第75話
山裾の街に来て半年近くが過ぎた。彼は街の背後の山の東西部分をどちらも1か月かけて探索した。その結果、ジョージが探索した範囲ではジュンとケンゾーが作成した地図は今でも十分に使えるということが確認できた。魔獣の種類と生息域、そして山の中で果実の木がある場所、いずれ地図と大差ないことがわかった。
ホテルの部屋で地図を広げているジョージ。東西に伸びている山の全ては探索していないが、街を中心にしてある程度の範囲は探している、ゲートは見つかっていないが地図は正しい。
ここでどう言う判断を下すか。山を越えて砂漠の街を目指すのか、それとももう少しこの街で東西の山の先を探索するか。
部屋で悩んでいた彼は結論を出した。
砂漠の街に移動するには街の背後の山を越えていく必要がある。山の傾斜はきつく魔獣は多い。もう少し山と魔獣、そして斜面での戦闘に慣れた方が良い、少なくとも1年はこの街で鍛錬を続けようという結論に達する。今のところ地図はほぼ完璧だ。ただこれに100%頼るのはリスクが大きいと感じているジョージ。
半年ではまだまだ山を理解したとは言えない。東西の山の探索範囲をもう少し広げてゲートを探しながら鍛錬をすることにする。彼はこれから半年で自分の中で山を越えていけるという自信をつけて砂漠の街に行くという目標を決めた。
自分の中で方針を決めたジョージは引き続き山や森で鍛錬を続ける。
方針を決めてから1か月後、この日マウントヒルホテルにジャンセン、ギャツビー、そしてレイモンドがやってきた。ジョージが山裾の街にやってきてから半年後の事だった。
「俺たちは3人で草原で野営しながら3か月で移動してきた」
ホテルのレストランで再会した4人。昨日この街に着いたそうだ。
「3人なら最短ルートで進めるな」
「ただ、毎晩魔獣と戦闘になった。倒せないことはないがしんどかったぞ」
ジャンセンが言うと他の3人もきつかったと言っている。
その後はジョージが彼らにこの街の様子についてレクチャーをする。4人で話をしているとそこにエイドリアンとウイリアムが相次いでレストランにやってきた。ジョージが声をかけて6人が同じテーブルに座る。
「ジョージの知り合いか。皆腕が立ちそうだな」
テーブルに座ってお互いの自己紹介が終わるとエイドリアンが言った。ウイリアムも確かにと言っている。ベテランになれば相手の雰囲気を見てある程度腕の予測がつき、その予測が外れる事はない。ジョージも雰囲気を見られて、周囲からあいつは腕が立つという評価を得ている。
「山裾の街にはチームでやってきた。ここからはソロで動くつもりだ」
エイドリアンにそう言っているジャンセン。
「この街の周辺も探すべきエリアは多い」
その後は山裾の街の中の話になる。3人とも興味があるのは魔法袋だ。
「ジョージは手に入れたのか?」
ギャツビーが彼に顔を向けて聞いてきた。
「小サイズのを手に入れたよ」
ジョージはこのタイミングで魔法袋を持っていることを公にした。山から戻ってきた日に顔を出したらたまたま魔法袋の小が1個置いてあったのですぐに買ったのだと言った。
3人が驚いたあと良かったなと言った。
ウイリアムとエイドリアンも。それは良かったなと言ってから3人に顔を向けた。
「いつ店頭に並ぶのかわからないんだ。大きいサイズだけの時もあれば小だけの時もある、両方売られている時もある。ジョージが店に顔を出した時にたまたまあったのだろう。運が良かったら手に入る。魔法袋とはそう言う位置付けのアイテムになっている」
「毎日店に顔を出していたのか?」
「それは無理だ。外で野営をしたり街の裏の山にこもったりしている。街の中にいるときもずっと店の前に張り付いている訳じゃない。ウイリアムが言った様にたまたま店に顔を出した時に置いてあったんだよ」
ジョージがレイモンドに言うと、運か。と呟いている。
「4、5名程のチームを組んで活動をしていると、魔法袋の大が必要になるのかもしれないけど俺はソロで動いているから小で十分だな」
「その通りだ。ソロで活動するのなら小サイズで問題ないな」
ジョージの言葉にウイリアムが捕捉する様に言っている。
「となるとゲート探し、金策はもちろんだがアイテム屋にもこまめに顔を出す必要があるな」
そう言うレイモンド。何を優先するかは迷い人の判断になる。魔法袋の入手を優先し、街の近郊で毎日日帰りでゲートを探しながら金策するか、割り切って野営をしながら運を待つか。ここにいる6人は皆ソロで十分に魔獣を倒す力がある。その上でどう動くかは各自で決めればいい。
この街には3軒の飲み屋があってどこに行っても大丈夫だと話をすると、落ち着いたら顔を出すと言う。
「山裾の街で、俺は頭の悪い奴を見たことがない」
ジョージが言うとエイドリアンも今はいないなと言った。
「この街まで来られる連中で悪落した奴はいないと聞いていたが、その通りなんだな」
「そうだ。ただ、だからと言って100%安全と思い込まないことだ」
エイドリアンの言葉に頷く3人。言わなくとも彼らは分かっているだろう。
彼らと別れたジョージはホテルの部屋に戻ると木彫りの女神像を机の上に置いた。
「今のところは大人しいよな。つまりこの街の周辺じゃないってことか?俺はあと数ヶ月で山を越える。もちろんあんたも一緒だ。そこで何もなかったら俺のゲート探しの旅は終わるだろう。ただ、今は何もなかったことを考えたくない。何かあると思って、信じて俺は山を越えて砂漠の街に行く。あんたが何を考えているのか分からないが、俺の旅に最後までとことん付き合ってもらうぜ」
ジョージは魔法袋を持っていることを周囲に大っぴらにした。これによって無用な気遣いが1つ減った。3人とホテルで会った翌日から再び街の外で活動をする。森の中で1泊して金策をしながら体を動かす。山に籠るには体力が必要だ。それは日々の積み重ねだと信じている。
森の中で木に登って野営をし、森を徘徊している魔獣を倒しては魔石を取り出して金策する。
森が終わると今度は山に入って3、4日過ごす。急斜面を登ったり降りたりしながらそこで出会う敵を倒し、夜は急斜面に生えている木に登ってはそこで夜を過ごす。4日ほど過ごすと街に戻ってしっかりと休み、森で体を軽く動かすと再び山に行く。
それを繰り返しながら自分で体力と戦闘技術を高めていた。
1ヶ月もすると3人も街には慣れた様だ。ホテルのレストランに行くとレイモンドが1人で食事をしていた。誘われるままに向かいの席に座る。聞くとほんの少し前にレストランに来てオーダーしたところらしい。ジョージも給仕に料理を注文するとレイモンドに顔を向ける。
「慣れたかい?」
「まだ街の前の森だけどな。一度山の方にも行ってみたが、想像以上に急斜面になっているな」
「その通りだよ。山の向こう側に抜ける道はあるが、その道も決して楽じゃない。少しマシだって程度だ。そのくせ道には魔獣がうじゃうじゃといる。どのルートを進むか悩ましいよ」
「いつ頃山を越えるつもりだ?」
「半年後かそこらだろう。まだ不安があるんでね。この不安を鍛錬で消し去りたいんだ」
「俺はまだ行くかどうか決めていない。来たばかりだということもあるが、聞いている限り砂漠の街は目の前が本当の砂漠になっていて、周辺の山も木が少なく、岩が多いと聞いている。ひょっとしたらゲートはここ山裾の街にあるかもしれない。そう思っている」
どの場所を重点的に攻めるかは迷い人それぞれの考え方だ。ジョージは木彫りの女神像が静かだと言うのも山越えを考えている理由としてあるが、それ以外にも先人が訪れた前地は全部見てやろうと思っている。そこでなくてもまだ年齢的にこの街には戻ってこられると自分で判断している。
一方、レイモンドやホテルオーナーのジュン、ケンゾーの様にこの山裾の街にありそうだと決め打ちをしてしっかりと探索するやりかたもある。ジョージはジュンからもらった地図を他の誰にも見せるつもりはない。あの地図はジュンとケンゾーが自分という人間を信用して渡してくれたものだ。誰に見せても良いものじゃないと思っている。
「時間はあまりないが焦ると碌な事がないな」
「全くその通りだ。その見極めも迷い人に求められるスキルなのだろう」
レイモンドの言葉にその通りだとジョージが頷いた。




