見えない時間
※この物語はフィクションです。
あなたが観測するまでは。
夜。
宮島悟は、スマホの画面を見つめていた。
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事件の記事。
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ページを切り替える。
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『周辺の防犯カメラには、被害者の帰宅や通行人の動きが記録されており——』
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その一文で、指が止まる。
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「……あるのか」
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小さくつぶやく。
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防犯カメラ。
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つまり。
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「見えてるってことだよな」
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映像がある。
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なら。
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分かるはずだ。
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誰が来て、誰が出ていったか。
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普通なら。
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「……なのに」
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スクロールする。
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『犯人とみられる人物の明確な出入りは確認されていません』
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その一文。
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悟は、画面を見つめたまま動かない。
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「……矛盾してるだろ」
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ある。
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でも、ない。
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見えてる。
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でも、分からない。
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「……どうなってる」
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■
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編集部。
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班目唯は、複数の映像資料を並べていた。
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現場周辺の防犯カメラ。
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時間ごとの動き。
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人の流れ。
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「……ここまでは分かる」
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指で追う。
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被害者の帰宅。
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その後の時間。
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通行人。
車。
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すべて、記録されている。
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だが。
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「……ここから」
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ある時間帯。
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わずかな空白。
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完全に“ない”わけではない。
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ただ。
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つながらない。
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「……おかしい」
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■
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「どこがだ」
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後ろから声。
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斉藤和樹。
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班目は振り返らず答える。
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「時間が、変なんです」
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画面を指差す。
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「ここ」
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斉藤が覗き込む。
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「この時間帯だけ、動きが不自然なんです」
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説明する。
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「人の流れはあるのに」
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「“関係ある動き”だけ抜けてる」
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一拍。
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「まるで——」
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言葉を探す。
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「……避けてるみたいに」
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斉藤は、何も言わずに見ている。
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数秒。
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「……違うな」
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静かに言う。
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班目が顔を上げる。
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「避けてるんじゃない」
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一拍。
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「“通ってる”」
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班目の思考が止まる。
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「……え?」
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理解が追いつかない。
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斉藤は、画面を指す。
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「ここ、全部あるだろ」
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人の流れ。
車。
時間。
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「じゃあなんで“だけ”抜けてる」
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一拍。
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「そこを通ってるからだ」
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班目の背中に、冷たいものが走る。
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「……そんなこと」
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あり得ない。
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でも。
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否定できない。
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大学。
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講義室。
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宮島悟は、前を見たまま考えていた。
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防犯カメラ。
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出入り。
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時間。
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「……あるのに、ない」
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小さくつぶやく。
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頭の中で、並べる。
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点と点。
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そして。
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「……そこだけ、見えてない」
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一つの結論に近づく。
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「死角か」
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だが。
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普通の死角じゃない。
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「……都合よすぎる」
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ピンポイントで。
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必要な場所だけ。
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「……作ってるな」
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一言。
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確信に近い。
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■
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夜。
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班目は、一人で映像を見ていた。
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何度も繰り返す。
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同じ時間帯。
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同じ流れ。
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違和感は、消えない。
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「……見えてるのに」
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小さく言う。
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「なんで分からないの」
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答えはない。
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だが。
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気づいてしまう。
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「……見えてないだけか」
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■
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同じ夜。
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宮島悟。
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部屋。
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窓の外を見る。
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暗い街。
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「……あるな」
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小さく言う。
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確信。
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「見えてないだけで」
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一歩、前に出る。
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空気が、わずかに揺れる。
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まだ触れていない。
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だが。
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次に進めば。
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“見える”
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その直前。
——この物語は、あなたに観測されたことで成立しました。




