第33話:腐死の装甲を剥ぐ、鉄と火の連鎖
「な、なんだこの力は……ッ! 我らの装甲は、黒鋼と死霊の呪法によって、通常の兵器など寄せ付けぬ強度を誇るはず……っ!」
要塞の広場に降り立ったガイウスの前に、装甲腐死者の大隊が立ちはだかった。
ゾンビたちは厚い黒鋼の胸当てを身に纏い、生前の武術をなぞるように鈍い剣を振るう。通常ならば、剣で斬りつけても鋼の鎧に弾かれ、槍で突いても死霊の呪いで即座に肉を再生させる厄介な敵だ。
しかし、アルスは冷めた目で戦況を眺めていた。
「呪法も魔法も、物理的な『損耗』には勝てん。……バルド、第三ラインを『硬質合金破砕弾』に切り替えろ。ゾンビの装甲の接合部をピンポイントで狙い撃つ」
山肌を貫くレールから、けたたましい金属音と共に「それ」が放たれた。
それはトロッコに積まれた巨大なハンマー状の重金属弾。要塞の中央へ突入した兵士たちの頭上を越え、ゾンビの背後の壁を正確に打ち抜く。
――ドォォォォン!!
壁が崩れ、大量の瓦礫と鉄の破片がゾンビの群れに降り注ぐ。
装甲の接合部が歪み、鎧がめり込み、ゾンビたちの動きが物理的に制御不能となった。
「今だ! ガイウス、頸椎の露出部を叩け!」
「応ッ!!」
ガイウスの大剣が、歪んだ鎧の隙間へと正確に突き刺さる。
呪法による再生も、骨格そのものが鉄塊で砕かれてしまえば発動しようがない。
一歩、また一歩と、ゾンビの軍団が瓦礫と鉄粉の中で沈黙していく。
「あ、ありえない……あんな効率的な破壊……」
要塞の玉座に陣取っていた幹部が、震える手で黒い儀式書を握りしめる。
彼らにとって戦争とは、悲鳴と血と死霊の舞踏であるはずだった。しかし、目の前で行われているのは、まるで工場の検品ラインのような「徹底的な排除作業」だ。
「魔力消費率を確認。要塞内の防衛機構、稼働率十五パーセントまで低下」
アルスの声がインカムを通じて前線に響く。
彼は広場の中心にまで進み出ていた。その足元には、無数のゾンビの残骸が整然と積まれている。
「ネリア、予備の燃料を前線に投下しろ。……残ったゾンビは、すべて焼き尽くす」
「了解! マイ・ロード!」
頭上のレールから、今度は油をたっぷり含んだ「焼夷弾の缶」がバラバラと降り注ぐ。
それらがゾンビの装甲に付着し、兵士が放った火矢が触れた瞬間、広場は巨大な火炉と化した。
「ひ、ひぃぃ……ッ!」
逃げ惑う幹部の足元に、アルスの革靴が近づく。
その表情には、勝利の歓喜も、敵への憎しみもない。あるのは、計算通りの結果が出たことへの静かな満足感だけだった。
「お前たちが要塞を鉄で固めたことで、結果的に『火葬のための密閉空間』が出来上がったな。……効率的な処理、感謝する」
要塞を覆っていた死の鎧は、剥がされ、砕かれ、そして灰へと還った。
残るは、教団の幹部たちが隠し持っていた「秘密」を引きずり出すだけだった。




