第45話:鉄道の延長と開戦の号砲
帝国の特使・ゼノスを冷徹に追い返してから数日、王都は嵐の前の静けさに包まれていた。しかし、アルスの指揮下にある王都の「稼働」は、かつてないほど激しさを増していた。
「バルド、鉄道の敷設速度をあと十五パーセント向上させろ。国境線までの距離を最短で埋めるぞ」
アルスの号令と共に、王国全土で鉄路の拡張工事が突貫で進められた。それはただの交通網ではない。
帝国の魔導軍団が侵攻してくるルートを物理的に予測し、その防衛ラインへ即座に物資と兵力を転送するための「軍事的な大動脈」だった。
王宮の作戦室で、ロザリアは地図上に刻まれる赤色の線――拡張される鉄道網を見つめ、静かに呟いた。
「……国境を越えて鉄道を敷くつもりですね。それが、アルス様の答えなのですね」
「ああ。帝国がこちらを攻めてくるのを待つのは非効率だ。先制して帝国の資源圏を物理的に連結し、我が国のシステムへと強制統合する」
アルスは地図の上に、帝国の拠点都市を囲い込むように配置されたトロッコの補給線を書き加えた。それは一見すると無謀な侵攻計画に見えるが、アルスの計算上では、帝国の魔導軍団を「兵站不足」で沈黙させるための、極めて論理的な一手だった。
その時、王都の北側にある国境の関所で、激しい爆発音が響き渡った。
「マイ・ロード! 帝国の先遣隊が国境を突破しました! 鉄道建設の現場が襲撃されています!」
ガイウスが血相を変えて飛び込んでくる。帝国の使者が持ってきた「挑戦状」は、あくまで宣戦布告の儀式に過ぎなかったのだ。
「……来たか。シミュレーション通りだ。ガイウス、第一・第二小隊を出撃させろ。建設中の鉄道の脇にある防衛壕を展開し、敵をその『キルゾーン』へと誘い込め」
アルスは冷徹に命令を下す。王国側は鉄道建設を装っていたが、実際にはその防衛壕こそが、近代的な火力を集中させるための計算し尽くされた陣地だった。
アルスとロザリアは、王宮のテラスから北の地平線を見つめた。夜空を焦がす帝国の魔導火球が、次々と闇を切り裂いている。
「ロザリア、準備はいいか。これは私たちが共に作り上げた『王国』の、最初の防衛戦だ」
アルスがロザリアの手を握る。かつて冷徹な計算機だったアルスが、今は守るべき存在と、守るべき未来のためにその知能を全開にしている。
「もちろんですわ、アルス様。貴方が描いた地図の果てまで、この国がどう塗り替えられていくのか……この目で見届けてみせます」
「開戦だ」
アルスの静かな呟きとともに、王国軍の反撃が火を吹いた。帝国の魔導と、アルスの物流科学。大陸の覇権をかけた、史上最大の戦いが今、幕を開けた。




