第88話
東の山を探索する準備が整った。とりあえず今回も往復で2ヶ月程度を考えている。そこで収穫がなければ次はさらに遠くまで出かける計画を立てるつもりだ。
朝に東門を出たジョージは山裾に沿って東に進む。街を出て5分もするとマイプ、ティラノと言った魔獣がジョージを見つけて襲いかかってくる。それらを倒し、左右をチェックしながらときおり中腹付近まで登ってあたりを調べる。その間にも魔獣との戦闘は続く。
夕刻になると大きな枯れ木、それがなければ山の上部にある森の中の大木を見つけては木の枝で野営をする。基本緩やかな山裾がずっと向こうまで続いている。確かに3年で探し尽くしたと言える程の狭さではない。
ジョージは当初の予定通り、街から1ヶ月間東方面を進み、それから1ヶ月かけて砂漠の街に戻ってきた。今回の遠出の最中に木彫りの女神像が震える事は一度もなかった。
ホテルに戻ってきた彼は、部屋でシャワーを浴びると机の上に女神像を置いた。
「今度は片道2ヶ月、いや3ヶ月かけて東西を探す。このエリアにあるのは間違いない。見つけるまで付き合ってもらうぜ」
久しぶりに街に戻ってきたジョージ。戻ってきた翌日、市内にある武器・防具屋に顔を出した。
「おや、久しぶりだね。街の外に出ていたのかい?」
店に入ったジョージの姿を見た店主のマンセルが声をかけてきた。いつ会っても彼は落ち着いた表情だ。
「そうなんですよ。2ヶ月程外に出ていました」
「迷い人は大変だね」
「まあ、それが仕事ですから。ところで何か面白い物、良い物は入りました?」
「ジョージが今装備しているクラスの装備の入荷はなかったね」
「そうですか。また顔を出しますので」
「商売相手の迷い人はいつでも歓迎だよ」
店を出た彼はホテルに戻る。今日は完全休養日で外に出るつもりはない。
他に客がいないホテルのレストランで1人でオーダーした昼食が来るのを待っていると女性が2人レストランに入ってきた。カロライナとエミリアだ。
「ハーイ、ジョージ」
手を挙げて近づいてくる。
「やあ。久しぶり」
「一緒していいかしら?」
「どうぞ。今日は外に出るつもりはない。今から昼飯だよ」
席について料理をオーダーした2人。
「私たちも今日は出かける予定はないのよ」
2人とも遠出から戻ってきたばかりのようだ。
「どうだった?」
カロライナが聞いてきた。ジョージが首を左右に振ると私たちもね。と彼女が言った後でエミリアが続ける。
「成果がなくても続けるしかないんだよね。1回成果があればそれがゴールなんだから」
「その通りだ」
3人に焦りや悲壮感はない。やるべきことは決まっている。それを日々こなすだけだと割り切った考えをしていた。これはここにいる3人だけではなく、砂漠の街にいる迷い人の多くが同じ考えだ。このエリアが怪しいと決めて腰を落ち着けている。そこの腹さえ括れていればいい。
他の街であればゲートはもっと南の街にあるんじゃないかという気持ちになるだろうが、ここは本当に南の端だ。ここから南には迷い人を拒絶する様に広大な砂漠が広がっている。文字通りここがデッドエンドだ。皆腰を据えて活動している。
「ジョージも街に戻って来たばかりなら、しばらくは近場で身体を動かす感じなのかな」
「その通り、近場で身体を動かして疲れを取り、元気になったらまた遠出をするつもりだよ」
「ソロだから大変よね」
カロラインとエミリアが交互に聞いてくる。
「そうでもないさ。魔法袋はある。1人だから好きに予定を立てられる。誰にも気を使う必要がない。戻ろうと思えばいつでも戻れる。逆にあと1週間頑張るかってのも自分で決められる。困るのは長期間外に出ると飯が単調になることだけだよ」
「そうそう。外に出ててもしばらくするとここのレストランの食事が食べたいと思うのよね」
「まあ、これはどこの街でも同じでしょうけどね」
「2人は遠出をする時はがっちり予定を組むのかい?」
ジョージが聞くとそうじゃないと言う2人。
「私たちはそうじゃない。だいたいの期間を決めて、その期間の食料や薬品を準備して、行くエリアを決めて外に出たらあとはその場の状況に応じて臨機応変に対応しているわ」
「エミリアの言った通りよ。まあ私達はこの世界に来た時からパーティを組んでいるのでもうお互いに何を考えているのかが分かるし、変に気を遣うこともないというのもあるかもしれないけどね」
「あとは民族性もあるかも。私たちの出身はコロンビアとウルグアイ。南米系でしょ?ラテン系はおおらかなのよ。これがドイツ人ならガッチリしてるかもしれない。日本人もそうじゃない?」
「確かに。一般論だけど日本人は良く言えば規律を守る。悪く言えば融通が効かない。一度決めたことを変更する場合には理由を求められる事が多いかもな」
2人が言う様に元いた国の民族性にもよるなとジョージは納得する。
料理を食べ終えると3人はそのままお茶にする。ジョージはコーヒーで2人はジュースをオーダーした。相変わらず昼間のレストランにいるのは3人だけだ。
ゲートに関する情報を交換することはないが、逆にそれ以外の話をすることで良い気分転換になる。
「ところでさ、ジョージは迷い人を辞めた後の事って考えた事ある?」
エミリアが聞いてきた。ジョージはコーヒーカップをテーブルに置くと首を左右に振る
「まだ30歳だ。あと10年近くある。俺は絶対にゲートを見つけると思って動いているので引退後の事は真剣に考えた事はないな」
「30歳だものね。私たちはあと4、5年。辞めた後どうしようか、なんてカロライナと話をするの。もちろん雑談程度の話よ。2人で飲み屋をやろうか、やるならどの街がいいかな、なんて話を2人でしているの」
「南の街の”ハリウッド”という飲み屋は確か女性が2人でやってたよな。アンとドリスというステーツ出身だったかな」
ジョージが言うとその店は知らないという2人。彼女達が南の街を出た後で店を開いたのだろう。
「その人達もチームだったの?」
「そう言ってたよ。彼女達が南の街を選んだ理由は知らないけどな」
目の前の2人はもし店をやるのなら川の街か山裾の街のどちらかかな、という話をしているそうだ。治安がそこそこいいのと迷い人の数が多いから需要がある。この砂漠の街だと新規で初めても儲からないと言っている。
確かにこの街は迷い人の数が少ない上に、長期で街を離れている者が多い。”コインブラ”のロナルドもこの街で3軒目の飲み屋ができると共倒れになると言っていた。2軒が上限なのかもしれない。
「まだ先の話。今はゲートを探すことに集中してるからね」
「そうそう、簡単に引退するつもりはないもの」
エミリアとカロライナの2人が言っている。気持ちの強い女性達だ。もっともそうでないと女性二人で砂漠の街までやって来られない。
食後のお茶を終えると、エミリアがジョージに顔を向けた。
「これから何か予定はあるの?」
「いや、今日は完全休養日にしている」
「私たちも完全休養日なのよ」
カロライナが言った。
「それで俺はどうすりゃいいんだ?」
そう言うと女性二人で顔を見合わせてからエミリアがジョージに顔を向けた。
「私の部屋でどう?3人で」
「それは楽しそうだ」
それから数時間後、3人は皆ぐったりとしていた。
「完全休養日なのに外に出てる時よりも疲れちゃったわ」
「でも心地よい疲れよ。ジョージは?」
「久しぶりに脂っこいステーキを食べさせてもらったよ」
「お気に召したからしら?」
「病みつきになる味だ」
ジョージがそう言うと二人が左右から抱きついてきた。
「またいつでもオーダーしてね。ただし注文する時はダブル、2人前よ」




