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この世は観測されるまで存在しない  〜世界で唯一魔法が使える俺が、日本の闇を書き換えた結果〜  作者: soletes


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ずれていく日常

※この物語はフィクションです。

あなたが観測するまでは。


昼。



 大学の食堂は、いつもより少しだけ騒がしかった。



「見た?あの事件」



「やっぱ裏あったんだな」



「普通じゃなかったもんな」



 あちこちで同じ話題が飛び交っている。



 杉並四丁目一家殺害事件。



 長い間止まっていたものが、突然動いた。



 それだけで、異常だった。



 宮島悟は、その中にいた。



 席に座り、何も変わらない顔で食事をしている。



 だが。



「……」



 周囲の声が、どこか遠くに感じる。



 耳には入っている。



 理解もできる。



 それでも、どこか現実味がない。




「なあ悟」



 横から声。



 振り向くまでもなく分かる。



 吉田凪。



 いつも通りの距離感。



「やっぱあれさ、絶対揉み消されてたよな」



 パンをかじりながら、軽い調子で言う。



「企業とか政治とか、裏で繋がってるやつ」



 笑いながら続ける。



「結局そういうのってバレんのな」



 悟は、ゆっくりと視線を向ける。



「……そうだな」



 短く答える。



 凪は気にせず話を続ける。



「でもさ」



 一拍。



「なんで今なんだろうな」



 軽い口調のまま。



「こんなん、もっと前に分かりそうじゃね?」




 悟の手が止まる。



「……」



 言葉が出ない。




「まあいいけど」



 凪は肩をすくめる。



「解決したならそれでよくね?」



 あっさりと。



「被害者的にもさ」




 その言葉。



 妙に引っかかる。




「……結果、か」



 悟が小さくつぶやく。




「ん?」



 凪が首を傾げる。




「いや」



 それ以上は言わない。






 講義中。



 教授の声が前から流れてくる。



 だが、頭には入っていない。



 悟は、ただ前を見ていた。



 視界の端。



 誰かがノートを落とす。



 床に当たる音。



 カラン、と。




 その瞬間。




 音が、わずかに遅れる。




「……」



 悟の目が、ほんの少し動く。




 違和感。




 ほんの一瞬。



 気のせいと言えば、それで終わる程度のズレ。




「……今の」




 考える。



 だが、結論は出ない。






 夕方。



 帰り道。



 信号が赤に変わる。



 人が止まる。




 青に変わる。



 歩き出す。




 普通の光景。




 悟も足を止める。




 だが。




 次の瞬間。




 まだ赤のはずの信号を、誰かが渡っている。




「……」




 目で追う。




 渡りきる。




 その直後。



 信号が青に変わる。




「……遅い」




 小さくつぶやく。




 ズレている。




 ほんのわずか。




 だが。




「……おかしいな」




 視線を上げる。



 信号は、何もなかったかのように青のまま。




 周りの人間も、誰も気にしていない。




「……」




 違和感だけが残る。






 夜。



 部屋。



 静かな空間。




 悟は、ベッドに座ったまま考えていた。




 事件のこと。



 ニュースのこと。



 さっきの信号。



 音のズレ。




「……」




 点と点が、ゆっくりと繋がっていく。




「……触ってるな」




 小さく言う。




 何かが。




 世界に。




「……誰が」




 一拍。




 その言葉が、止まる。




 答えに近づきすぎている。




「……」




 目を閉じる。




 あの時。



 あの瞬間。




 “見えなかったものを見せた”




 それだけのはずだった。




「……なのに」




 違和感は消えない。




 むしろ。




 広がっている。




 ゆっくりと。




「……ズレてる」




 世界が。




 ほんの少しだけ。




 元に戻らない方向へ。




 動いている。


——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。

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