第7話 2つ目の街
2つ目の街は最初の街と同じか、やや大きい様に見える。街の中にある建物の作りは1つ目の街と変わらない。この世界には国という概念があるのかどうか。スモーキーに聞いておけばよかった。そんなことを思いながら街の中を歩いて換金屋を見つけると店の扉を開けた。
中の様子は前の街の換金屋と変わらない。夕刻前という中途半端な時間帯のせいか、店の中は空いていた。数名の迷い人がそれぞれカウンターで換金をしている。ジョージは空いている窓口に近づくと鞄をカウンターに置いて中から大量の魔石を取り出して置いていく。
「多いですね」
「今北の街から着いたところなんだよ。途中で魔獣を倒してきたからね」
全ての魔石を奥と、受付の女性がそれを手際よく大きさで分けていく。見ると虎の魔石が184個、熊の魔石が198個、トカゲの魔石が84個、スライムとウサギの魔石が合わせて62個だった。31日間の移動で合計で528体の魔獣を倒したことになる。1日平均17個だ。スライムやウサギは面倒くさいので自分から避けていた為に数が少ない。
「虎と熊の魔石は1個につき銅貨5枚、トカゲは銅貨2枚、その他は1個銅貨1枚となります」
合計で金貨10枚、銀貨14枚になった。その場で金を腰のポーチにいれる。換金屋を出るとジョージは宿をとった。1泊銀貨1枚。これよりも安い宿はいくつかあったがそれは避けて中クラスの宿を取った。金で買える安全だ。
部屋に入ると金貨8枚を魔法袋に移した。鞄も腕輪も魔法袋に収納する。これで部屋の中には何も置いていない状態になった。部屋に付いているシャワーを浴びる時も魔法袋を目にみえる場所に置いて身体や頭を洗う。
さっぱりした彼は宿を出るとこの街の中の様子を探る。迷い人の格好をしている男女がそれなりに街の中にいる。この世界には1,600名強の迷い人がいるんだ。ひょっとしたら以前に来た迷い人もいるかもしれない。迷い人が多くいるのも当然だな。そう思いながら歩いていると武器屋の看板を見つけて中に入る。
「いらっしゃい」
店にいた店主っぽい男性が声をかけてきた。
「ちょっと見させて貰ってもいいかな?」
「どうぞどうぞ」
見ると売っているのは片手剣と短剣と片手斧。あの空間でウインドウに出た武器と変わらない。但し性能が変わっていた。3種類の武器の性能は全て攻撃力+15になっている。これは武器の下に紙で書いてあった。それぞれの武器は皆同じ値段で銀貨10枚だ。この価格が適正なのかどうかわからない。日本円にすると5万円。虎の魔石が銅貨5枚だったので20体倒して1本買える金額になる。ジョージはダミー用として片手剣を普段持つかと考えたが、結局やめる。スモーキーも武器の性能までは見抜けなかった。外見が同じ片手剣だから見ただけでは分からないだろう。無駄金はできるだけ使いたくない。
「また出直してきます」
武器屋を出るとその近くにある防具屋に顔を出した。
「いらっしゃい」
こちらの店も中年の男性店主が出迎えた。彼の格好を見て分かったのだろう。
「ごゆっくり」
そう言うと彼は店の奥の方に下がっていった。ジョージは店の中を見てみる。ここは2種類の防具が売っているが色やデザインは今自分が着ているのとほとんど変わらない。シャツとベストとズボンがセットで売られている。ばら売りはしていない様だ。
攻撃用セット(攻撃力+5) 銀貨10枚
回避用セット(素早さ+5) 銀貨10枚
どちらも今の自分の装備よりもずっと落ちる。こちらも金額は武器と同じだ。仮に初期装備でこの街にやってきてここで武器と防具を更新するとなると、合計で銀貨20枚。虎か熊を1人あたり40体倒す計算になる。それ以外に宿代や食事代を考えるとすぐに装備を更新することは簡単ではない。
礼を言って店を出た彼はその後も市内を歩いてみたが他の武器屋や防具屋は見つからなかった。歩いていると屋台が固まっているエリアがあり、近づいてみる。最初の街と同じ様な串焼きを売っている屋台もあればスープを売っている屋台もある。他にはパンに見えるものを売っている店もあった。
ジョージはパン屋に近づいた。
「いらっしゃい」
まだ若い女性が声をかけてきた。
「これってパンだよね?」
「そうです」
値段を聞くと日本で売ってるメロンパンくらいの大きさのパンが1個鉄貨2枚だ。
「どれくらい日持ちするのかな?」
「せいぜい3日ですね」
とりあえず1つ買ってその場で食べてみた。干しパンよりはずっと美味い。近場で借りをする時の食事にはなるだろう。
「美味しいね。朝からやってるの?」
「朝から出してます」
「明日以降で外に出る前に寄らせてもらうよ」
「ありがとうございます」
次にその近くにある串焼き屋で1本買ってみた。1本鉄貨4枚と最初の街と同じだ。食べるとあのおばさんの店のタレよりは落ちるがまずまずだ。ジョージはもう1本買うと2本持って近くの公園にあるベンチに腰掛ける。
座って周りを見ると迷い人が通りを歩いているのが見える。1人で歩いている人と、誰かと一緒に歩いている人が半々だ。
串焼きを食べながらベンチに座って休んでいると1人の迷い人がこちらに近づいてきた。黒人だ。元々あの部屋に呼ばれたのは全員が20代だということだったのでこの男も俺と同じくらいの歳だろう。ただ年齢は似ているがスタイルは違う。190以上ある上背でマッチョな男だ。
「ハイ!、チャイニーズ?」
「ノーだ。ジャパニーズだよ。そっちは」
「テキサスだ」
「アメリカさんか。それで?チャイニーズに用があるんなら他をあたってくれ」
「いや別にチャイニーズに用があったんじゃない。アジア系のお仲間が1人で座ってるのを見たんでな。ソロかい?」
「そうだ」
「ソロで最初の街からここまでやってきたのか。熊や虎がいただろう?」
「あんたは違うのかい?」
黒人の問いには答えずに聞き返すジョージ。
「ここまで即席でチームを組んで5人で来た。その方が楽だからな」
そう言ってから隣に座っていいかい?と聞いてきた。
「俺を仲間に誘うという話をしないのならOKだ」
そいつは隣にドンと腰を下ろすと手を差し出してきた。
「俺はアイク」
「俺はジョージだ」
そう言って自分の手を差し出した。
「ジョージか。呼びやすい名前でよかったぜ、日本人の名前は発音が難しいのが多いからな。いつこの街に来たんだい?」
「ついさっき着いたところさ。宿を押さえて遅めの昼飯を食ってたんだよ」
アイクはこの街に来て2週間ちょっとになるという。装備を更新する為に金策中だと言った。
「ジョージは金策も1人でやるのかい?時間がかかるぜ」
「急いでないからな。ゲートがそう簡単に見つかるとは思わない」
そう言うとアイクが頷いた。
「実は俺もそう思ってる。スタートダッシュなんて関係ないな。何年も前から迷い人がこの世界に来てゲートを探しまくっているが、まだ見つかっていない。簡単に見つかる場所じゃないんだろう。闇雲に動く必要はない」
アイクもこの街に来たら組んでいた5人とはチームを解散したそうだ。今はソロでトカゲを倒しているが、時には近くで同じ様にソロでトカゲを倒している連中と一緒に即席のチームを組んで虎を倒すこともあるらしい。
現地で即席チームを作って虎を倒しても魔石の買取を分配してメリットがあるのだろうか。ソロでトカゲを倒している方が見入りがいいんじゃないか。そう思ってアイクに聞いた。
「長時間やれば虎の方が稼げるぞ。2、3時間なら意味ないけどな。何より安全だ」
そう言ってからジョージもやるかい?と聞いてきた。
「いや、俺は基本誰とも組む気はない。さっきも言ったが急いでないんだ。なので外で長時間縛られるよりは気が向いた時に外で倒してというスタイルの方が自分に合っているのさ」
「まあ、やり方は人それぞれだからな」
その後アイクが俺たち迷い人の動向についてジョージに話をする。彼はいろんな連中とチームを組んで活動をしているのであちこちから情報を集めていた。
それによると洞窟で残った1,600名の内、すでに600名以上がこの街を出ていったらしい。20名とかでチームを組んで数の力で敵を倒しながら南に向かっている。
「今まで何十年以上も見つかっていないゲートだ。ここらのエリアには無いという決め打ちをして移動しているのさ」
「普通に考えたらそうなる。俺たちが初めての挑戦者、迷い人じゃないからな。過去から毎年1度この世界に何千人と言う数の迷い人が来ている。そしてゲートが見つかったという話は聞かない。となると簡単な場所じゃないだろうと先に進もうという考えは理解できる」
「それだがジョージは知ってるか?ゲートが見つかったら神の代理が脳内に語りかけてくるって話」
「最初の街で聞いたよ。それでその語りかけがされたことがないから今まで誰もゲートを見つけていないという話になっているんだろう?」
「確認のしようがないが、そう言うことになってるよな。まぁ見つけた人がいなかろうが俺が自分で見つけりゃいい話だ」
「そう言うことだ」
「しばらくいるんだろ?また会ったらよろしくな」
「こちらこそ」
アイクは椅子から立ち上がるとまたな。と言って去って行った。




