観測者
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
夜。
班目唯は、パソコンの画面を睨んでいた。
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記事が並ぶ。
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横領事件。
政治家の自白。
再捜査。
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すべてが“解決している”。
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「……早すぎるでしょ」
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小さくつぶやく。
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普通じゃない。
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事件が動く速さ。
証拠が出るタイミング。
証言が変わる流れ。
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どれもが、出来すぎている。
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「……こんな綺麗に繋がる?」
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スクロールを止める。
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指が止まる。
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「……誰かが、やってるみたい」
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その言葉に、自分で違和感を覚える。
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「……いや、ないか」
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あり得ない。
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そんなこと。
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はずなのに。
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■
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翌日。
大学構内。
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班目は歩きながら、昨日の記事を見返している。
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ふと、足が止まる。
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前を歩く男。
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宮島悟。
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ただ歩いているだけ。
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何も変わらない。
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普通の学生。
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「……」
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目で追う。
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理由はない。
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ただ、引っかかる。
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「……なんでだろ」
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自分でも分からない。
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ただ。
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“何かに関係してる気がする”
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根拠のない感覚。
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カフェ。
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悟が一人で座っている。
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何もしていない。
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ただ外を見ている。
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班目は少し離れた席に座る。
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コーヒーを頼む。
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視線は向けない。
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だが、意識は向いている。
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「……普通だよね」
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見た目も、態度も。
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どこにでもいる。
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それなのに。
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「……なんでだろ」
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違和感が消えない。
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店内で、小さな音がする。
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誰かがコップを倒す。
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床に落ちる。
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ガシャン、と割れる。
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普通の出来事。
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店員が慌てて片付けに来る。
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「申し訳ありません」
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誰も気にしない。
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日常。
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班目は、その光景を見ている。
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何もおかしくない。
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それでも。
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「……」
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さっきまでの“違和感”が、消えない。
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■
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帰り道。
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スマホを見る。
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またニュース。
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『新たな証言により、事件は大きく進展——』
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同じ流れ。
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同じ速さ。
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「……こんなにうまくいく?」
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立ち止まる。
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空を見上げる。
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「……偶然?」
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違う気がする。
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でも、証拠はない。
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何もない。
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■
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夜。
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オフィス。
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斉藤和樹が資料を見ている。
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「班目」
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呼ばれる。
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「今回の件、どう思う」
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班目は少し考える。
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「……変です」
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はっきり言う。
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「全部、出来すぎてます」
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斉藤は、少しだけ笑う。
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「だよな」
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同意。
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だが。
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「証拠は?」
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問い。
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班目は、言葉を失う。
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「……ないです」
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静かに答える。
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斉藤は頷く。
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「じゃあ記事にはできない」
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現実。
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班目は唇を噛む。
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「……でも」
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小さく言う。
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「何かあります」
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斉藤は、少しだけ目を細める。
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「……だろうな」
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短く答える。
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「探せ」
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一言。
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その夜。
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班目は一人で歩いている。
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街灯の下。
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スマホの画面。
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事件の流れ。
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人物。
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タイミング。
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「……どこだ」
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何かがある。
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見えていないだけで。
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確実に。
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「……見えてないだけか」
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その言葉が、静かに落ちる。
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風が、少しだけ強く吹く。
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誰もいないはずの空間。
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だが。
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ほんの一瞬。
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“何かに見られている”気がした。
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振り向く。
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誰もいない。
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ただの夜。
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「……気のせい、か」
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そう言いながらも。
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班目は、少しだけ足を速めた。
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まだ、知らない。
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だが。
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確実に近づいている。
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“観測”へと。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




