第76話
この日、街の外から帰って換金を済ませるとアイテム屋に顔を出した。顔馴染みになっているアルバイトのユーリが店番として座っていた。
「こんにちは、ジョージさん。面白い物が入りましたよ。迷い人なら役に立つんじゃないかな」
「ほう、何かな?」
魔法袋かな?それなら必要はないが、せっかく言ってくれたのだから買っておこうかと思っていると、彼女は店の棚からではなく、座っているカウンターの下から木箱を取りだした。その箱を開けると中にはバンダナと指輪が入っている。
「手に持ってみてもいいかな?」
「はいどうぞ」
最初に指輪を手に取った。
「それは体力の指輪と言うそうです。疲れにくくなる効果があるみたいですよ」
「それはいいな。山登りが楽になるのかな?」
「その通りじゃよ」
店の奥から声がした。顔を上げると奥から1人の初老の男性が近づいてきた。
「叔父さん」
「ユーリ、ここからはわしが話をしよう」
「はい」
ユーリの隣に立った男性がジョージを見る。
「わしはこの店をやっているシオンという、アイテム屋の主人兼職人じゃよ。この子はわしの姪っ子でな、店を手伝ってもらっているんだ」
「なるほど」
アルバイトと思っていたら店主の姪っ子だったんだ。
「わしはもう長い間ここでアイテム屋をやっている。この子もここで働きだしてから5年以上は経つだろう。ユーリには店番をしながらこの店にやってくる迷い人を観察してもらっていたんじゃ」
「観察?」
「そう。ほとんどの迷い人はこの店にわしが作る魔法袋が目的でやってくる。店に入るなり魔法袋はあるか?と彼女に聞いて、ないと言うとすぐに踵を返して店を出ていく。そんな人ばかりじゃった。礼節をしらない迷い人には効果があるものを売る気はないんじゃ」
ジョージはカウンターを挟んでシオンと向かい合って立ったまま彼の話を聞いている。
「そんな中、この子が変わった迷い人がいると教えてくれての。魔法袋のことを一度聞かずに毎回ゆっくりと店の中を見てはたまに小物を買っていく迷い人がいるってな」
確かにジョージは魔道具のランプ以外にも小物をちょこちょこと買っていた。
「しかもジョージという迷い人の名前まで覚えておる。こんなのは初めてじゃ」
「なるほど」
「ここにあるのはバンダナと指輪じゃ。指輪はユーリが言った通り体力の指輪と言い、疲れ難くなる効果がある。とあるルートから仕入れたものじゃ」
そこで一旦言葉を切ったシオン。
「こっちのバンダナはわしが作った。何度も試作品を作ってやっとできた。装備した人の身体能力を上げる効果がある」
「具体的には?」
「力が強くなり、素早さが上がる。どちらも+20は上がる。指輪は疲れにくくなるだけで力が増える訳ではない。バンダナをつけると力が強くなる。つまり剣の一撃のダメージが上がる。同じ効果がある腕輪というのがあるが、このバンダナはそれとは別だ。つまり装備すると腕輪とバンダナの両方の効果がある」
力と素早さがアップするすごい装備だ。これを身につけると移動はもちろんだが魔獣との戦闘もずっと楽になる。数%の積み重ねが効いてくるのは経験して知っている。
「これを店で売ろうとした時にこの子が言ったんじゃよ、ジョージさんに最初に紹介したいってな。だから店頭に並べておらんかったんじゃ」
地元民を下には見るな。2番目の街で薬屋のミーシャが言っていた言葉だ。彼はその言葉をずっと頭に刻んでいて自分では決して相手を下に見ない様にしていた。その結果かどうかは分からないが、こうして店に並べる前の商品を紹介してもらうことができた。
「これはどちらも迷い人に取ってはすごく有用な装備になります。もちろん2つ買います」
「魔法袋は要らぬのか?」
「じつは元迷い人から魔法袋の小を買いました。なので持っているんです」
見せてくれるかと言うのでジョージがポーチから魔法袋を取り出してカウンターの上に置いた。それを手に取って見ているシオン。
「古いが間違いないな、わしが作ったものじゃ。ただかなり使い込んでおる。新しいのと替えてやろう」
「いいんですか?」
「構わんよ。ユーリのお気に入りのお客さんだしの」
そう言うとユーリがにっこりする。
ちょっと待てと言ったシオンが店の奥に引っ込んだ。ジョージはそこにいるユーリを見た。
「ありがとうね」
「いえいえ。ゲートを探すんですよね。大変そうだけど頑張ってください」
「ありがとう」
奥からシオンが戻ってきた。
「大きいサイズのと交換してやろう」
「いいんですか?」
「構わん。バンダナと指輪、〆て白金貨5枚だ」
十分に払える金額だ。彼はその場で白金貨5枚を渡し、3つの商品を受け取るとその場で魔法袋の小に入っている荷物を大に移し替える。最近遠出をしていなかったので魔法袋の中には多くの荷物は入っていない。
シオンとユーリはカウンターで荷物を移し替えているジョージを見ていた。ポーション類を移し替えると、魔法袋から木彫りの女神像を取り出した。それを見た2人が目を見開いた。
「ジョージ、それを見せてくれるか?」
「これですか?どうぞ」
「叔父さん、これって」
「ああ、間違いない」
木彫りの女神像を見た2人が驚きの表情のままやり取りをしているがジョージには意味が分からない。
「どういうことですか?」
ジョージが言うとユーリがシオンを見た。頷いたシオンが彼に顔を向けた。
「その前に、ジョージはこれをどこで手に入れたのかな?」
彼はずっと北にある台地の上の街の薬屋さんからもらったものだと言う話をした。その彼女がこの木彫り像を手に入れた時の話も目の前に2人にする。
ジョージの話を黙って聞いていた2人。
「ユーリ、奥から持ってきてくれるか?」
「はい、叔父さん」
ユーリが立ち上がって奥に走っていくと、すぐに額に入っている絵の様なものを持ってきた。その絵はまさしく女神の絵だった。ジョージが最初に洞窟であった時の姿で来ている服の色や髪の毛の色まで全く同じだ。
「これはこの世界に住んでいる地元民の家には必ずある。我々は女神様と呼んで毎日お祈りを捧げているんじゃ」
シオンによると女神の絵は昔からずっと家にあるものだそうだ。代々地元民はこの絵の女性を女神様と呼び、毎日1度は絵に向かってお祈りをする習慣を欠かさないのだという。
「元迷い人が店や飲み屋をやっておるだろう?彼らのところにはこれはない。女神様の絵はあくまで地元民の中でのものだという言い伝えがあるんじゃ。そんな女神様と姿が同じ木彫りの像を持っておる。驚いたが、よくよく考えるとジョージは女神様に気に入られた迷い人かもしれんの。でなければ迷い人が眼にするものではないからの」
今の話はミーシャも知っているはずだ。ではなぜ彼女は俺にこれをくれたんだ?
そう考えたジョージは1つの結論に達した。突拍子もない結論だが、それ以外に今は思いつかない。
ジョージが黙っているとシオンが続ける。
「いずれにしても、それは大事に持っておくがよかろう。きっと役に立つ時が来る」
「そうですね。今までも大事に扱っていましたが、これからもそうします」
荷物を移し替えたジョージは2人にお礼を言った。
「しばらくこの街におるのか?」
「そうですね、あと半年はいるつもりです。またこのお店にも顔を出させてもらいます」
そう言うとユーリがお待ちしていますと言った。シオンは黙って頷いているだけだったが優しい目で彼を見ていた。
最後にもう一度お礼を言ったジョージはアイテム屋を出ると真っ直ぐにホテルの部屋に戻った。
いろいろと整理が必要だ。
部屋に入るとまずはシャワーを浴びてすっきりして気持ちを落ち着けると、新しい魔法袋の中からアイテムを取り出した。指輪とバンダナが入っている木箱、そして木彫りの女神像。
指輪はその場で装備する。フクロウの指輪をつけているので2つ目の指輪を左手に付ける。バンダナを手に取ると頭に巻いた。生地がしっかりしている。頭の後ろで結んでから頭を左右に振ってみたが問題なさそうだ。
装備の確認が終わるとそれらが入っていた大きいサイズの魔法袋を手に取った。今日のシオンの口ぶりだと魔法袋のストックはありそうだ。店に置くのは彼の気まぐれで、彼や姪っ子が気に言った客に個別に話を持ちかけて売るのだろう。そしてごく稀に店頭に並べる。
半年以上、街にいる時に顔を出していたジョージ。自分が魔法袋を持っていたこともあり、魔法袋に対する執着がなかったことが功を奏したと思われる。もし持っていなかったら他の迷い人と同じ様に魔法袋の有無を毎回聞いていたのは間違いない。
彼は魔法袋から机の上の木彫りの女神像に視線を移した。
地元民は皆家にこの女神の絵を持っていて『女神様』と呼んでいると言う。これはどういうことだ。女神は迷い人を地球からこの世界に転送させてきた。実は地元民も元々自分達と同じ世界にいた人たちではないか。そして地元民には『女神』という神を信仰する様に仕向けているとしたら。
そう考えると頭の中に恐ろしい予想、仮定が浮かんできた。
ミーシャが自分に女神像を渡した理由。これについても思いつく予想がある。
2つの仮定、予想がジョージの頭の中を駆け巡る。
ジョージは机の上に置いた木彫りの女神像をじっと見た。
「必ずゲートを見つけ、俺の予想が正しいかどうか、あんたに直接聞くよ」




