白と赤
あの日以来、レウは少しずつ、アダンが仕立てた夏服で日々を過ごすようになっていく。
初めは恥ずかしがって上に布を掛けていたものの、次第に、自然と風を受け入れるようになっていた。
アダンもまた、揃いの金の薄布に袖を通し、にこやかにその姿を見つめていた。
しかし時折、胸の奥がわずかにざわつく。
――太陽よりも、レウの肌の白さのほうが眩しいなんて……。
「アダン様……。どうか、しましたか……?」
「……いいや?相変わらず、よく、似合っているよ……」
「……ありがとうございます……」
レウにとって、故郷は捨てがたいものでもあった。
しかしアダンが選んだこの生地が、故郷の景色を思い出せる。
――僕は、もう寂しくはない。だって、アダン様が僕の隣にいてくださるから……。
レウもまた、にこやかに笑いかけながら、アダンの瞳を見つめて言った。
「僕、この服が……大好きです……」
「それはよかった!……俺も、レウと揃いで嬉しいよ」
二人は静かに、その手を重ねて歩き出す。
軽やかに歩くその姿は、まるで一つの眩い光のようでもあった。
「風を着るって、こんなに素晴らしいことなんですね……」
「……そうだよ。それに、隣にレウがいるから……」
ふと、アダンが立ち止まる。
夕暮れ時のあたたかな陽の光が、アダンの衣服を黄金色に染めていく。
――綺麗。
思わずレウがその姿を見つめれば、アダンもまた熱の籠った瞳で見つめ返す。
いつしか二人の間には、確かな愛が育まれていたのだ。
「レウ。この国に来てくれて、ありがとう……」
レウはたまらず、アダンに向けて抱きついた。
薄い服の裾が風に舞い、光を透かして揺れていた。
その身を静かに抱き留めて、二人はそっと唇を重ねていく。
「アダン様、大好きです」
「……俺も。大好きだよ、レウ……」
***
この国の夏は、陽が長い。
朝も昼も、光が絶えずに降り注ぐ。
レウはようやく、この国での生活に慣れ始めていた。
その日も、庭で薬草の世話をしていた。
故郷の北国では雪の下で育つ根ばかりであったものの、この国の植物は、陽の光を受けて大きく育つ。
目にする花の色も鮮やかで、若葉も大きく。眺めているだけで、まるでこちらまで活力が湧いてくるようでもあったのだ。
「……いい匂い……」
夢中になって作業を続けるあまり、気づけば太陽は真上にあった。
照り付けるような陽射しが、じりじりとレウの肌を刺していく。
しかしレウは、そのようなことは気にすることなく手元の土を慣らしていく。
しかし、夜になり部屋へ戻ると、ひりつくような痛みが背中を走る。
「……あれっ?」
鏡の前で上着を脱げば、そこには白い肌にくっきりと赤い線が浮かんでいた。
それは、袖の跡や襟の跡。それぞれの形に、焼けた部分と焼けていない部分とがわかれていたのだ。
「……これは……」
そこへ、呼び掛ける声が響く。
「もう、休むかい?」
「……ア、アダン様……。少しだけ、お話が……」
アダンが部屋に入ったその瞬間、白と赤のまだら模様が目に入る。
まるで陽のいたずらが残した模様であるのかように、レウの背中は日焼けをしていたのだ。
「……レウ!大丈夫かい?痛みは?」
「はい。少し……。でも、大丈夫ですよ……」
「大丈夫な顔じゃない、ほら!そこに座って?薬を塗ろう」
すぐさま棚から薬瓶を取り出し、アダンは寝台に座るレウの背に向けて、そっと薬を塗り付けた。
アダンの指先が肌をなぞるたびに、思わずレウは息を呑む。
「痛かっただろう?こんなに、焼けて……」
「すみません……。今日はやけに陽が強いとは思っていましたが……まさか、ここまでとは……」
「この国の陽は、時に、獣よりも激しいと言われている。……それに、君みたいに白い人を、どうしても惹きつけてしまうんだなあ」
「……惹きつける?」
背後を振り返るレウに向けて、アダンは苦い笑みを返していく。
「……そう。陽の光でさえ、君を見つめずにいられなかったんだろう……」
まるで詩人のようなその語り口に、レウのは耳まで赤くなる。
薬を塗り込みながら、アダンはその肌を静かに見つめた。
――白と赤の、境目。
「……綺麗だ」
思わずこぼれた言葉に、レウは顔を上げる。
「……えっ?」
「……いや、この色の差が、美しい。この国の者にはない、肌の変化だ」
アダンは笑いながら、ゆっくりと自らの手のひらを当てていく。
「……ほら、ここ。少し赤いけど、命の色をしているようにも思えないかい?」
そのような言葉に、レウは再び頬を染めて俯いた。
「……そ、そんなふうに言われたのは、……初めてです……」
アダンの手が、ゆっくりとその背を撫で上げた。
「北国では、白い肌の者が好まれると聞いたのだけれど……。それは本当かい?」
「……はい。焼けるのは、外の仕事をする者だけだと……」
何とも言い難いむず痒さに、レウは思わず身をよじる。
くすりと笑いながら、アダンは耳元で囁いた。
「でも俺は……、陽を浴びた君の肌のほうが好きだな……」
その声には、確かな愛が宿っていた。
レウは返す言葉を見つけることができずに、ただ小さく頷くだけであった。
しかしアダンは、満足げに頷いた。
「さ、もう寝よう。明日もまた、薬を塗ってあげるよ」
「……ありがとう、ございます……」
その夜、アダンは目を閉じるたびにレウの背中の色を思い出す。
白と、赤。
――まるでこの国が彼に触れて、彼がこの国を受け入れた証のようだ。
そのようなことを考えながら、静かに笑みを深めていく。




