43 ウラティナ・シークエンス
日付が変わろうとしていた、ある日の夜のこと。
リーグは夜勤で明日の朝に帰宅する為、メイドの今日の報告を当家主として私が聞いていた。
「ウィル様がご両親の奥様方に恩返しをしたいと本日申されておりました」
鮮やかな橙色の髪をし、いつも真顔で生真面目を体現したかのようなメイド、セラリアことセラがそう私に告げてきた。
彼女は基本的に真面目だ。
真面目だが、息子のことになると、性格が変わったようになる。
いや、確実に変わる。
何が彼女をそうしたのかは分からない。
分からなくても良いのだとは思う。
ウィルが関われば色々な意味で止まらない様子を見れば、分かれば最後だと思ったのだ。
昔、ウィルの美容について数時間語られた時はウィルが良いと言えば許可するとスキンケアを許したことがある。
それは今も続けられており、ウィルとの良いスキンシップとなっているようだ。
ウィルは可愛いが、私や夫より息子に忠義を尽くす人形は恐い。
ていうか、ぶっちゃけ引く。
許せ、息子よ。
そんな水を得た魚、否、獲物を狙う狩人のようなセラの言葉に驚いた。
恩返しだと?
何と優しい子なのだ、しかし、幼い子供の考えることか?
いや、ウィルは昔から頭が良く、手のかからない優しい子で、妙に大人びた子供だ。
言葉の読み書きも一人でに学んでいたし、学ぶ意欲や知識も周りの子供より頭抜きん出ている。
親の色眼鏡なしに、ウィルは賢い。
それが悪いことではないし、何より息子は可愛いと思っている。
見た目も可愛ければ、性格の良さも、全てが可愛い。
そんな可愛い子が、より私達を幸せにしたいだと?
きっと自分で考えても思い浮かばなく、セラに相談したのだろう。
その考えだけでも嬉しいというのに。
「それで、セラは何と答えたの?」
「はい。私が孤児院に寄付をしているのはご存知でしたが、私の体験から話をすることや子供の世話がより喜ばれたと答えました」
うむ、無難なところか。
「子供について何か思ったのか、弟か妹がいればと呟いておられたので、明日の朝に何かおっしゃるかと」
「そう。分かったわ」
弟か妹が欲しいと言ってくるか。
リーグにはもう一人欲しいと言っていたし、まだ体が小さく幼いとはいっても、体は丈夫のようだし賢い子のことだ、何も問題ないだろう。
「リオは何かある?」
「は、はひっ!あの、あ、クラティマ家の双子様と遊ぶ、ウィル様が愛らしかったです!」
……。
悪い子では、ない。
悪い子ではないのだが、うちのメイドはどこかおかしい。
「…そうか。ウィルも含め、可愛らしいからな」
「はいっ!!」
…うん。誰も悪くない。
すまん、息子よ。
しかし、恩返し、か…。
どこか距離があるのは何か引け目があるからだろうか。
好きだという気持ちは伝わってくるし、ウィルはひどく優しい子だ。
怯え、というか触れるのを戸惑っている様子もある。
体が小さく、病弱なのではと心配していたことを気にしているのだろうか。
今まで以上にもっと、私から触れ合った方が良いか。
もし、兄弟が出来たら、また違ってくるかもしれないな。
私は腹を撫でながらウィルのことを考える。
生まれてきてくれただけで、充分、恩返しになっているんだと。
笑顔で、生きていることに幸せを感じてくれていれば、私達、親も幸せなのだと。
こんなにも愛しい子だ、幸せを願うのも幸せなのだ。
ウィルにも伝わって欲しい。
生まれてきてくれて、ありがとう。




