第34話:玉座の裏側の「コード」と、明かされた真実
要塞の最深部、邪神の祭壇が置かれた玉座の間。
教団の幹部たちは、アルスの軍勢に追い詰められ、最後の手段である「儀式」を起動しようと必死になっていた。
「この先へは行かせん……! 神の御使い、死を撒き散らす『滅びの種』を解き放つ!」
幹部が祭壇の中心に短剣を突き立てる。
すると、要塞の床が大きく波打ち、地下深くに眠っていた巨大な「魔力の核」が脈動を始めた。それは、教団が鉄錆の要塞の地脈から吸い上げていた、莫大なマナの結晶体だった。
祭壇から漏れ出した漆黒の霧が、要塞全体を覆おうとする。
それは毒などという次元を超えた、空間そのものを腐食させる「崩壊の呪い」だった。
「……空間干渉か。物理的障壁では防げんか」
ガイウスや兵士たちが霧に触れ、鎧が異音を立てて消滅し始める。
絶体絶命の危機――だが、アルスは動じない。彼は右手の【掌握の刻印】を操作し、要塞の全構造データにアクセスしていた。
「バルド、鉱山都市の地下の『排水路』を開けろ」
「へへっ、お待ちかねだ!」
アルスの命令と同時に、山脈の麓でドワーフたちが巨大な水門を開放した。
山に貯められていた大量の地下水が、トロッコ用のトンネルを一気に逆流する。
それは水ではない。鉄道敷設の際にバルドが仕込んでいた、鉱山から採掘された「超高純度の精製水」と「中和用の特殊鉱石」の混合液だ。
「な、何を!?」
幹部が叫ぶ中、要塞の地下に洪水のように押し寄せたその液体は、祭壇の魔力の核と接触した瞬間に激しく反応した。
――ズボォォォォォォォン!!
魔力の核が水を吸い込み、爆発的な勢いで「結晶化」して固まった。
祭壇から噴き出していた漆黒の霧が、まるで魔法が解けたかのように霧散し、要塞を覆っていた呪いも霧消する。
「な、なぜだ……なぜ我が神の核が……」
アルスは呆然とする幹部に歩み寄り、祭壇の裏側に埋め込まれていた「装置」を指差した。
「教団の連中は、魔法を『奇跡』と呼ぶが……所詮は、自然界のエネルギーを無理やり歪める『バグの塊』に過ぎない。エネルギーのバランスさえ崩せば、どんな強力な魔法もただの物理的な物質に変換できる」
アルスは装置から、教団の幹部たちが崇拝していた「黒い手紙」を抜き取った。
そこには、アルスがこれまで戦ってきた邪神教団の背後にいる、王国内部の協力者(裏切り者)の名が刻まれていた。
「……やはりな。エリュシオンの宰相、か。……この国の物流を意図的に滞らせ、国内を貧窮させることで教団を台頭させた黒幕は」
アルスの灰色の瞳が、初めて「激しい怒り」に似た冷たい光を宿した。
それは効率を愛する彼にとって、最も許しがたい「盤面を内側から食い荒らす害虫」の存在を意味していたからだ。
「要塞の制圧は完了した。……ガイウス、残党を捕縛しろ。ここからは、教団狩りではない。王国の『掃除』を始めるぞ」
要塞の崩落が始まり、夜明けの光が要塞の奥深くまで差し込んでくる。
アルスたちは真の黒幕、王都の闇へと向かう新たな盤面へと足を踏み入れた。




