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兵站王の戦記〜追放王子の無敗論理〜  作者: リリリリス
第2章 大陸篇

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第69話:特権階級の拒絶(パーミッション・デニード)と、最上位権限(ルート・アクセス)の証明

虚無の参照エラー(ヌルポインタ)をロザリアの「実存の証明」によって撃破した王国軍。超弩級列車『ガルガンチュア』は、第七の楔たる黒鋼のレールを力強く引きずりながら、ついに『世界の墓標グランド・コア』の最深部にして最終階層――世界システムの中枢サーバー『天の階梯コア・マザー』の真前へと到達した。


そこは、天井も壁も見えない、無限の広がりを持つ超巨大な垂直空間だった。

中心には、大陸の全地脈から吸い上げられた青白い魔力の奔流が、数千キロメートルに及ぶ巨大な光の柱(光ファイバー)となって天へと突き抜けている。世界のすべての物理法則、すべての生命の演算が、この場所で処理されていた。


「ついにここまで来ちまったな、王子……。ここが、この世界の『脳ミソ』ってわけか」


操車室のバルドが、あまりの壮大さに圧倒されながら、列車のブレーキを引き絞った。ガルガンチュアは光の柱の直前でその巨体を停止させ、敷設してきたウロボロスの鉄路の先端を、世界の心臓部へと向けた。


「ああ。これより最終フェーズに移行する。このコア・システムへ我が王国の管理コードを直接流し込み、世界の寿命(八・七年)のカウントダウンを永遠に停止させる」


アルスはガルガンチュアの展望デッキへと立ち、右手の【掌握の刻印】を最大出力で解放した。彼の銀髪が激しい魔力の風に揺れ、瞳には世界のすべてのソースコードが怒涛の勢いでリフレクトされる。


だが、アルスが世界の再構築コードを光の柱へと接続プラグインしようとした、その瞬間――。


ズガガガガギィィィン!!!


空間全体が、鼓膜を破らんばかりの真っ赤な警告音エラー・アラートで満たされた。

光の柱から放たれたのは、これまでのバグのような不規則な拒絶ではない。極めて理性的で、冷徹で、圧倒的なまでの「拒絶の障壁ファイヤーウォール」だった。アルスの放った数式は一瞬にして粉砕され、彼の右手の刻印から激しい火花が飛び散った。


> 『警告:アクセス違反(Access Violation)』

> 『要求されたオブジェクトへの操作は許可されていません』

> 『エラーコード:Permission Denied(権限拒絶)』


「なっ……なんだと!? 王子の魔法が通用しねぇだと!?」


操車室のバルドが計器の赤色灯に照らされながら叫んだ。


「殿下! 周囲の空間から、未知の魔導迎撃兵器――いいえ、世界の『防衛システム(セキュリティ・ガード)』が顕現しています!」


ガイウスが叫ぶと同時に、虚空から純白の機械的な翼を持つ天使のような巨像セキュリティ・プログラムが数千体も出現し、一斉にガルガンチュアへとその槍を向けた。


「あはは! 面白いねアルス! 君の圧倒的な頭脳でも、神様の『パスワード』は解けなかったみたいだ!」


ルナが狂気的な笑声を上げるが、その額には冷や汗が流れていた。


アルスは右手の激痛に顔をしかめながら、冷酷にシステムを睨みつけた。


「……バグではない。これは世界の正常な仕様(仕様通り)の拒絶だ。私はどれほど世界をハッキングできようとも、この世界の『開発者(神)』ではない。人間という『ゲストユーザー』である以上、システムの一番深い領域カーネルを書き換える権限が、最初から与えられていないのだ……!」


セキュリティの槍から放たれる純白の雷撃が、ガルガンチュアの装甲を容赦なく削っていく。さらに、システムはアルスを「不正な侵入者ウイルス」と判定し、彼の存在データそのものを世界からアカウント削除(強制排除)するための消去プロセスを開始した。アルスの身体の端から、光の粒子となって消滅しかける。


彼の絶対的な論理が、世界の「権限ルール」という絶対の壁の前に、完全に無力化されようとしていた。


「――ならば、その神のルールごと、私たちの愛で書き換えて差し上げますわ!」


その絶望の嵐を切り裂いて、ロザリアがアルスの前に進み出た。

彼女は自身の漆黒のドレスの胸元を大きくはだけ、その肌に刻まれた【もう一つの刻印】――彼女の血統が代々受け継いできた、この世界の地脈の『最初の守護者』たる神聖な紋章を剥き出しにした。


ロザリアはアルスの右手を両手で強く包み込み、自身の刻印とアルスの刻印を物理的に密着させた。彼女の美しい瞳は、世界の拒絶の赤光を跳ね返すほどの、苛烈な愛の光で燃え上がっていた。


「ロザリア、何をするつもりだ! 権限のない者がこのシステムに干渉すれば、魂のデータごと完全に消去される!」


「構いませんわ! 世界が貴方を『よそゲスト』と呼ぶのなら、私がこの世界のすべてを味方につけて、貴方を『あるじ』へと変えてみせます! 私の魂、私の血統、私の愛のすべてを貴方に預けます――同期シンクロしなさい、アルス様!!」


ロザリアの胸の奥から放たれたのは、絶対零度の静止魔力を超えた、世界の地脈そのものを従える「最上位承認魔力ルート・オーソリティ」だった。

彼女の血統に眠る「世界の鍵」と、アルスへの「絶対に離さない」という狂おしいほどの愛の波長が完璧に融合した瞬間、二人の刻印は世界の赤光を完全に圧倒する、神々しいまでの純白の輝きを放った。


二人のスレッドが完全に一つになり、世界システムに対して「一人の統合オブジェクト」として再登録される。


「ロザリア……お前が私に『鍵』をくれたか。ならば……神の座から、その全権限を剥奪してやろう」


ロザリアという最高の管理者(特権ユーザー)を得たことで、アルスの脳内にかけられていた権限の鎖は一瞬にして爆破された。彼の瞳に、世界のすべてを支配する絶対王者の論理が蘇る。


アルスはロザリアの腰を強く抱き寄せ、二人の繋いだ手を光のコアへと突き刺した。最上位権限(Root/Administrator)に昇格した彼の頭脳は、世界のファイヤーウォールを内側から完全に無効化(無条件パス)していった。


「システム・特権階級昇格(コマンド:sudo)。神のセキュリティを強制停止し、これより全システム制御権ルート・アクセスの掌握を完了する!」


アルスとロザリアの声が重なり、コアの最深部へと響き渡った。

その瞬間、鳴り響いていた真っ赤な警告音はピタリと止まり、数千体の天使の巨像セキュリティは一瞬にして青い王国の管理コードへと上書きされ、従順なチェスの駒のように跪いた。


光の柱は真っ青な王国のカラーへと染まり、世界の寿命のカウントダウンは完全にフリーズした。


「うおおおおおお!! 権限奪取成功だ! 職人の最終奥義、見やがれぇぇぇ!!」


バルドが狂喜乱舞しながら、ガルガンチュアの最終レバーを限界の先まで引き絞った。列車の前面から放たれた、金色の魔力を帯びた第八の楔――『世界再構築鉄路・ウロボロス』の最終レールが、轟音と共に世界の中枢コア・マザーへと深く、完璧に突き刺さった。


ついに、世界を破滅から救うための鋼鉄の回路が、世界の脳ミソへと直接接続されたのだ。


「……はぁ、あ、アルス……様……」


自身の魂の権限のすべてをアルスへと注ぎ込み、神のセキュリティを突破したロザリアは、極限の脱力感によって、上気した肌のままアルスの腕の中へと崩れ落ちた。彼女の胸元の刻印は、激しい共鳴の余熱で微かに光を放ちながら波打っている。


アルスは彼女の華奢な身体を壊れ物を扱うかのように優しく、しかし絶対に離さないという強い力で抱きしめると、彼女の耳元で、世界で一番熱い声で囁いた。


「ロザリア。お前が私をこの世界の『ルート』にしてくれた。……これからの新時代、私の下す全ての命令(Order)は、お前への愛の証明となるだろう」


アルスはロザリアの顎を優しく持ち上げると、まだ熱い息を漏らす彼女の唇に、自身の唇を深く、世界の全権限を共有する契約の接吻ルート・キスとして重ね合わせた。

それは、神のシステムすらも平伏させた、二人だけの「絶対最上位のプロトコル」。


世界の寿命があと八年という極限のカウントダウンを完全に停止させ、ウロボロスの鉄路はついに世界の核心を制圧した。世界解体と新秩序の物語は、ついに神の領域を完全に掌握し、誰も見たことのない「完全デバッグされた新世界」の誕生へと、その最終列車の汽笛を鳴り響かせるのだった。


---


世界の最深部『天の階梯』を完全に掌握し、世界の破滅のカウントダウンを停止させることに成功したアルスとロザリア。しかし、神のシステムの全権限ルートを手に入れた二人の前に、世界システムの真の「初期化プログラム(ラスト・ボス)」がその姿を現そうとしていた。

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