第37話:宰相の誤算と王都の強制収容(リセット)
王都を囲む城壁の上で、宰相・ヴァルガスは信じられないものを見るかのように目を細めていた。
自分が誇った「禁忌の実験体」が、まるで害虫駆除の如く、あっけなく霧の中に沈んでいったからだ。
「そんな……バカな。数十年かけて練り上げた、死霊魔導と帝国の錬金術の融合だぞ……! それが、ただの『霧』ごときに……!」
宰相の震える声に、アルスは王都の城門を背にして答えた。その声は増幅魔法で、城壁の上にいる宰相の耳にも正確に届くように調整されていた。
「魔法も錬金術も、未知の力ではない。ただ、お前たちが『計算できていないエネルギーの揺らぎ』に過ぎない。ルナの噴霧器は、その揺らぎを強引にゼロに収束させたまでだ。……バグを除去するのに、派手な大魔法など必要ない」
アルスが右手を上げると、背後の鉄道から降りた兵士たちが、王都の全入り口を完全に封鎖した。
同時に、ドワーフのバルドが設計した「巨大な金属製の檻」が、トロッコから次々と降ろされる。
「おい、何をしようというのだ……!」
「王都の『正常化』だ」
アルスの合図と共に、兵士たちが王都の住人たちへ向けて、拡声魔法で宣言を繰り返す。
「これより王都の全経済活動は、エリュシオン王子の管理下に置かれる。配給は効率的に行い、悪徳な搾取は禁ずる。……抵抗する者、あるいは宰相に与する者は、これより『処理』の対象とする」
王都の中枢である市場や銀行、そして食糧庫。それらすべてが、アルスの【掌握の刻印】にリアルタイムで数値として吸い上げられていく。
宰相がこれまで王都の住民を恐怖で支配し、隠し持っていた裏金や食糧の隠し場所までもが、アルスの演算によって一瞬で見抜かれた。
「貴様、私を誰だと思っている! この国の実質的な支配者だぞ! 王家に、そしてこの国に、私の許可なく……っ!」
「支配者? 笑わせるな」
アルスは宰相を見上げ、冷たく言い放った。
「お前はただ、効率の悪いやり方で資源を浪費し、国家という盤面を混乱させていただけの『不要なプロセス』だ。今日限りで、その権限を強制終了させる」
アルスが指を鳴らすと、王都の地下に張り巡らされていた宰相の私兵団の通信網が、バルドの仕掛けたハッキング工作によって一斉に沈黙した。
指揮系統を奪われた私兵たちは、もはや何をしていいか分からず、ただ武器を捨てて呆然と立ち尽くすしかなかった。
王都は、一滴の血も流すことなく、アルスという新しい「システム」に上書きされていく。
宰相の権力という名のバグが消え、王都はアルスの支配下で、かつてないほどの安定した「稼働」を始めようとしていた。
「さあ、宰相。玉座の間へ行こうか。お前が今まで溜め込んだ『数字』を、全て書き換えさせてもらう」
アルスは表情一つ変えず、王宮の正門へと足を踏み入れた。
彼にとって王都制圧とは、ただの「国家の初期化」に過ぎなかったのである。




