表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
兵站王の戦記〜追放王子の無敗論理〜  作者: リリリリス


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
30/39

第30話:偏屈な職人と、効率という名の「贈り物」

帝国との国境付近、黒鋼山脈の麓に潜む地下集落。

そこは、かつて帝国の兵器開発を支え、今は迫害を逃れて隠れ住むドワーフたちの隠れ里だった。


ロザリアの先導でその地に降り立ったアルスたちの前には、不機嫌そうに巨大な金槌を振るう一人の老ドワーフが立っていた。


バルド。かつて帝国軍の魔導兵器を一手に引き受けた、伝説の機巧職人である。


「帰れ。人間どもに貸す手など、持ち合わせておらん」


バルドは鼻を鳴らし、アルスを一瞥もせずに作業を続けた。


彼の周囲には、修理を待つ壊れた機械の山が積み上げられている。どれもこれも、戦乱の傷跡を深く刻んだ遺物ばかりだ。


「我々は、お前たち王国の貴族が作り出す『戦争』という名のゴミ捨て場ではない。二度と来るな」

「バルド、お前の工房にあるその回転式の魔動炉、設計図より出力が十パーセント低下しているぞ。排熱効率の計算をミスっているな」


アルスの冷徹な指摘に、バルドの手が止まった。


「……何だと? 初めて見た機械の構造を、一目で見抜いたというのか?」


「設計図など見ていない。この工房全体のエネルギー消費と振動数、そして排気口からの熱流量から逆算すれば、不良箇所など明白だ」


アルスは右手の【掌握の刻印】を一瞬光らせ、工房内のすべての機械のステータスを可視化した。

彼の脳内には、バルドが何十年かけて作り上げた工房の「稼働率」と「限界点」が、完璧なデータとして映し出されている。


「お前の工房は素晴らしい。だが、お前はここで『ただ修理をしているだけ』だ。それはあまりに非効率で、資源の無駄遣いだ」


「……何だと? 俺の職人芸を無駄遣いだと抜かすか!」


「そうだ。お前は一つの部品を磨くために一日を費やすが、俺のシステムを使えば、同じ品質のものを十分で百個生産できる」


アルスは懐から、一枚の羊皮紙を取り出した。

そこに描かれていたのは、これまで誰も見たことのない『魔動トロッコ(鉄道)』の基本設計図と、それを支える『規格化された連結部品』の全データだった。


「お前の技術は、一点物の骨董品を作るためではなく、大陸全土に『鉄の動脈』を通すために使われるべきだ。……バルド、お前の人生の最後に、最高に効率的で、そして世界を根底から覆す『物流の革命』を見てみたいとは思わんか?」


バルドはアルスの差し出した設計図を恐る恐る手に取った。

そこには、自分たちが長年夢見ていた「重厚な鉄を、どこまでも運び続ける仕組み」が、狂気的なまでの緻密さで描かれていた。


「……お前、狂っているのか? こんな規模の敷設、王国全土の資源を注ぎ込まねば到底不可能だぞ……っ!」


「すでに確保済みだ。西の森の木材、南の食糧、そして東の鉱山。これらすべてを繋ぐための『レール』を、お前に敷いてほしい」


アルスは不敵に微笑んだ。

それは、感情を排した冷徹な王子が見せた、唯一の「挑戦者としての顔」だった。


「俺のシステムに足りないのは、物理的に物資を叩き込むための『鉄の槍』だ。……バルド、俺の軍隊システムのパーツになれ。お前の技術を、俺の計算ロジスティクスで増幅させてやる」


沈黙が流れた。

やがて、バルドはガハハと豪快な笑い声を上げた。


「いいだろう! こんな図面を見せられて、職人が引き下がれるか! ……ただし、報酬は高くつくぞ、小僧!」


「相場通りだ。ただし、俺の工程表スケジュールに遅れたら、容赦なく解雇するぞ」


偏屈な天才職人が、アルスの「最強の兵站国家」の設計陣に加わった。


東部の鉄壁を崩すための、物流爆撃の準備が今、始まった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ