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南国の着膨れた花嫁と領主様  作者: 陽花紫


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3/5

白と赤

 あの日以来、レウは少しずつ、アダンが仕立てた夏服で日々を過ごすようになっていく。

 初めは恥ずかしがって上に布を掛けていたものの、次第に、自然と風を受け入れるようになっていた。


 アダンもまた、揃いの金の薄布に袖を通し、にこやかにその姿を見つめていた。


 しかし時折、胸の奥がわずかにざわつく。


 ――太陽よりも、レウの肌の白さのほうが眩しいなんて……。


「アダン様……。どうか、しましたか……?」

「……いいや?相変わらず、よく、似合っているよ……」

「……ありがとうございます……」


 レウにとって、故郷は捨てがたいものでもあった。

 しかしアダンが選んだこの生地が、故郷の景色を思い出せる。


 ――僕は、もう寂しくはない。だって、アダン様が僕の隣にいてくださるから……。


 レウもまた、にこやかに笑いかけながら、アダンの瞳を見つめて言った。


「僕、この服が……大好きです……」

「それはよかった!……俺も、レウと揃いで嬉しいよ」


 二人は静かに、その手を重ねて歩き出す。

 軽やかに歩くその姿は、まるで一つの眩い光のようでもあった。


「風を着るって、こんなに素晴らしいことなんですね……」

「……そうだよ。それに、隣にレウがいるから……」


 ふと、アダンが立ち止まる。

 夕暮れ時のあたたかな陽の光が、アダンの衣服を黄金色に染めていく。


 ――綺麗。


 思わずレウがその姿を見つめれば、アダンもまた熱の籠った瞳で見つめ返す。


 いつしか二人の間には、確かな愛が育まれていたのだ。


「レウ。この国に来てくれて、ありがとう……」


 レウはたまらず、アダンに向けて抱きついた。

 薄い服の裾が風に舞い、光を透かして揺れていた。

 その身を静かに抱き留めて、二人はそっと唇を重ねていく。


「アダン様、大好きです」

「……俺も。大好きだよ、レウ……」


***


 この国の夏は、陽が長い。

 朝も昼も、光が絶えずに降り注ぐ。


 レウはようやく、この国での生活に慣れ始めていた。

 その日も、庭で薬草の世話をしていた。


 故郷の北国では雪の下で育つ根ばかりであったものの、この国の植物は、陽の光を受けて大きく育つ。

 目にする花の色も鮮やかで、若葉も大きく。眺めているだけで、まるでこちらまで活力が湧いてくるようでもあったのだ。


「……いい匂い……」


 夢中になって作業を続けるあまり、気づけば太陽は真上にあった。

 照り付けるような陽射しが、じりじりとレウの肌を刺していく。

 しかしレウは、そのようなことは気にすることなく手元の土を慣らしていく。


 しかし、夜になり部屋へ戻ると、ひりつくような痛みが背中を走る。


「……あれっ?」


 鏡の前で上着を脱げば、そこには白い肌にくっきりと赤い線が浮かんでいた。

 それは、袖の跡や襟の跡。それぞれの形に、焼けた部分と焼けていない部分とがわかれていたのだ。


「……これは……」


 そこへ、呼び掛ける声が響く。


「もう、休むかい?」

「……ア、アダン様……。少しだけ、お話が……」


 アダンが部屋に入ったその瞬間、白と赤のまだら模様が目に入る。

 まるで陽のいたずらが残した模様であるのかように、レウの背中は日焼けをしていたのだ。


「……レウ!大丈夫かい?痛みは?」

「はい。少し……。でも、大丈夫ですよ……」

「大丈夫な顔じゃない、ほら!そこに座って?薬を塗ろう」


 すぐさま棚から薬瓶を取り出し、アダンは寝台に座るレウの背に向けて、そっと薬を塗り付けた。

 アダンの指先が肌をなぞるたびに、思わずレウは息を呑む。


「痛かっただろう?こんなに、焼けて……」

「すみません……。今日はやけに陽が強いとは思っていましたが……まさか、ここまでとは……」

「この国の陽は、時に、獣よりも激しいと言われている。……それに、君みたいに白い人を、どうしても惹きつけてしまうんだなあ」

「……惹きつける?」

 背後を振り返るレウに向けて、アダンは苦い笑みを返していく。

「……そう。陽の光でさえ、君を見つめずにいられなかったんだろう……」


 まるで詩人のようなその語り口に、レウのは耳まで赤くなる。

 薬を塗り込みながら、アダンはその肌を静かに見つめた。


 ――白と赤の、境目。


「……綺麗だ」


 思わずこぼれた言葉に、レウは顔を上げる。

「……えっ?」

「……いや、この色の差が、美しい。この国の者にはない、肌の変化だ」

 アダンは笑いながら、ゆっくりと自らの手のひらを当てていく。


「……ほら、ここ。少し赤いけど、命の色をしているようにも思えないかい?」


 そのような言葉に、レウは再び頬を染めて俯いた。


「……そ、そんなふうに言われたのは、……初めてです……」


 アダンの手が、ゆっくりとその背を撫で上げた。


「北国では、白い肌の者が好まれると聞いたのだけれど……。それは本当かい?」

「……はい。焼けるのは、外の仕事をする者だけだと……」


 何とも言い難いむず痒さに、レウは思わず身をよじる。

 くすりと笑いながら、アダンは耳元で囁いた。


「でも俺は……、陽を浴びた君の肌のほうが好きだな……」


 その声には、確かな愛が宿っていた。

 レウは返す言葉を見つけることができずに、ただ小さく頷くだけであった。

 しかしアダンは、満足げに頷いた。


「さ、もう寝よう。明日もまた、薬を塗ってあげるよ」

「……ありがとう、ございます……」


 その夜、アダンは目を閉じるたびにレウの背中の色を思い出す。


 白と、赤。


 ――まるでこの国が彼に触れて、彼がこの国を受け入れた証のようだ。


 そのようなことを考えながら、静かに笑みを深めていく。


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