第81話
身体が仕上がった。
やるべき事はやったという自負、そして自信も付いた。いよいよ砂漠の街に向かうことにする。
外から街に戻ってくるとアイテム屋に足を向けた。もうこれは彼のルーティーンになっている。店にはいつもの通りユーリが座っていた。
「来週になったら山を越えて南に行くつもりなんだ。もちろん街を出るまではこのお店にお世話になるよ。来週出発するということをおじさんに言っておいてくれるかな?」
ジョージが街を出ると聞いてちょっと寂しそうな表情になったユーリだが、ちゃんとシオン叔父さんに伝えておくと言う。
ホテルに戻ってシャワーを浴びた彼は1階のレストランに降りた。テーブルに座ってオーダーした料理を待っているとギャツビーが入ってきた。
「これからか?」
「そう、注文したところだよ。どうぞ」
「山での戦闘はきついな」
座るなりギャツビーが言った。
「何日行ってたんだ?」
「今回は1ヶ月だ。ジョージは魔法袋があるから楽だろう?」
「身軽になるからな。疲労度が段違いだ」
ジョージが言うと俺も早く手に入れたいぜとギャツビーが言っている。
話をしていると料理が運ばれてきた。
「これだよ、これ。野営中にこのホテルの晩飯を思い出しながら干し肉を齧ってた。うん美味い」
そう言って肉にフォークを突き刺して口に運んでいる。
「来週には南に向かおうと思っている」
ジョージが言うとギャツビーが顔を上げた。
「そうか、行くのか。気をつけてな」
「あんたはどうするんだ?」
「俺は当分はこの街だ。まだ探しきれていない」
彼はこの山裾の街が怪しい、つまりこのエリアのどこかにゲートがあるはずだと考えている。
「ただ砂漠の街に行けばさらに上の装備があるって話だ。装備を更新する目的で南に行くかもしれない」
砂漠の街に行くのはあくまで新しい装備を手にいれるためで、あの街で長居をするつもりは今の所はないと言っている。
「なのであの街に行ったとしても長くても1ヶ月くらいだろうな。基本は装備を更新して周辺の様子を見たらここに戻るつもりだ」
迷い人にとって狙いを付ける場所は様々だ。川の街から南のエリアではゲートがある場所を自分で決め打ちして動いている迷い人が多い。
「俺は今年で34になる。まだなんとか身体の無理が効く間にこのエリアをとことん探すつもりだ」
そう言ったギャツビーがジョージを見ながら話を続ける。
「俺はここが怪しいとにらんでいる。ジョージは砂漠の街のエリアだと思っている。どっちがゲートを見つけるのか、勝負だな」
「そう言うことになるな」
食事が終わってジョージが飲み屋に挨拶に行くと言うとギャツビーも一緒に行くと言う。彼は明日は休養日だ。
2人はクロアチア人のホルバトの店”アドリア”に足を向けた。
「そうか、いよいよ出発か。ジョージは魔法袋も手に入れている。移動も楽だろう」
2人しか客がいないアドリアのマスターが言った。
「斜面の鍛錬を何度も繰り返して自信もついたからな」
「ギャツビーはどうするんだ?」
ホルバトが視線をギャツビーに移した。
「俺はこの街に腰を据えて探し回るつもりだよ。まだまだ探せてない場所があるからな」
その言葉に頷くホルバト。未だかつてゲートを見つけた人がいないのだから誰も正解を知らない。信じられるのは自分だけだ。
山裾の街に来る迷い人の中にはいないが、上の台地の西、東、南の街にいる迷い人の中には自分に自信がなくて周りに流される迷い人がそれなりの数いる。自分に自信がないが故に、人の話をすぐに信じて決めた方針を変更するのだ。そう言う迷い人は結局全てが中途半端なまま年を取っていく。
飲んでいると店の扉が開いて男性の迷い人が入ってきた。
「よお、エイドリアン」
店に入ってきたのはエイドリアンだ。2人を見て手をあげて応えるとジョージの隣の椅子に座った。
「ジョージもギャツビーも久しぶりだな」
「街にいなかったからな」
「俺もだよ。街の中にずっといてもゲートは見つからないからな。今日街に戻ってきた」
「明日は休養日かい?」
「そうだ」
エイドリアンはこの山裾の街に腰を据えて周辺の山の中を移動してはゲートを探している。
「街の中は変わったことはなかったのかな?」
エイドリアンがホルバトに聞いた。
「最近は静かなもんだ。まあこの街はたいていは静かだ。事件なんて滅多におこらない」
「確かに。そう簡単に来られる場所ではないからな」
ギャツビーが言った。草原と森を2ヶ月から3ヶ月近くかけて移動すると言っても他のエリアよりも魔獣の動きが活発で数が多い。チームを組んで移動するにしても簡単じゃない。
「ましてジョージの様にソロで来ようと思ったら相当な実力者じゃないと無理だ」
「俺は草原を避けたから4ヶ月かかった」
「だろう?普通じゃその期間の移動となったら二の足を踏む。肉体だけじゃなく精神も強くないとできない」
「ジョージ、ギャツビーの言っている通りだぞ。お前は規格外なんだよ、それを自覚しろ」
エイドリアンが笑いながら言った。マスターもホルバトもその通りだと言って笑っている。それくらいにここにいる3人はジョージの実力を認めているということになる。木の上から襲ってくる黒豹を2度倒し、4ヶ月かけて1人で川の町から山裾の街まで移動してくる。並の実力じゃない。それを知ってるからジョージがソロで砂漠の町を目指すと言っても当たり前の様に受け止めていた。
「ジョージ、陳腐な言い方になるが、気をつけてな」
店を出る時にホルバトが短く言った。
「ああ、ありがとう」
ジョージとギャツビーが店を出て、エイドリアンが1人残った。
「俺はジャパニーズを見直したよ」
酒のおかわりを頼んだエイドリアンが言った。
「日本人ってのは個人プレイよりも集団プレイにおいてその実力を発揮する人種で、普段は目立たない様にひっそりと暮らしている。そんなイメージを持っていたがジョージを見てこんなやつもいるのかと驚いたよ」
彼の前に新しい酒を置いたホルバト。
「エイドリアンの時にはジャパニーズはいなかったのか?」
「知っている限りはいなかった。コリアンやチャイニーズはいたけどな」
「俺はこの世界に来た時、その中にジャパニーズがいた。そいつを知ったのは俺が東の街にいた時だ。そいつもソロでな。毎日の様に洞窟に出向いては夕方に帰ってきた。悪落ちした盗賊が巣食っている洞窟にソロで出向いていたんだ。俺はある時奴に聞いたんだよ。ソロで洞窟に出向いて怖くないのかってな」
エイドリアンは酒も飲まずにホルバトに顔を向けている。
「その時に奴が言ったのは、先手必勝だよ。という言葉だった。相手の目に殺意があり、武器に手をかけながら近づいてきたら問答無用で自分から先に仕掛ければ負けない。自分は日本で武道をしていたので近づいてくる奴の殺気がわかるってな」
「まるでサムライだな」
「そうだ。俺は影であいつのことをサムライと呼んでいた。パッと見た感じだとそこまで強そうには見えない。日本人ってのは表情をあまり顔に出さないからな。ただ東の街じゃ名前が売れてたよ。クズ連中を結構殺してたからな」
それ以来ホルバトは人を国籍で判断しない様になったと言う。
「そのサムライはどうなったんだ?」
「そいつはユウキという名前だが、迷い人をやめた後、南の街で飲み屋を始めたよ。今でもやってるはずだ。”ハナミズキ”という飲み屋だと聞いている」
「南の街でギブアップしたのか」
「ソロだから黒豹の森は抜けられないと思ったのか。あるいは南の街にゲートがあると決め打ちしたか。本当の理由は俺も知らない。ただ腕は立った」
「なるほど」
「それでジョージだ。奴はそのユウキよりも腕が立つと俺は見ている」
「確かに腕が立つ、それもとびっきり腕が立つのは間違いないな」
ホルバトの言葉に頷いたエイドリアンが言った。あの歳でここまで来ている、それもソロで来ているという時点で普通じゃない。
「おれは奴がジャパニーズの中で特別な奴だと思っていたが、今の話を聞くと他にもそんな奴がいることを知ったよ」
エイドリアンの言葉にその通りだというホルバド。
「国籍なんてこの世界じゃ関係ないぞ。できる奴はどこにでもいるということだ」
「全くだ。考えを変えないとな」
そう言ってエリドリアンが大きく頷いた。




