第3話
【城塞都市ディストール】
何十万、何百万人と住むこの街を【魔物】【妖魔】から護るために、すっぽりと街を高い壁で囲った大都市の1つ。
壁の高さは15mもあり、その大都市は要塞と化していた。この城塞を造り上げたのが【ヴォング】の配属されている会社【シーウォング社】である。
だが、元々は電器店だった……と知る者は今は少ない。
その【シーウォング社】が十数年という歳月を懸け、造り上げたのがこの壁だった。
初めは市民を護るために、市長から頼まれ造り始めた城塞だった。しかし今は……ある少女を護るための城塞となっている。
【シーウォング社】は城塞都市のほぼ中央にそびえ立つ、100階建てのビル。地下も存在してはいるが、何階あるのかは詳細不明である。
警ら隊……いわゆる対魔物の兵を持つ事で有名だが、実態はただの事業団体。普通の会社だ。電器店としては勿論、医薬品、武器兵器まで扱う "普通の会社" である。
◇*◆*◇
「情報通り "村" はあったのか?」
シーウォング社に戻った "ゼロ" 達に、スラリとした青年が声を掛けた。
背丈はモデルの様に高く、歩く姿だけでもすべての女性が魅了し必ず振り返ると言われる。この金髪蒼瞳の眉目秀麗の20代の男。
「社長」
名を【アルフォード=ディラ=シーウォング】と云い、このシーウォング社の若き社長である。
「……村はありました……が」
フレモント主任は、無表情に首を横に振った。
そしてそこで何があったか、どれだけ無惨だったか状況を細かく説明した。生存者がいなかった事も。
「そうか」
アルフォード社長は表情一つ変えなかった。
生存者がいる事も、村が現存している事の方が稀。廃村は別段珍しくもない。良くある事だったからだ。
「社長……ティリスは?」
ゼロ主任が、辺りをチラリと見た後に訊いた。
いつもなら真っ先に自分達の帰りを迎えてくれる、少女の姿が見当たらなかったのだ。
【シーウォング社】の天使。
神子、聖女とも言われる、美しい少女。
「ウェズの森に探索に行った班がほぼ壊滅。生存者の治療に行っている」
彼を一瞥すると、社長は何の感情も見えない声で言った。
生き残れただけでも奇跡だった程、酷い惨状だったのか、彼の表情からは何も読めない。
それよりも、彼の心は違う事に向けている様子に感じた。
そんな酷い惨状から、命辛々帰って来たヴォングよりも、その治療にあたっている少女の方を、心配しているのかもしれない。
「……ほぼ壊滅……ですか?」
ゼロ主任は眉根を寄せた。
この街から北西にあるウェズの森には、ゼロよりは劣るが実力を兼ね備えた探索隊、1stヴォングが向かっていたハズだった。なのに壊滅である。それほどまでに強い魔物にでも遭遇したのだろうか。
街を囲む壁の外には、数多くの魔物が棲息している。そのため、まだ行っていない知らない土地が、いくつもあった。
飛行機やヘリコプターで簡単に行ければ良いのだが、強力な磁場が発生する場所でもあるらしく、早々には行けない。
何故なら、そういった場所は、計器を狂わせ動かなくさせる【磁場】というモノがあり、安易には行けないのだ。
だから、空や海からはそう簡単には行けず、地道な地上作戦で探索を続けていた。
「あぁ。気にするなとは言わんが、お前達は身体を休めろ」
壊滅的と聞いて気にならない訳がない。だが、社長はお前達が出来る事はないとばかりに、踵を返し治療室へと足を向けた。
「探索班は?」
その背に向かってゼロ主任が、1つだけ尋ねた。
「カイムを筆頭に数名。全員意識不明だ」
無機質な声でそれだけ答えると、今度こそ後にしたのであった。
この都市【ディストール】の北西にあると云われている【ウェズの森】。最近になって、そこに居住者がいるのでは? と俄に噂があったのだ。
たが、そこは人が容易に踏み入れる場所ではない。
高い山々に囲まれる様にある樹海の入り口。山々から吹き下ろす風も磁場も強いとされ、空からは決して行けない森であった。
まだまだ知られていない魔物も多く、調査も兼ね、ゼロの次に強い【1stヴォング】数名が捜索、探索にあたっていたのだ。
それが、先程帰還した。命辛々で。一体何があったのか。
ゼロ主任達は、カイム達の回復を祈るしかなかった。