第42話:民衆の支持と、偽りの王の断罪
王宮のテラスでの襲撃事件は、皮肉にもアルスの支配をより強固なものにした。
帝国が送り込んだ刺客が「王国の復興を阻害する外部の敵」として公表されたことで、民衆はアルスを「外敵から国を守る唯一の盾」として認識し始めたからだ。
「これより、王都広場にて、前宰相ヴァルガスと、教団に加担した貴族たちの公開裁判を行う」
アルスの冷徹な宣告が、王都中に響き渡る。
それは単なる処刑ではない。王国が長年抱えていた腐敗したシステムを、民衆の目の前で「デバッグ(浄化)」する儀式だ。
広場には数万の民衆が集まっていた。かつては宰相の重税に苦しめられ、教団の詭弁に惑わされた人々。彼らの前で、アルスは一切の装飾を排した簡潔な論理を積み上げた。
「これが、宰相が隠し持っていた裏帳簿と、教団との契約書だ」
アルスは空中にホログラムのように映し出された数値データを見せた。それは宰相が民から吸い上げた富の総額と、それを何に浪費したかという「無駄の極致」を示すリストだった。
数字は嘘をつかない。民衆は、自分たちの貧しさがどこに消えていたのかを、視覚的に理解した。
「殺せ!」「泥棒!」
罵声が渦巻く。しかし、アルスは冷めた目でそれを制した。
「感情的な報復に意味はない。……ヴァルガス、お前の罪は、国というシステムの稼働率を、意図的に五〇パーセント以下まで低下させたことにある。お前は管理者として失格だ」
ヴァルガスは悔しげにアルスを睨みつけたが、彼にはもはや反論の論理すら残されていなかった。すべてが、アルスの提示する厳然たる「数字」の前に粉砕されていたからだ。
その様子を、王宮の回廊からロザリアが静かに見守っていた。
アルスの背中は、かつてのような「冷たい機械」のようには見えなかった。民衆の未来を考え、無駄を削ぎ落とし、秩序をもたらそうとする彼の姿には、確かに「王」としての熱が宿り始めていた。
「……アルス様は、少しずつ変わっておられますわね」
ロザリアが呟くと、背後から声をかけられる。
「変わったのではない。……必要に応じて、優先順位を修正しただけだ」
アルスがいつの間にか背後に立っていた。彼は広場の熱狂を背にして、ロザリアの瞳をじっと見つめる。
広場の喧騒とは対照的に、二人の周囲には不思議な静寂が流れていた。
「お前が言っただろう。数字の隙間に心がある、と。……民衆の怒りも、期待も、今の私にとっては『制御すべきエネルギー』だが、それと同時に、守るべき『報酬』でもあると理解した」
アルスは迷いなく、ロザリアの手をしっかりと握った。
それは、数式を組み立てる際の手つきではなく、もっと不器用で、しかし確固たる意思のこもった動作だった。
「この国のシステムは、私が守る。だが、そのシステムの外側にある『私個人の領域』には、お前が必要だ。……ロザリア、今後も私の隣にいてくれるか?」
それはアルスなりの最大限の求婚だった。
ロザリアは頬を紅潮させ、力強く頷く。
「……はい。喜んで、その『計算外』のお守りをさせていただきますわ」
広場で断罪の鐘が鳴り響く中、二人の間には、王国という巨大なシステムをも超える、新しい絆が芽吹いていた。
宰相という大物バグを処理し、民衆の支持も確実なものにしました。いよいよ王国篇も後半戦です。




