエンパイヤ帝国に不満を持つ属国が英雄ケインを頼り次々と反旗を翻す。群雄割拠の新たなる歴史を――なのです。悲劇のヒロイン! 萌える~」
タッキー:「歴史シミュレータ好きにはいいかも知れないけど、もうそれゲーム違うよね。違うよね。冒険とかどこいった」
GM3 :「うわー。タッキーの『大事なことなのでもう一度言いました』キターなのです」
左下で流れ続けるメッセージ。
そのメッセージを今見れるのはジアしかいない。
(この人達、何を言っているの――)
エンパイア帝国軍の瞬殺。
拉致から始まるスルターナ公国の降伏。
言葉は分かる。
あまりにも酷い内容で理解したくないだけだ。
「もしもこのまま軍を進めたら――。そしたら――」
ボタン一つで潰されたゴブリンたちを見る。
ジアが取得している空間魔術は攻撃が苦手。
リナが取得している盗賊クラスにしてもそうだろう。
これがもし。
攻撃系本職の剣士とか範囲攻撃系の魔法使いのスキルだったら――
ジア :「おそらくエンパイヤ帝国軍は1万を優に超えます。それでも?」
GM3 :「ハハハ。キミは真の俺TUEEEを体感することになるだろう」
タッキー:「なんだよ、無双系かよ」
それでリナは分かってしまった。
リナは悲痛な声で嘆く。
「助からない――。絶対に――」
リナには想像できてしまった。
荒廃する土地。
ひしゃげる構造物。
ゴミのように転がる武器や防具。
散乱のする兵士達の屍。
その腐った血の臭い。
ジア :「みんな死んじゃう」
GM3 :「え? あぁ。スラッシュ王国にケイン王子がいる限りはエンパイヤ帝国軍全滅は必至だよ。でもどうしても助けたいなら、助かる手もあるのです」
タッキー:「お、それでいこう。それで」
GM3 :「一番簡単なのはジアちゃんが人身御供となってケイン王子を悩殺――」
タッキー:「ダメだろそれ」
GM3 :「それ以外なら決戦時にジアちゃんの公式勇者スキルで聖戦モードを宣言するとかどう? そうすれば3時間プレーヤー同士も戦えて、民間人の人が殺されても各人が故郷とする場所に飛ばされるだけになるのです」
タッキー:「んー。それってやっぱり軍壊滅してね?」
GM3 :「細かいことは気にしてはいけないのです。でも問題がないわけでもないのです」
タッキー:「なにそれ?」
GM3 :「スキルを発動するときにはマップの中心――つまり軍中央付近にいないといけないのです。そんな力、ジアちゃんにあるの? ≪瞬間転移≫するとしても、まずは場所特定しないといけないのです」
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無駄に続くメッセージをジアを見つめるジア。
「どうしよう……、どうすれば……」
ジアの声が響く。
フランツは貴族の少女に声も掛けることができず、立ちすくむことしかできなかった。
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妖精帝国の南に位置する妖精都市ボブバレンシュタイン。
そこに連れてこられた妖精族のエアリ。
すぐにケインの元に戻りたかったが、周りは多数の同族に囲まれ逃げ場はない。
エアリは抵抗することもできず皇女がいる謁見の間に連れて行かれた。
「仕事をサボり、ニンゲンと遊んでいたそうだな。エアリ」
声を発するのは妖精皇女。
「はい……。申し訳ありません」
しょんぼりとするエアリ。
「なあに赦そう。剣士についてもな。あることを教えてくれたら、だが」
妖精皇女の言葉にエアリは顔をあげる。
「目には目を」が身上の妖精帝国。
攫った剣士についても赦すというのは破格の条件だった。
ケインへの妖精帝国からの報復を避けること。
エアリがすぐにケインの元に返らない理由。
妖精皇女にお願いしたい内容がこれだったのだ。
「それはスキルと呼ばれるものについてだ。特に人化スキル。アレは素晴らしい。
アレを我が妖精帝国の手に入れたい。どうやればスキルは身に付くのだ?」
正直に話すしかない。エアリは意を決して喋りだした。
スキルは、向こうの世界の魔王がこの世界の|民間人(NPC)をランダムに選んで使い魔のような存在にすることで使えるようになるものだと。
魔王と聞いて騒然とする周囲。
「鎮まれ! 魔王とはいえ異世界の者であろう。こちらの魔族とは別物であろう。それでスキルが使えるようになることの代償は?」
デメリットはない。
エアリは答える。
しいていうなら『スキルが使えるようになること』がデメリットであると。
エアリの魔王がそういっていたことをそのまま伝える。
「では、スキルを我々が自由に使える方法はないのか?」
その答えもエアリは自身の魔王から聞いたことがある。
エアリは妖精帝国の南にあるスルターナ王国の王女の名を告げた――




