罪の自白
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
夜。
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政治家の自宅。
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広い部屋。
静かな空間。
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一人の男が、ソファに座っている。
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テレビの音。
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その時。
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空気が、変わる。
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風が止む。
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音が消える。
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男が顔を上げる。
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「……誰だ」
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誰もいない。
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はずだった。
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目の前の椅子に、老人が座っている。
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いつからいたのか分からない。
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「……」
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男の顔が強張る。
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「警備は——」
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言葉が続かない。
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老人は、静かに言う。
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「横領は、誰がやった」
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男は、笑おうとする。
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「何の話だ」
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その瞬間。
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床が、歪む。
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空間が、ねじれる。
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逃げ場が、なくなる。
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「……っ」
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男の呼吸が乱れる。
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「違う、俺じゃない」
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「部下が勝手に——」
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言い訳が、口から出る。
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だが。
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「通らない」
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老人の一言。
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その瞬間。
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言葉が“成立しない”。
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嘘が、形を保てない。
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「……っ、やめろ」
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男の声が震える。
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「俺は……」
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逃げようとする。
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「上からの指示で——」
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口が勝手に動く。
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止められない。
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「……あの男を使った」
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目が見開かれる。
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「金も、証拠も……全部作った」
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震える声。
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「……あいつに被せた」
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沈黙。
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老人は、ただ見ている。
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「……消してくれ」
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男が崩れる。
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「今の……」
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懇願。
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だが。
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「消えない」
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一言。
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次の瞬間。
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世界が戻る。
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音が戻る。
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風が動く。
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老人はいない。
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■
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翌日。
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ニュース。
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『新たな証言が明らかになり——』
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『事件は大きく動きを見せています』
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映像。
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あの政治家。
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憔悴した顔で、言葉を発する。
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『……私が関与しました』
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■
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住宅街。
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テレビの前。
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あの男が、立ち尽くしている。
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画面の中の言葉を、聞いている。
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「……」
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何も言えない。
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やがて。
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その場に崩れる。
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「……親父……」
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声が、震える。
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涙が落ちる。
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止まらない。
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■
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遠くから、その家を見ている影。
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宮島悟。
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「……」
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何も言わない。
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ただ、見ている。
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結果だけが、そこにある。
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正しかったはずのこと。
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だが。
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胸の奥が、少しだけ重い。
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「……」
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振り返る。
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誰もいない。
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だが、分かる。
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“見られている”
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観測されている。
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そのまま、歩き出す。
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何もなかったかのように。
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ただ一つ。
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取り返しのつかない何かだけを残して。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




