第32話:物流の質量爆撃(ロジスティクス・メテオ)
「……殿下、何が飛んでくるのですか?」
ガイウスの問いに、アルスは答える代わりに右手の【掌握の刻印】を城壁の先――教団の要塞中央へと向けた。
「弾丸ではない。……『物流』そのものだ」
次の瞬間。要塞の背後にある切り立った崖の上から、地鳴りのような轟音と共に、何かが空を覆い尽くすようにして降り注いだ。
それは、鉱山都市の奥深くで採掘された数千トンもの「黒鋼の鉄塊」と「粉砕された岩盤」だった。
本来、トロッコを使って効率的に輸送されるはずだった資源が、バルドの設計した「強制射出装置」によって、要塞の真上へとリアルタイムで転送・投下されたのだ。
「ぐ、ぐぁぁぁっ!?」
城壁の上に並んでいた装甲腐死者たちが、空から降ってきた岩盤と鉄塊の直撃を受け、鎧ごとぺしゃんこに潰される。
それは教団が要塞を固めるために積み上げた土砂を、逆利用して作り出した「質量の奔流」だった。
「ひ、ひぃぃ……ッ! 迎撃しろ! 魔法で、魔法で空を塞げ!」
要塞の司令塔にいた教団の幹部が狂ったように叫ぶ。
しかし、その声は山を揺るがす轟音にかき消された。
「第二波、投下完了。……予測通り、教団の防御障壁は単一方向からの攻撃には強いが、上方からの『継続的な質量供給』には対応できない」
アルスは冷徹に状況を監視し、バルドに指示を送り続ける。
「バルド、射出レートを三パーセント上げろ。このまま要塞の構造体そのものを『資材』として粉砕する」
「ガハハハ! 任せろ王子! 鉄道ってのは最高だぜ! 積み込みが止まらねぇ!」
山を貫く鉄道網は、一度始動すれば止まらない。
鉱山で採掘された鉄が、そのままトロッコに乗せられ、要塞の頭上から「爆弾」として降り注ぎ続ける。
どれだけゾンビを補充しようと、どれだけ防御魔法を張ろうと、物理的な質量はそれを上回る速度で供給される。
要塞の門が、歪み、弾け飛び、崩落した。
鉄壁の防壁が、ただの「瓦礫の山」へと変貌していく。
「……前線部隊、進め。抵抗力はすでに規定値以下だ」
アルスが静かに右手を下ろすと、これまで膠着していた隘路に、エリュシオンの軍勢が雪崩のように突入を開始した。
「さぁ、掃除の時間だ! 瓦礫に埋もれたゾンビどもを、一匹残らず片付けろ!」
ガイウスが咆哮し、先頭を切って崩れた門を駆け抜ける。
魔法も呪いも通用しない。ただの「大量輸送」という名の暴力が、教団の鉄壁を完全に蹂躙していた。
要塞の最深部で、教団の幹部たちは絶望に震えていた。
彼らが信じていた神の加護は、ただの「効率の良い物流システム」の前に、鉄クズのようにすり潰されていたのである。




