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兵站王の戦記〜追放王子の無敗論理〜  作者: リリリリス


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第26話:白蛇の輸送線と、アップデート完了

「どけェッ! 邪魔な木は馬車ごと突っ込んでなぎ倒せェッ!」


夜の街道を、猛烈な勢いで疾走する荷馬車の群れがあった。


先頭で手綱を握るネリアが、目を血走らせながら絶叫する。

本来なら食糧や武器を運ぶはずの巨大な物流ルート。


アルスの緊急命令を受けたネリアは、その全リソースをたった一つの物資『白蛇草はくじゃそう』の輸送のみに全振りしていた。


「マイ・ロードの帳簿システムに、穴を開けさせてたまるかよ! 商人の意地を見せてやる!」


限界まで酷使された馬たちが泡を吹き、車輪が軋む音を立てながら、ネリアの輸送部隊は死の森の野営地に滑り込んだ。


「殿下! 『白蛇草』、市場にあるだけ全部持ってきたよ!」


「遅い。四分三十秒の遅刻だ」


アルスは懐中時計を見つめ、冷たく言い放つ。


「ルナ! 素材は揃ったな!」


「あはははっ! 最高のタイミングだよ、ネリア!」


医療テントから飛び出してきたルナが、荷馬車から白蛇草の束をひったくるように奪い取る。


「よし! 待機中の手の空いてる兵士、全員アタシのテントに集まれ! これから新薬の『抽出』と『フィルターの量産』の工場作業ラインを立ち上げるよ!」


前線で五分間の死闘が繰り広げられる中、野営地の後方では、ルナの指揮による狂気的な突貫工事が始まった。


巨大な魔動鍋で白蛇草を煮詰め、抽出した液を予備のフィルターに次々と染み込ませていく。

医療と兵站、そして兵士たち自身が工場労働者となって、迫り来るデッドラインと戦っていた。


――そして、約束の十時間が経過した。


「第一小隊から第六小隊、フィルターの予備在庫、ゼロになりました! 兵士たち、限界です!」


後方で在庫管理をしていたロザリアが、悲痛な声を上げる。


前線では、ヒュドラが勝利を確信したかのように、三つの首をもたげて最大のブレスを放とうとしていた。


「……これで、終わりだね」


テントの中から、ルナが真っ白に染まった新しいフィルターを手に、ふらつきながら姿を現した。


「マイ・ロード。防毒システムのアップデート(新薬)、完了したよ。……耐久時間は、余裕の三時間だ」


「ご苦労。……前線へ回せ!」


アルスの号令と共に、新品の『白いフィルター』が、限界を迎えていた前線の兵士たちの元へ次々と投げ渡される。


「全軍、フィルターを『白』に換装! これより我が軍は、五分の呪縛から解放される!」


ガイウスが真新しい白いフィルターをマスクにカチャリと装着し、大剣を天高く掲げた。

その瞬間、ヒュドラの放った最大の変異毒ブレスが、最前線の兵士たちを飲み込んだ。


――ジュワァァァァッ!!


赤黒い猛毒の霧が、兵士たちの体を包み込む。

だが。


「……なんだ? 全く息苦しくないぞ!?」


「ルナ先生の新薬だ! 毒が完全に浄化されてる!!」


白いフィルターを通った空気は、森の澄んだ空気そのものだった。

五分間隔の死の往復を強制されていた兵士たちの目に、再び圧倒的な戦意が宿る。


「……反撃の数字は揃った」


陣幕の奥で、十時間ぶりにアルスが羊皮紙から顔を上げた。


「兵站線は復旧した。これ以上の防御行動は時間の無駄だ。……全軍、そのトカゲを物理的にすり潰せ」


「オォォォォォォッ!!!」


三時間の行動制限を得た三万の兵士たちが、怒涛の反撃を開始する。


教団の理不尽な変異毒すらも、人間の「物流」と「科学」、そしてアルスの完璧な「管理」によってねじ伏せられた瞬間であった。

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