第38話:玉座の残像、王都の地下に眠る「旧OS」
王宮へと続く大理石の廊下は、驚くほど静まり返っていた。かつては宰相の取り巻きたちが闊歩していた場所だが、アルスの軍勢が王都を「封鎖」した瞬間から、この場所から生命の気配は消え去っていた。
アルスは歩みを止めることなく、正確な足取りで玉座の間を目指す。その背後にはガイウスとロザリア、そしてルナが続いている。
「殿下、王宮の配置図と一致しません。地下へ続く隠し通路の魔力反応が、異常に高いですわ」
ロザリアが扇で指し示したのは、王宮の最深部、先代国王が眠るとされる墓所へ繋がる通路だった。アルスは【掌握の刻印】を広げ、視界の隅に浮かぶ無数の数値を確認する。
「……なるほど。宰相が固執していた『禁忌』の正体はこれか。王都そのものを巨大な魔法回路として駆動させる、旧時代のOSが地下に埋め込まれている」
「旧OS? ……あはっ、もしかして、この国が昔、魔力全盛の超文明だった頃の遺産ってこと?」
ルナの問いに、アルスは無言で頷く。
宰相・ヴァルガスが教団と手を組み、装甲腐死者を作り続けていたのは、単なる権力欲のためだけではなかった。彼は地下に眠るこの「旧OS」を再起動させ、王都のすべてを自分の支配下に置こうとしていたのだ。
玉座の間に到着すると、そこにはボロボロの衣服を纏い、狂気じみた笑みを浮かべた宰相が、祭壇の前で何かを祈り続けていた。
「遅かったな……王子よ。この王都は、すでに私の支配下にある。地脈を流れる魔力は、私という『管理者』の認証を求めているのだ。今さらお前の兵など、何の意味も持たぬわ!」
宰相が祭壇を強く叩くと、玉座の間の床が轟音と共に沈み込み、地下から無数の黒い影が這い上がってくる。それはこれまでの実験体とは比較にならない、古代の守護者たる「魔導兵器」の群れだった。
「ガイウス、ロザリア、後退しろ。ここは私の演算だ」
アルスは冷徹な眼差しで、這い上がる魔導兵器たちを眺める。
彼は右手を大きく広げ、【掌握の刻印】を最大出力で解放した。
「バルド、地脈の魔力を『回路』から切断しろ。供給源を遮断すれば、こいつらはただの鉄塊だ」
「おうよ! 地下の送電路はもう全部俺たちが乗っ取ってるぜ!」
要塞を制圧した際に得たノウハウで、アルスは王都の地下に張り巡らされた「古代の魔力配管」を、鉄道の分岐器のように完全に制御下に置いていた。
宰相がどれだけ呪文を唱えようと、その根底にあるエネルギー供給網は、すでにアルスの手中にある。
「管理者権限は、すでに書き換えた」
アルスが静かに告げると、這い上がってきた魔導兵器たちの眼光が、憎しみの赤から無機質な青へと一斉に切り替わった。それらは宰相に向かって振り返り、重々しい金属音を立てて歩み寄る。
「な、何を……っ! 貴様、何をした!?」
「管理者権限を上書きしたと言っただけだ。……お前という『バグ』を、システムが排除しにいく」
宰相の絶望の叫びが王宮に木霊する。
アルスは玉座を奪うのではなく、王国そのものを自分専用の「最適化されたシステム」へと再構築する第一歩を、ここで踏み出したのである。




