第35話:冷徹なる王子の凱旋、そしてシステムの外へ
黒鋼山脈の要塞が静まり返った頃、空は白み始めていた。
要塞の跡地には、アルスの指揮下で整然と並ぶ三万の兵士たちの姿があった。彼らは疲労の色を隠さないが、その瞳にはかつてないほどの確信と、アルスへの絶対的な信頼が宿っている。
「……第1段階の目標、達成。鉄資源の確保および教団の重要拠点の無力化、完了」
アルスは手元の羊皮紙を閉じ、右手の【掌握の刻印】を軽く撫でた。
そこには、王国の物流再建に向けた膨大な計算結果が、一つの巨大な樹形図のように展開されている。
「マイ・ロード、教団の幹部たちは全員捕縛しました。宰相との繋がりを示す証拠も、すべてここに」
ロザリアが血の付いた書類束を差し出す。その表情には、戦い抜いた安堵感と、これから始まる「王都での復讐劇」への冷徹な期待が混ざっていた。
「ああ。……これより、我が軍は王都へ進軍する」
アルスが号令を下すと、山を貫く鉄道網に、戦利品と資材を山積みにしたトロッコの列が、まるで鋼鉄の龍のように動き出した。
それは、かつて「歩いて進むしかなかった」軍隊の姿ではない。国を物理的にも経済的にも連結する、エリュシオン王国の新しい「動脈」の姿だった。
「待ってください、殿下。王都には宰相の軍勢に加え、教団が残した『最後の駒』が潜んでいるとの噂があります。……魔法という枠組みを超えた、禁忌の実験体たちです」
ガイウスの警告に、アルスは鼻で笑った。
「システムの外にいる存在か。……構わん。彼らがどれだけ理不尽な奇跡を信じていようと、俺の構築した『物理の法則』の前では、等しくエネルギーの消費体に過ぎない」
アルスの灰色の瞳が、遥か遠く、王都の方向を見つめる。
彼の隣には、狂気の軍医ルナが浄化のデータを持って合流し、背後には偏屈なドワーフ・バルドが仕掛けた巨大な兵器の数々が鎮座していた。
「この国は、歪んだ人間によって管理されていた。……これからは、俺の『数字』で管理する」
アルスの一歩が、大地を揺らす。
王都の闇を払い、真の王として盤面を支配するために。
アルスの軍勢は、これまでで最も速い速度で、最も冷酷な結末へと進み始めた。




