第8話
アイクが去ってからしばらくしてジョージはベンチから立ち上がった。公園を抜けて街の中を歩いていると目的の店を見つける。
「いらっしゃい」
中に入ると初老の女性が声をかけてきた。
「見せてもらってもいいかな?」
「迷い人かい。好きに見ておくれよ」
この店は”薬屋”という看板が掲げられている店だ。森の中で5人で虎を倒していた連中が戦闘の合間に飲んでいた小瓶は薬の一種ではないかと予想したジョージ。店の中の陳列物を見て自分の予想が正しかったことを知る。
ー ポーション 1瓶銅貨3枚 ー
そう書かれた札の棚に小さな小瓶がいくつも並んでいた。他を見るとポーション以外にも「傷薬 1個銅貨2枚」「痛み止め 1包銅貨3枚」と書かれている札の上に商品が並べられている。「毒消し 1瓶銅貨5枚」と書かれている商品もある。
「迷い人ならどれも必要なアイテムだろう?」
陳列されている商品を見ていると女性が声をかけてきた。ジョージは振り返って彼女を見る。
「その通りだ。どれも必須のアイテムだよ。俺はジョージ。今日この街に着いたばかりの迷い人だ。よかったら商品の効果を教えてくれるかい?」
最初の街で住民に聞き込みをした経験で、先に自分の名前を言った方が相手の反応が良くなることを知ったので、この街でも同じやり方で話しかける。
「あたしゃミーシャ。もう30年以上もここで薬を売っている。それで今のあんたの質問に答えてあげるよ」
ミーシャがそれぞれの薬について、その効果を教えてくれた。
ポーション:小瓶1回で体力を少し回復する。連続使用も可能。
傷薬 : 患部に塗りつけることで化膿を防ぐ。
痛み止め : 水と一緒に粉末の薬を飲み込む。痛みを緩和する。
毒消し : 飲むことで体内の毒を中和する。連続使用は不可。
「なるほど。どれも俺たち迷い人には必須のアイテムだ」
「森や山の中には毒を持っている魔獣がいるからね。ポーションと毒消しは最低でも持っていた方がいいよ」
ジョージは頭の中で計算してみる。
ポーション10個で銅貨30枚、傷薬は2個で銅貨4枚、痛み止めも2個買うと銅貨6枚、毒消し5個で銅貨25枚。全部で銅貨65枚。銀貨6枚と銅貨5枚か。予算的には問題ない。
それならポーションを20個にするか。そうすると合計で銀貨9枚と銅貨5枚になる。
「痛み止めが痛みを緩和するということは、必ず痛みが無くなる訳じゃないってことかな?」
「その通り、痛みの程度によるからね。ただ緩和するのは間違いないよ」
「よし、全種類買おう」
「毎度あり」
ジョージは商品とその数を言ってお金を支払った。ミーシャが頑丈そうな小さな麻袋に商品を入れてくれた。
「すぐに次の街に行くのかい?」
商品が入っている麻袋をジョージに渡しながら言った。
「いや、俺はこの街に来たばかりなんだよ。しばらくはこの街で金策する。慌てても仕方ないと思ってるからな」
受け取った麻袋をリュックに入れながら答える。
「ゲート探しだっけ?迷い人は大変だね」
「この店にも大勢の迷い人がくるだろう?」
「だから私も店をやっていける。特にポーションはよく売れるよ」
そりゃそうだろう。あのしょぼい武器や防具ではたとえチームを組んだとしても虎を相手にして無傷で倒せるとは思えない。もちろん体力は自然に回復するが、その為にいちいち安全な街の中に戻っていたのでは効率が悪すぎる。現場でポーションを飲みながらの連戦のスタイルになることは容易に想像できる。
「今まで大勢の迷い人がやってきたと思うんだけど、皆南を目指して行くのかい?」
「ほとんどはそうだね。この街で装備を揃えると次の街を目指してるよ」
「この街にどれくらいの期間滞在しているんだろう」
「どうかな、もちろん人によるさ、平均したら1ヶ月かそこらじゃないかな」
「なるほど」
返事をしながらジョージは頭の中で計算していた。チームを組んである程度装備が揃ったら街を出ているパターンが多いということだ。
「あんたもその口かい?」
「いや、俺は1人で動いている。だからもう少し長い間この街にいると思う」
「1人かい。この街に来る迷い人の多くは何人かで組んでいる。1人で動いている人は多くないよ」
「そうみたいだね、最初の街でも言われたよ。ただ俺は1人の方が性に合ってる」
「人それぞれだからね。でも1人だろう?気をつけるんだよ」
「分かってる。だからこの店でポーションを買ったんだよ」
翌日、ジョージは魔獣を倒しながら街の周辺をチェックした。街の周囲は草原、その先は森でそこにはトカゲ、熊、虎が徘徊している。東西南北のどの方向も魔獣が生息しているエリアとその種類は同じだ。どこでやっても同じなら人が少ないエリアでやる方が効率が良い。人が少ないと魔獣と遭遇する確率は上がるがリスクも上がる。そこはポーションを飲んで回復しながらすることで対処できるだろう。
戦闘技術や魔獣の気配を察知する能力などは数をこなさないと向上しない。ジョージは毎日外に出ては主に虎を相手にして自分の技量アップの鍛錬を続けていた。スモーキーの忠告に従って腕輪は街の出入りの際につけたり外したりしている。
ジョージがこの街に来てから10日が過ぎた。2日に1度はミーシャの薬屋に顔を出していたこともあり彼女とも顔馴染みになった。
「どうだい?調子は」
ポーションを買い、商品を受け取ったあとでミーシャが聞いてきた。
「順調といえば順調だよ。ポーションがあると思うだけで戦闘をしていても余裕がある」
少々ダメージを喰らっても回復手段があると思うだけで気持ちにゆとりができる。それが結果的に思い切った攻撃となり短時間で魔獣を倒せる様になっていた。
「ミーシャはここで30年以上薬を売っているって言ってたよな。いつ頃から迷い人がこの街に来る様になったか知ってるのかい?」
「もちろん、43年前からだよ」
あっさりとミーシャが言った。ジョージは思わず彼女の顔を見た。まさかそこまで具体的に言うとは思っても見なかった。そのジョージの表情を見たミーシャは、教えてあげるよ。と彼に店の中にある椅子を勧め、話はじめた。
「今から43年前。私が15歳の時だった。よく覚えている」
彼女によるとある日突然同じ格好をした大勢の若者が大挙してこの街にやってきたそうだ。当然住民はパニックになった。ただ、彼らは自分たちがどうして同じ服を着ていて、どうしてここにやって来たかをきちんと説明したらしい。
「私の両親は昔からここでずっと薬屋をやってたんだよ。私が店の手伝いをしている時に彼らがやってきたのさ。それ以来1年に1度のタイミングで同じ格好をした若者がここにくる様になった。何度も続くと私たちも慣れてくるし、彼らを相手に商売を始める者もでてきた」
ミーシャの話を頷きながら聞いているジョージ。
「最初の時から彼らは【ゲート】と呼ばれるものがこの世界にあって、それを探すためにやって来たのだと言ってたよ」
毎年1度そうやって同じ格好をした若者が大挙してやってきてしばらくすると去っていく。数年が経った頃、この街にやってきた若者が、自分たちは北の街では迷い人と呼ばれているという話をし、それがこの街にも広まって皆が迷い人と言う様になったそうだ。
43年間誰も見つける事ができないゲート。それは一体どこにあって、どんな形をしているのか。そして、ゲートを潜って得られる能力とは何なのか。
「しばらくいるのならまたこの店に顔を出すんだろう?」
「もちろんだよ。薬は消耗品だ。また買いにくるよ」
朝から夕方まで森の中で虎とトカゲを倒して街に戻ったジョージ。この日得た魔石を換金すると銀貨8枚、銅貨9枚になった。少しずつだが1日で得られるお金が増えてきている。戦闘に慣れてきているということだろう。
夕刻の街の中は地元住民はもちろんだが、迷い人の格好をしている人も多い。女性は何人かでまとまって歩いている。そうする事で災難から避けることができるのだろう。男性は複数人固まっているのもいれば、自分と同じ様に1人で歩いているものもいる。皆腰に武器を携帯している。
街の中には何軒かレストランがあるが、ジョージはそこには行かずに屋台で串焼きとスープを買うと公園のベンチに座って食べる。公園ではジョージと同じ様に1人で座って食事をしている迷い人が数人いた。お互いにチラチラと見ながら食事をしている。仲間というよりもライバルだ。あいつは俺よりも先にゲートを見つけるんじゃないか?俺の知らない情報を持っているんじゃないか。
格好こそ皆同じだがそこにまとまりはない。そう思うとさっきミーシャが言っていた昔やってきたリーダーという男は相当のカリスマ性があったのだろう。
ジョージは公園で食事を済ませると周りの同業者達の視線を浴びながらまっすぐに宿に戻っていった。




