罪の始まり
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
夜。
ニュースの音だけが、部屋に流れている。
『大手企業における横領事件について——』
宮島悟は、ベッドに座ったまま画面を見ていた。
『社内調査の結果、元経理担当の男性による不正が確認され——』
映像に、一枚の写真が映る。
スーツ姿の中年男性。
穏やかな顔。
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『なお、当該男性は今月上旬、自宅にて死亡しているのが確認されており——』
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少しの間。
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『警察は自殺とみて調べを進めています』
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悟の視線が止まる。
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「……自殺」
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画面には、会社の会見。
頭を下げる役員たち。
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『誠に遺憾であり——』
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どこかで聞いたような言葉。
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悟は、スマホを手に取る。
検索。
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『横領 会社名』
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記事が並ぶ。
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『単独犯の可能性』
『管理体制の不備』
『動機は不明』
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どれも同じ。
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「……一人でやったことになってるのか」
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スクロールを止める。
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違和感。
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理由は分からない。
だが——
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「……これ」
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小さくつぶやく。
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「“なかったこと”にされてないか」
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画面を見つめる。
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あの感覚。
消された会話。
出てきた映像。
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「……調べるか」
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立ち上がる。
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理由は、はっきりしない。
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ただ。
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気になった。
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それだけだった。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




