本来の形
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
朝。
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ニュースの音が、街に流れている。
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『——杉並四丁目一家殺害事件について、新たな進展です——』
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画面には、現場の映像。
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『これまで不明とされていた時間帯に関し、新たな映像データが確認され——』
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スタジオがざわつく。
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『複数の人物が関与していた可能性が高いとみられています』
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■
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編集部。
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班目唯は、画面を見つめたまま動かない。
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再生される映像。
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ノイズ。
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その中に映る影。
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一人ではない。
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二つ。
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いや——
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「……三人?」
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思わず、口に出る。
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動きは、無駄がない。
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迷いもない。
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まるで。
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「……知ってるみたい」
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現場を。
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構造を。
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時間を。
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■
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「班目」
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斉藤の声。
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振り向く。
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いつもと変わらない表情。
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だが、目だけが違う。
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「見たか」
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「……はい」
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短く答える。
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斉藤は画面を見る。
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数秒。
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「……やっぱりな」
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小さく言う。
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「単独じゃない」
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確信。
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班目は頷く。
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「それと——」
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斉藤が続ける。
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「この動き」
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画面を指す。
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「素人じゃない」
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一拍。
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「“準備してる”」
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班目の背中に、冷たいものが走る。
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「……準備」
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「事前に、な」
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斉藤は目を細める。
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「カメラの位置も、死角も」
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「全部把握してる動きだ」
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「……じゃあ」
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班目が言葉を探す。
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「偶然じゃないんですか」
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問い。
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斉藤は、少しだけ笑う。
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「最初から偶然じゃない」
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一言。
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■
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別のニュース。
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『また、被害者の父親が勤務していた企業に関し——』
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画面が切り替わる。
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企業名。
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会見。
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『内部調査の結果、一部不正の可能性が——』
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班目の目が見開く。
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「……繋がってる?」
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■
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大学。
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昼。
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ざわつく教室。
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「なあ見たか?」
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吉田凪が、いつもの調子で話しかけてくる。
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「事件、めっちゃ進展してんじゃん」
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スマホを見せる。
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「犯人、複数っぽいぞ」
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笑いながら。
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「やっぱ一人であれは無理だよな」
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悟は画面を見る。
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ニュース。
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映像。
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情報。
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「……そうだな」
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短く答える。
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凪は続ける。
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「でもさ」
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一拍。
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「なんで今さらなんだ?」
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軽い調子のまま。
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「こんなん、もっと前に分かりそうじゃね?」
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悟の視線が、わずかに止まる。
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「……」
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答えない。
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■
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編集部。
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班目は、一人で資料を見ていた。
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映像。
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動き。
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企業。
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全部が、繋がっていく。
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「……偶然じゃない」
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小さく言う。
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明確な証拠はない。
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だが。
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「……揃いすぎてる」
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視線を落とす。
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考える。
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「……誰かが」
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そこで止まる。
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言葉にできない。
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したくない。
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■
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夜。
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宮島悟。
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部屋。
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窓の外を見る。
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街は、いつも通り。
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何も変わらない。
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だが。
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「……変わったな」
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小さくつぶやく。
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事件は動いた。
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真相に近づいた。
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それは事実。
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だが。
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「……これでよかったのか」
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一拍。
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自分に問いかける。
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答えは出ない。
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ただ。
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確実に。
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“なかったもの”を。
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“あったもの”にした。
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その結果だけが、残る。
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静かな部屋。
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時計の音。
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悟は、目を閉じる。
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「……」
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何も言わない。
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だが。
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ほんのわずかに。
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迷いが生まれる。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




