表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兵站王の戦記〜追放王子の無敗論理〜  作者: リリリリス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/8

第5話:悪女の解放と、次なる盤面

シュヴァルツェイン帝国の十万の軍勢が、飢えによって完全に歩みを止めてから二日が経過した。


アルスは第七補給基地の防衛を軍曹に任せ、ガイウスを含む数名の護衛だけを連れて、黒鋼山脈のさらに奥地へと馬を走らせていた。


「殿下。このような山奥に、一体何があるというのですか」


警戒を怠らずに周囲を見渡すガイウスの問いに、アルスは前を向いたまま答える。


「修道院だ。……表向きはな」


深い霧を抜けた先に、灰色の石造りの巨大な建造物が現れた。


そこは神に祈りを捧げる場所ではない。

エリュシオン王国の政争に敗れた貴族や、王家の不興を買った者たちが秘密裏に幽閉される、事実上の政治犯収容所であった。


看守たちにアルスが偽造した羊皮紙の令状を見せ、薄暗い地下牢へと降りていく。


冷たい水滴が滴る鉄格子の奥に、その「悪女」はいた。


「……あら。これは珍しいお客様ですね」


カビ臭い藁のベッドに腰掛けていたのは、目を奪われるほど美しい令嬢だった。


艶やかな黒髪に、透き通るような白い肌。


だが、その瞳には一切の光がなく、底知れぬ暗い色の感情だけが渦巻いている。


かつて王都の社交界を支配し、そのあまりの怜悧さゆえに危険視され、無実の罪を着せられて没落した公爵家の令嬢。


ロザリアであった。


「第7王子殿下。このような辺境の泥にまみれた地下牢まで、わざわざ私を処刑しにいらしたのですか?」


ロザリアは鉄格子越しに、冷ややかな嘲笑を浮かべる。


「処刑なら羊皮紙の上で指示を出すだけで済む。時間の無駄だ」


アルスは鉄格子の前に立ち、淡々と告げた。


「お前をスカウトしに来た。ここから出してやる」


「……スカウト? 私を、ですか?」


ロザリアの細い眉が微かに動いた。


「ご冗談を。私は国を裏切った大罪人ですよ? それに、私はもう誰も信じません。王家も、正義も、愛も。……あの腐りきった貴族どもに、すべて奪われましたから」


「だからこそ、お前が必要なんだ」


アルスは手元の羊皮紙を広げ、ロザリアに見せた。

そこには、完全に停止した帝国軍の点と、王都を占拠している無数の点が描かれていた。


「帝国軍の胃袋は、俺の兵站システムで完全に破壊した。軍事的な勝利はすでに確定している。だが、王都を奪還した後の『戦後処理』は俺の専門外だ」


物資を管理し、兵士を生かすことはできる。

しかし、国を動かすには、人間の醜い欲望や権力闘争をコントロールする盤面が必要だった。


「俺は誰も信じろとは言っていない。ただ、俺の完璧な『数字』に、お前のその真っ黒な『悪意』を掛け合わせれば、この国を丸ごと喰える。そう言っているんだ」


その瞬間。


ロザリアの暗い瞳の奥に、かつてないほどの強い光が宿った。


正義のためでも、愛のためでもなく。

ただ「合理性」という狂気をもって、自分と一緒に国を喰い潰そうと持ちかける目の前の王子。


「……ふふっ。あははははっ!」


ロザリアは腹を抱え、冷たい地下牢に響き渡る声で笑った。

それは背筋が凍るほど美しく、そして残酷な笑みだった。


「いいでしょう。殿下のその狂気的な合理性……私の復讐に、存分に利用させていただきますわ」


ロザリアが鉄格子越しに白い手を差し出す。


アルスは迷うことなく、その手を取った。


「ああ。好きにしろ。ただし、飯の時間は守れよ」


「ええ、もちろん。我が君」


兵站を支配する冷徹な王子と、人の心を操る悪女。

物理と心理の両面から国を支配する、最恐の共犯関係が結ばれた。


エリュシオン王都を奪還するための本当の戦争が、ここから始まる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ