3-3 新生レンジャー部隊の解散
「悠里のお墓参りについてくるなんてダメ。絶対ダメだからね」
神楽祐一は、いつになく強い口調でそう言った。
調理実習の翌日のことだ。両親から一泊旅行の許可を取ったわたしと伊藤亮介は、神楽くんにお墓参り旅行への同行を直談判していた。押しに弱い彼のことだから、こっちが強気に出れば何とかなるだろうと思ったんだけど……予想外の反応だ。
伊藤亮介が、こっそり耳打ちしてくる。
(やっぱ二人っきりで行きたいんだ。隊長、こりゃヤバイです。神楽のヤツ、ヤル気満々であります)
しかたなく作戦を変更することにした。
ちょっと悔しいけど神楽くんが好きなのは、わたしのようなお上品でキレイで完璧な女子よりも、三谷さんのようなボーイッシュでちょっとだらしない守ってあげたくなるような女の子らしい。
上等じゃない。同じ土俵に乗ってやろうじゃないの。
今日のファッションは、滅多に着ないオーバーオールのダメージ・ジーンズで森ガール風。髪はツインテールにして元気さをアピールしている。準備は万端だ。
わたしは、いつも三谷さんが忘れ物を借りに来る時みたいに神楽くんの前にしゃがみこむと、両手を合わせてわざと下手くそなウィンクをした。
「お願いぃ、ただおとなしくついて来るだけだからぁ。この間の映画のときもいいコにしてたしぃ。一緒に行ってもいいでしょぉ。てへっ」
――完璧だ。
あまりにパーフェクトなおねだり娘っぷりに惚れ惚れしていると、いきなり伊藤亮介に髪を引っ張られた。
「隊長は、それはキモイであります!」
「なによ、敬語で髪引っ張るのやめなさいよ!」
「レンジャー! しかし、標的も恐がってるであります!」
「え? 神楽くんが恐がってるって、何で? わかぁーんない!」
わけがわからなくて小首をかしげる今日のわたしは、無防備な森の妖精のイメージ。
どうだ、これなら絶対にほっとけないだろ。
そう思ってさらにほっとけない光線を出し続けていたら、伊藤亮介に思いっきり頭をはたかれた。
「なあ、神楽、別にオレたちはオマエらを邪魔する気はないんだ。見ず知らずの人間と一緒にお参りするのがイヤなのなら、墓参りの間はどっか別の場所に居たっていい。ただオレたち、中学ではおまえらと別々になっちまうだろ。せっかくだから、一緒に思い出になることができればいいなって思ってさ」
伊藤のヤツ、バカのクセになかなか言うじゃない。
「隊長……じゃなくて、須崎だって、成績はいいくせに頭ワリィからこんなキモイことしちゃってるけど、要はオマエと仲良くなりたいってことなんだぜ」
(!?)
ちょっと見直したと思ったら、調子に乗って何言い出すんだこのバカは。そんなこと言ったら、まるでわたしが神楽くんを好きみたいじゃないか。
あわあわと挙動不審になるわたしを無視して、伊藤は神楽祐一に頭を下げ手を合わせた。
「な、だから、墓参りについていくくらいいいだろ。頼む。この通り」
ところが、神楽くんは頑なに譲らなかった。
「思い出が作りたいんなら、そのうち遊園地とかにでも行こうよ。とにかく、お墓参りはダメ。もし勝手についてきたりしたら、二人ともゼッコーだからね」
叫ぶように言うと、ランドセルを掴んで走り去ってしまう。
「ちょっと待てよ! 隊長、標的が逃走しました! 追いかけましょう!」
伊藤亮介に急かされたけど、わたしはなんだか腰が抜けて動けなかった。
「何やってるんですか、隊長! しっかりして下さい!」
「さっき、彼言ったよね。思い出作りに遊園地に行こうって」
頭の中に、さっきの神楽祐一の言葉が甦る。
ユウエンチトカニデモイコウヨ
「レンジャー! しかし、そんな妄言にごまかされる我が隊ではありません!」
たしかに、彼は「思い出作りに遊園地に行こう」って言った。それって、それってもしかして……
「それって、デートってことかな?」
「れ、レンジャー?」
「デートのお誘いだったのかな?」
前もって言っておくけど、わたしは決してモテないわけじゃない。でもきっと高嶺の花過ぎて、男子から見たら手を出しづらいんだろう。こんな風に、男の子からどこどこへ行こうって誘われたのは、生まれて初めてのことだった。
なんだかボォーっとして頭が上手く働かない。
伊藤亮介がわたしの両肩を揺すって、何やら叫んでいた。
「隊長! 我々の目標はMDD阻止であります! 騙されないで下さい! 傷は浅いぞ、しっかりしろっ!」
「う、うん。でも、ついていったら絶交だって言われたし。絶交されたら遊園地行けなくなるよね」
「ちくしょー! 神楽のヤツ、なんて非人道的な兵器を遣いやがるんだ!」
何を言われても上の空のわたしに、伊藤亮介のため息混じりのつぶやきが聞こえてきた。
「……戦死した須崎隊長に、敬礼!」




