五夜
マリのバイクは高速とは逆方向へ向かっていた。
「どこに行くの」
マリは笑っていった。
「なに言ってるの。C1はバイクの二人乗りは出来ないのよ」
「えっ」
私は本当にびっくりして声を出した。
「だって、高速の二人乗り解禁とかニュースで言っていたよ」
マリはため息をつきながら答えた。
「それはほんの一部の区間だけ」
マリのバイクは見覚えのある店に吸い込まれていった。バイクショップ マーリー。
バイクを降りるとマリはずかずかと店の奥へと向かった。
つなぎを着た従業員は頭を下げながら「社長、お帰りなさい」と口々に言った。店に居た常連からは「マーリー、お帰り」と声をかけられる。
これでも、マリはハーレー専門のバイクショップの社長なのだ。
そして、私と悪い遊びをした同級生でもある。
マリは店の奥から戻って私にキーを投げ渡した。
手招きで店の裏手にある倉庫へと向かう。
ここにはお店の在庫の他にマリのコレクションも多数置いてある。
その一角にシートを被ったバイクが一台。
シートを取り去るとそこにはハーレーではないバイクが置かれていた。
「ドカティー?」
ハーレー専門店になんでドカが?それも1198R。500万もする生粋のレーサー。
「いいでしょ。あんたのためにとって置いたんだから」
なんでも、同業のバイク業者が借金のかたに押さえた物らしいが、現ナマでほっぺたをちょっと叩いて、手に入れたという。
私も昔はマリとつるんでよくバイクで遊んでいたが、最近はさっぱりだ。
すでにマリは自分のバイクに跨っている。
「しかたないな」
私は一人でつぶやきながらドカのキーを捻った。
久々に聞くエンジン音は心地よかった。




