第83話 砂漠の街
彼は魔獣を倒しながら山の急斜面を登っていた。
グプタの話を聞いているジョージは砂漠の街へと続く道から100メートル以上離れた山の中を登っている。山の中で何度も野営をして敵を倒していた彼に取っては魔獣を倒すことは難しい事ではなくなっていた。さらに体力の腕輪を装備しているので疲れにくくもなっている。
日が暮れる前に大きな木の枝に登ってそこで野営をする。魔法袋から水と干しパンを取り出し、周囲を警戒しながら口に運ぶ。木の上で襲ってくる魔獣はいないと聞いているし、今までの野営でも出会ったことはないが、それでも何が起こるか分からない。
山を登り始めて3週間が過ぎた頃の午後の早い時間にジョージは連なっている2つ目の山の南側にある山の低い尾根に立った。ここまで移動をメインにしているから3週間で来ている。ゲートを探しながら移動していたらこんな短時間でここまで来られない。
「これは想像以上だ」
尾根に立って南を見ていたジョージが声を出した。
今自分が立っている尾根からは次の山の先にある南の景色が見えるが、見える範囲は度全てが砂漠だ。3つ目の街のトムソンが言っていたサハラ砂漠の様だと言ってた言葉が実感できる。
起伏のある砂の砂漠が広がっている。見る限り建物らしきものは1つも無い。砂の海がずっと広がっていた。
見ていると背後に気配を感じた。その後に警戒のランプが小さな音を立てた。木々の間から虎の魔獣が近づいてきていた。それを倒して魔石を取り出すと再び南に顔を向ける
スモーキー、トムソンらが攻略を諦めた砂漠。確かに目の前の風景を見ればあの砂漠に繰り出してさらに南を目指そうという気はなくなるだろう。そしてその砂漠に繰り出して言った迷い人が誰も戻ってこなかったというのも納得できる。あの砂漠に繰り出すのは自殺行為だ。
しばらくの間尾根から南を見ていたジョージ。視線を下げてこれから降りていく山を見て頭の中でルートを描くと足を斜面に踏み出した。
時間をかけて2つ目の山を降り、3つ目の山を登った。そこからは砂漠の全景が見えた。まるで砂の海だ。見渡す限り砂で、そこには砂以外何もない。
最後の山を降り始めてしばらくの間は緑の木々が生えていたがそれから徐々に木が減ってくる。4日目からは緑の木々がなくなり、枯れた木がポツポツと生えている様になった。
枯れ木のエリアに入った直後、女神像が震え出した。これまでにない激しい振動だ。
カバンから取り出しても手の中で震え続けている。
ジョージは周囲を見て太い枯れ木を見つけるとその木に登り、太い枝の上に座った。振動は木に登っている途中でおさまっている。彼はそこでもう一度女神像を手に取った。
「今まで静かだったあんたが振動した。分かったよ。ゲートはこのエリアにある。そしてその中でもここ枯れ木が生えているエリアだ」
女神像にそう呟いたジョージ。
枯れ木のエリアになると斜面が比較的緩やかになる。それに合わせて魔獣の種類が変わった。聞いていた通りサイズアップし、大きくなったマイプとティラノがジョージに襲いかかってくる様になる。
それらを倒しては魔石を取り出してカバンに入れるジョージ。この2体の魔石は1個で銀貨6枚になる。
枯れ木の山を降りはじめて4日後、ジョージは砂漠の街の城門を潜った。
聞いていた通り、砂漠の街は山の緩やかな斜面に沿って周囲を高い城壁に囲まれている街だ。街の広さは山裾の街よりも小さいと聞いていたが、住んでいる人が少ないのだろう、街の中がゆったりとしている。
換金屋で溜まった魔石を現金化したあとは、市内の数軒の屋台でこの街で一番の宿を聞いた。皆口を揃えてそれなら街の北部、高い場所にあるデザートホテルだと言う。事前の情報通りだったので彼はデザートホテルを目指す。幸いにして部屋は空いていた。宿泊料は1泊銀貨8枚と山裾の街よりも2枚高い。このホテルは3階建てで、宿泊室は2階と3階部分になっている。
とりあえず1ヶ月分の料金を前払いして2階の部屋に入る。部屋の窓からは南の砂漠が一望できた。砂漠の街の南門から南に1Kmほどまでは草原でところどころに椰子の木が生えているのが見える。そこから先は砂の世界だ。事前に聞いて、知識としては持っていたが、実際に見ると想像以上だった。
部屋でシャワーを浴びてすっきりすると。夕食まで時間があるので部屋で一休みすることにする。
ベッドでゴロンと横になると山を降りてきた時の女神像が震えた時のことを思い出す。間違いない、ゲートはこのエリア、そしてさらに絞り込むとゲートがあるのは山の上ではなく枯れ木が生えているエリアだ。砂漠にはないと確信できる。砂漠にあるのなら砂漠が見えた時点で震えるか、街の近くに降りた時に震えるはずであのタイミングではない。
つまり聞いていた通り、砂漠はこれ以上南を探しても意味がない、ここから北のエリアを探せという啓示なのだろう。
ジョージはそう決め打ちをする。
ただ、枯れ木が生えているエリアは見通しがよく、今まで多くの迷い人が探索しているはずだ。それでも見つからなかったということはどういうことだ。
街からかなり離れた場所なのか。いやそれでもそこは探しているはずだ。そう考えるとゲートはゲートの形をしていない、一見ゲートに見えない様になっていると考えるのが自然だ。
どんな形をしているのか?頭の中で想像するが具体的なものが浮かんでこない。
目を閉じて考えている間にジョージは眠ってしまった。
目が覚めた時は日が暮れていた。窓の外から砂漠の方を見ると全く灯りがない。漆黒の闇が広がっている。
装備を売っている店には明日行くことにしてまずは腹ごしらえと1階にあるレストランに足を向けた。ここも他の街の高級ホテル同様1階にあるレストランは宿泊客専用だ。24時間OPENしている。
テーブルは3分の2が埋まっていた。女性の迷い人の姿はない。空いているテーブルに座って料理を注文すると2人で座っていた男性がジョージに近づいてくる。これも今までの街と同じだ。
「いつ来たんだい?」
「今日の昼過ぎに着いた。俺はジョージ。5年目になるジャパニーズだ」
「若いな。俺はアラン、出身はフランス。15年目になる」
「俺はコービー。出資はニュージーランドだ。13年目だよ」
こうやってベテランの冒険者が新しく街にやってきた迷い人に声をかけるのは南のエリアでは共通している様だ。座ってもいいかと2人が言ったので空いている席を勧める。2人は椅子に座ってコーヒーを頼んだ。
「砂漠を見ただろう?」
オーダーをした後でコービーが言った。
「ああ。山の尾根の上から見て、ホテルの窓からも見たよ。あそこには出向く気がしない」
「ここにいる連中のほとんどもお前さんと同じだ。あの砂漠には行く気がしない。実際行って帰ってきた奴はいないからな」
アランはこの街で4年、コービーも3年以上住んでいるらしい。
「じゃあお二人は東西の山を探しているってことか」
「俺たちだけじゃない。この街には200名ほどの迷い人がいる。皆東西の山の中を探しているのさ。山の下側は木が生えてない。中腹から上のエリアとその奥の山が探索のターゲットだ」
アランが言った。探索のターゲットが山の中腹から上になるといってもエリアは広い。東西に長く伸びているし、奥にも山が連なっている。皆数ヶ月単位で遠出をして探しているそうだ。
「数ヶ月街を離れて探索し、戻ってきたら1、2ヶ月体を休める。そしてまた違うエリアを探索する。その繰り返しだ。まあ、今までの街とやることは変わらない」
2人からはこの街にある2軒の飲み屋についての情報も得ることができた。
1つはポルトガル人がやっている”コインブラ”という飲み屋で、もう1つは”ボーダー”というアメリカ人がやっている飲み屋だ。どちらも元迷い人で50過ぎの年齢だという。
「さっきも言ったがこの街には200名ほどしか迷い人がいない。そのうち半分近くが常に外に出ているから普段街にいるのは100名程だ。必然的に皆顔見知りになるのさ」
「なるほど」




