第80話
グプタの話が終わった。彼はレイモンドの奢りの酒を飲んでいたが、グラスをカウンターに置くとジョージに顔を向けた。
「ジョージと言ったか、お前は砂漠の街に行くつもりなんだろう?」
「そう。先人達が訪れた街は全部訪れてみたい」
「なるほど。そういう考え方も悪くないぞ。いくら耳で聞いていても実際に自分の目で見るというのは大事だ。ソロで移動するつもりか?」
その言葉に頷くジョージ。
「当人の言葉を借りれば、この世界に来てからは街から街への移動も含めて一度もチームを組んだことがないそうだ」
マスターのサンダーがジョージの代わりに言った。グプタが目を見開いてジョージを見ながら何故だと聞いた。
「最初に飛ばされた時、周囲にいたのは見ず知らずの連中ばかりだった。肌の色も違う、目の色も髪の毛の色も違う。世界中から集められていたからな。そうなると考え方も違うだろう。しかも善人ばかりじゃない。歩いていて後ろから刺されたり背中を切られたりと心配するくらいならソロの方がずっと楽だと思ったんだよ。それ以来ずっとソロで動いている。気楽でいいよ」
「最初に飛ばされた洞窟でそこまで考えたのか。大したやつだ」
心底感心した声で言った。
「砂漠の街に行けばこの街よりさらに良い装備が手に入る。どこを探すにせよその装備が役に立つだろう。ソロなら尚更だな」
迷い人はどこに行こうが自由だ。周りも行くなとも言わず、行けとも言わない。ただグプタは遠回しな表現で砂漠には行かない方がいいと言っている。
ジョージとレイモンドは時間を取らせたと銀貨を5枚ずつ彼に渡した。5枚は以前黒豹がいる森の中から逃げてきた迷い人に話を聞いた時の金額だ。何か言うかと思ったが、彼はありがとうと言ってそのまま受け取った。
もう少し飲んでいくというグプタを置いてジョージとレイモンドはウインドミルを出るとホテルに向かって歩いていく。
「コーヒーでも飲むか」
「そうしよう」
レイモンドの誘いに乗ったジョージ。2人はホテルのレストランに足を向けた。時間帯が遅いこともあり他に客はいない。
「南は結構タフなエリアだな」
「移動も簡単じゃない」
「砂漠はきつそうだな」
運ばれてきたコーヒーを一口飲んだレイモンドが言った。お互いに思ったこと、感じたことを口にしている。
「グプタの話を聞いている限りでは砂漠は本当にきつそうだ。実際にどうするかは現地に行ってから判断するよ」
「新しい装備は気になるが、俺はこの山裾の街で頑張るつもりだ。今でも山に入って魔獣を普通に倒せているしな」
レイモンドと一緒にこの街にやってきたジャンセンとギャツビーとはこれから先の事については話をしていないという。
「彼らが砂漠の街に行くと言っても俺は行かないつもりだよ」
レイモンドは今日の話を聞いてますますこの山裾の街の周囲が怪しいと感じていた。装備だけのためにリスクを冒して山越えをしてまで南の街に行く価値はないという判断だ。
山裾の枯れ木のエリアにはないだろう。となると探すべき場所が限られてくる。行くのは楽ではないと言っても、過去から相当数の迷い人達が砂漠の街まで行って、そこでゲートを探している。それでも見つかっていないということはそこにある確率は低い。それよりもこの山裾の街の周辺エリアは山や森も多い。ここを集中的に探す方が確率が高い。レイモンドはそう考えているのだと言った。
川の街のジュンやケンゾーもそう考えたのだろう。そして周辺を探しまくったが、結局ゲートを見つけられなかった。
「いつ頃行くつもりなんだ?」
「あと2ヶ月くらいってとこかな。今日の話を聞いて山の南側の魔獣がサイズアップして強くなっていると聞いた。ここでもう少し身体を鍛えるよ」
その言葉通りにジョージは2泊、3泊と山で野営をしながら斜面での魔獣との戦闘を繰り返す。足元が不安定なので素早さの効果が最大限でない。それでも鍛錬を続けていると身体が斜面での戦闘に慣れてきた。魔獣を倒す時間が少しずつだが短くなっている。
この日、山から降りた彼は換金屋で魔石を現金化したその足でアイテム屋に顔を出した。
「こんにちは」
姪っ子でアルバイトをしているユーリがジョージを見て声をかけてきた。
「やあ、ユーリ、こんにちは」
「迷い人さんが買ってくれそうな品物は入ってないですね」
「そうなんだ。でもそれが普通だよね。またお邪魔するね」
「はい、お願いします」
店の中で少し話をした彼はホテルに戻ってシャワーを浴びた。
夕刻にレストランに降りると空いている。レストランの中で女性の3人組がテーブルに座っていた。リズ、オリビア、ソフィーの9年目のチームだ。彼女達もジョージを見つけて手を上げたのでそのテーブルに近づいた。
「一緒にどう?私たちも今料理を頼んだところなの」
勧められて同じテーブルに座ったジョージが料理を頼むとオリビアが声をかけてくる。
ジョージの向かいにオリビア、隣にリズ、斜め向かいにソフィーが座っている。
「最近見なかったわね」
「山に籠ってゲートを探してたんだよ」
「斜面の戦闘はきつよね。ソロだと大変じゃない?」
ソフィーが言った。
「だから慣れるために山に籠っているんだよ」
彼女達は1ヶ月程山に籠ってゲート探しをして先週街に戻ってきたそうだ。今週は森の中で金策をしているのだと言う。ここにいる迷い人で森の中にゲートがあると信じている者はいない。森の中は身体を動かしながら金策をする場所だという認識だ。
その後はゲート探しと関係がない話題になる。
「2つ目の魔法袋がなかなか売りにでないのよね」
リズが言った。
「気まぐれな人らしいから気長に待つしかないよね」
そんな話を3人がしているのを聞きながらジョージが食事をしているとテーブルの下で隣から手が伸びてきて彼の太ももの上に置かれた。ジョージはリズのその手を自分の手で軽く2度叩いてから手を離した。
「オリビア達は山越えするつもりなのかい?」
そう聞くと首を左右に振る。
「色々と話を聞いたら砂漠の街はここと比べると探す場所が少なさそうじゃない。過去から皆探しているだろうし、私たちはここに腰を据えてあちこちを探すつもり。ジョージは行くの?」
「先人達が訪れた街は全部見てやろうと思っているんでね。行くつもりだよ」
「そう言う考え方もあるよね」
「そこから先って本当に砂漠だけなのかしらね」
オリビアに続いてソフィーが言った。
「それも含めて一度自分の目で見る必要があると思っているんだ。ところでミドリには顔を出してるのかい?」
ジョージが話題を変えた。
「私たちは飲みに行くのならミドリね。ポリーナの店だと安心だし」
同じお酒を飲むのならリラックスして飲みたい。そう考えると女性がやっているミドリになるそうだ。この街は安心とは言え100%安心ということは有り得ない。彼女達は3人で飲みに行く事もあるが基本は夜はフリーらしい。1人で飲みに行く事もあるので、そうなるとますますミドリが安心できるのよと言っている。
「ジョージはどうなの?ミドリに顔を出してるの?」
「3軒全部に顔を出しているよ。今日は遠出から戻ったばかりだから行かないけどな」
「なんだ。一緒に飲めるのかと思ったのに」
ソフィーが言った。それはまた次の機会だなと言うジョージ。
彼女達の方が先に食事が終わった。3人が席から立ち上がる。
「飲みに行くのかい?」
食事をしながら顔を上げたジョージ。
「ジョージが誘ってくれないから今日は無しね」
ソフィーが笑いながら言う。オリビアとリズもまたねと挨拶をして先にレストランを出ていった。それから30分後、ジョージはリズの部屋をノックした。




