第28話:ルナの遺産と、芽吹く大地
西の大森林が浄化されてから数日。
かつては紫色の毒霧に覆われ、死の沈黙に支配されていた森には、少しずつ本来の緑が戻り始めていた。
「……アタシ、この森に居残るよ」
隔離テントを片付ける兵士たちを横目に、ルナがぶっきらぼうに言った。
「魔女の研究室に戻るつもりか?」
「違うよ。この森の土壌には、まだヒュドラの細胞片と毒素の残滓がある。これを完全に『浄化する細菌』をアタシが作り上げるんだ」
ルナの三白眼には、相変わらず狂気と好奇心が宿っていたが、その矛先はもはや「解剖」ではなく「大地を治すこと」に向けられていた。
「あんたの言った『システムとしての医療』……ちょっとだけ面白いと思ったんだ。毒をバラ撒く連中より、毒を無効化する方が、アタシの好奇心を刺激するみたいだよ」
アルスは少しだけ目を細め、ルナの白衣を指差した。
「好きにしろ。ただし、森の浄化データは毎日定期的に報告しろ。次の戦場(東部)でも、お前の知識は必要になる」
「わかってるって! ……あ、あとさ、殿下」
ルナは少しだけ照れくさそうに、腰にぶら下げた特製の解毒ポーチをポンと叩いた。
「今回のアプデで、アタシの薬は進化してる。次に戦う相手がどんな化け物でも、アタシの『科学』で絶望させてあげるよ。……だから、ちゃんとアタシの予算は死守してよね、効率の悪魔様!」
アルスは小さく頷き、背を向けた。
「ああ。お前の研究予算は、この国において何よりも優先される項目だ」
東部の鉱山都市へ向かうための輸送準備が、着々と整っていく。
軍医ルナという「狂気のパーツ」を手に入れたことで、アルスの盤面はさらに強固なものへと組み上がった。
しかし、東部にはまた別の、教団が用意した「鉄壁の恐怖」が待っている。
黒鋼の鎧を着たゾンビ軍団に対し、アルスはドワーフの技術と鉄道網という、史上最大の「規格外の破壊システム」を投入しようとしていた。
「次は、山を削って道を作る。……準備はいいな、ガイウス」
「はっ! どんな岩山であろうと、殿下の指揮下ならば粉砕してみせます!」
死の森を越えた軍勢は、その歩みを止めることなく、東部の鉄壁(鉱山都市)へと向かって進軍を開始する。




