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兵站王の戦記〜追放王子の無敗論理〜  作者: リリリリス
第1章 王国篇

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第16話:統一される刃と悪女への糖分補給

エリュシオン王都、中央兵器庫。

帝国軍から奪い返したこの巨大な施設には、王国の兵士たちが使う武具が山のように保管されていた。

しかし、それを視察に訪れたアルスの顔には、かつてないほどの深い嫌悪感が浮かんでいた。


「……ひどい有様だ。まるでゴミ溜めだな」


アルスの呟きに、護衛のガイウスが首を傾げる。


「そうですか? 剣も槍も十分に数がありますし、中には名工が打った素晴らしい装飾の業物も混ざっていますが」


「それが最悪なんだ、ガイウス」


アルスは手元にあった長剣を二本、適当に抜き出して床に並べた。


「右の剣は長さが八十センチ、左の剣は八十五センチ。重心も、柄の太さも違う。……こんなバラバラな武器を持たせて、どうやって兵士に『同じ動き』を訓練させるつもりだ?」


「そ、それは……各々の体格や好みに合わせて……」


「戦争は個人の武勇発表会ではない。俺のシステムにおいては、兵士もまた『均一な歯車』でなければならない」


アルスは掌の【掌握の刻印】を光らせ、兵器庫全体のインベントリ(在庫情報)を脳内に展開した。


「剣が折れた時、柄のサイズが違えば部品の使い回しができない。鎧のネジの溝が一つ違うだけで、前線での修理に三倍の時間がかかる。……そんな非効率な真似をしていれば、疲れ知らずの『バケモノ(邪神の軍勢)』を相手にした時、間違いなく兵站が崩壊する」


アルスは振り返り、付き従っていた軍の鍛冶頭たちに冷徹な命令を下した。


「ネリアが買い集めた鉄鉱石を使って、今すぐすべての武器と鎧を『作り直せ』。剣の長さ、重さ、ネジのピッチ、盾の厚み。……すべて俺の指定した『規格サイズ』に完全統一しろ。一ミリの誤差も許さん」


「す、すべて作り直し!? そんな無茶な……!」


「やれ。装飾はいらん。美しさもいらん。必要なのは、誰が使っても同じ威力が出て、どの部品でも一瞬で交換できる『絶対に止まらない軍隊』だ」


有無を言わさぬアルスの気迫に、鍛冶頭たちは青ざめながらも深く首を垂れ、作業へと走っていった。



「……相変わらず、無茶苦茶な御方ですわね」


兵器庫の奥。

埃っぽい木箱の上に腰掛けていたロザリアが、扇の陰からくすくすと笑い声を漏らした。


彼女の足元には、南部の教団の動きを調査させていた裏社会の諜報員たちからの、膨大な報告書が散乱している。


「笑い事ではない。教団が土壌を腐らせる速度は、想定を上回っている。早急に軍を再編し、南部の土地を『浄化』しに行かなければ、この国は飢え死にするぞ」


アルスは帳簿に目を落としたまま答えたが、ふとペンの動きを止め、ロザリアの顔を見つめた。


艶やかな黒髪に透き通るような白い肌。

しかし、その目元には隠しきれないくまが浮かび、唇の血色も悪かった。


教団という未知の脅威を探るため、彼女はこの数日間、ほとんど眠らずに王都中の情報網をコントロールし続けていたのだ。


「……ロザリア」


「はい、我がマイ・ロード。次の指示――」

言いかけたロザリアの顔に、不意に何かが押し付けられた。


アルスがどこからか取り出した、掌サイズの丸い物体。


それは、砂糖と蜂蜜がたっぷりと塗られた、王都で一番高価な焼き菓子だった。


「え……?」


「食え」


突然のことに目を白黒させるロザリアに、アルスは極めて事務的なトーンで言い放った。


「人間の脳は、一日に消費する基礎代謝の約二十パーセントものエネルギーを喰う。お前のその真っ青な顔は、明らかにカロリー不足によるシステムエラーの兆候だ。糖分は脳の最も効率的な燃料になる」


「あ、あの、殿下……?」


「お前の『悪意』と『情報操作能力』は、俺の盤面において代替不可能な超重要パーツだ。こんなところで倒れられて効率を落とされると、非常に腹が立つ。……だから、大人しくその高カロリーを摂取して休め」


アルスの言葉には、ロザリアを気遣うような甘い愛の囁きなど一切なかった。


あるのはただ、「大切なパーツを壊したくない」という、どこまでも理屈っぽくて不器用な所有欲だけ。


けれど。

かつて社交界で「愛している」「君が一番美しい」と甘い言葉を囁かれ、最後には無残に裏切られてすべてを奪われたロザリアにとって。


打算も嘘もない、純度百パーセントの『合理性』で自分を必要としてくれるアルスの不器用な優しさは――彼女の凍りついていた心を溶かすのに、十分すぎるほど温かかった。


「…………ふふっ」


ロザリアは小さく吹き出すと、扇を閉じ、両手で大切そうにその焼き菓子を受け取った。


「本当に、殿下はどこまでも数字と効率の事ばかり……。呆れるほどロマンチックの欠片もありませんわね」


「事実を言ったまでだ。早く食え」


「ええ、いただきますわ。……こんなに『甘い』お菓子、私の人生で初めてかもしれません」


焼き菓子を小さく齧るロザリアの頬は、かすかに朱に染まっていた。


その微笑みは、裏社会を支配する「悪女」のものではなく、年相応の美しい少女のそれだった。

規格化されていく冷たい鉄の武器。


それとは対照的に、最弱の王子と悪女の間に結ばれた絆は、少しずつ、しかし確実に、血の通った熱を帯び始めていた。


アルスらしい「カロリーと効率」を言い訳にした不器用な気遣いが、愛を信じられなくなったロザリアの心にクリティカルヒットする展開を描いてみました。

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