第46話:防衛壕の防衛戦と帝国の鉄槌
国境線を越えて雪崩れ込んできた帝国の魔導部隊は、さながら地獄から解き放たれた猛火のようだった。数千もの魔石を埋め込んだ重装魔導騎士たちが、大気を焦がす熱球を放ちながら、建設中の鉄道沿いに配置された王国軍の防衛陣地を蹂躙しにかかる。
「初撃を凌げ! 全員、伏せろ!」
ガイウスの咆哮と同時に、大地が凄まじい衝撃波で揺れた。防衛壕の土壁が熱線で溶け、配置されたバリケードが爆風で宙を舞う。しかし、アルスが設計したこの陣地は、単なる土盛りではなかった。
「……計算通り。帝国の連中は、自らの魔力の威力を過信している。あちらの射程距離と、わが軍の鉄道敷設ルートの標高差。弾道計算は完遂されている」
アルスは王宮の地下司令部に鎮座し、前線から送られてくる膨大なリアルタイムデータを見ていた。彼の手元では、帝国の魔導騎士たちが放つ火球の軌跡が、極めて予測可能な「放物線」として可視化されている。
「バルド、第二区画の鉄道レールを電磁加速器として起動しろ。敵の魔導騎士の鎧の厚みから逆算し、装甲を貫通する最低限の出力で弾け」
「合点承知! 王子、全部食らわせてやるぜ!」
国境沿いに敷設された鉄道が、突如として巨大な兵器へと姿を変えた。トロッコに乗せて運ばれていたのは、ただの資材ではなく、超硬度のタングステン合金弾。それが電磁誘導によって亜音速で射出される。
帝国の魔導騎士たちが、誇らしげに熱球を放ったその一瞬の隙間。
彼らの頭上に、物理法則を極限まで圧縮した「鉄の雨」が降り注いだ。
――ズドォォン! という乾いた音と共に、帝国の先陣が鎧ごと粉砕される。
魔導防壁など意味をなさない。運動エネルギーという単純かつ圧倒的な暴力の前に、帝国の精鋭たちは木偶の坊のように崩れ落ちた。
「な、なんだ……!? 魔法の反応がない……ただの鉄の塊が、防壁を突き抜けただと!?」
生き残った帝国兵が恐怖に叫ぶ。だが、アルスの容赦はなかった。
「兵站を絶て。敵軍の背後、鉄道建設ルートの予備地点に設置した自動砲塔を一斉掃射しろ。奴らの退路を物理的に消去する」
アルスの冷徹な指先が、地図上の帝国軍を赤く塗りつぶす。
戦場はもはや帝国の魔導騎士たちの舞台ではない。アルスが組み上げた「鋼鉄の工場」が、侵入者を順番に解体していく装置へと変貌していたのだ。
王宮のテラスで、ロザリアはその戦果を眺めていた。彼女の傍らには、アルスがかつて実験場から凍結保存した「人造兵器の成れの果て」が、今はアルスの命令に従う守護者として控えている。
「アルス様、帝国の主力はまだ控えています。この防衛戦は、彼らにとっても想定外でしょう」
「ああ。敵が混乱している今こそ、計算を書き換える時だ。……ロザリア、これより前線へ向かう。この勝利の確定を、私が自らの目で確認する」
アルスは立ち上がり、戦場へと向かう決意を固める。
帝国の鉄槌に対し、彼は「個人の戦力」としてではなく、「王国のシステムそのもの」として戦場へ臨もうとしていた。




