第71話
「ところでこの街のアイテム屋の話は知ってるか?」
ウイリアムが話題を変えた。もちろんと答えるジョージ。
「気難しい親父がやっていて、滅多に魔法袋の売り物が出ないという話なら聞いている」
「その通りだ。魔法袋が店に並ぶタイミングは完全にランダムだ。当然店に並べた瞬間に売り切れる。そのタイミングでたまたま店にいた奴が手にいれる事ができるのさ」
ウイリアムもさっきのエイドリアンも魔法袋の小サイズをそこで買ったそうだ。
「街にいる時は毎日顔を出してたよ。手にいれるまで1年以上かかった。ただそれをやる価値はある。移動がずっと楽になるからな」
ジョージはすでに持っているが当然そのことは誰にも言わない。と同時にはじまりの街のスモーキーは魔法袋の大と小の2つを持っていると言っていた。よっぽど運が良かったんだろう。世の中にそんな運を持っている人がいることをジョージは知っている。
「この街にはどれくらいの迷い人がいるんだ?」
「どうかな。ぜいぜい700から800位じゃないか。俺の感覚だぞ」
「ああ、ありがとう」
各年代で1,600名ほどの迷い人がいるとして、彼らが活動できる期間を15年と仮定すると。延べ24,000人の迷い人がこの世界のあちこちで現役で活動をしている。
その中で800名が山裾の街にいるとなると3.3%になる。殺されている奴や若くして悪落ちしている連中もいるからもう少し上がったとしても3%から4%の間だ。100人のうち3人程度しか来られない。そう考えると山裾の街は簡単に来ることができる街じゃないということになる。
この先にある砂漠の街となるとさらに少なくなるのだろう。
「ジョージは砂漠の街を目指すのかい?」
「まだ決めていない。まずはこの街だよ」
「ここも探そうと思えば時間がかかるぞ」
「その通り。よく考えて動かないとな」
翌日、ジョージは長旅の疲れもあり、街の外には出ずに市内を散歩しておおよその街の様子を理解する。歩いている途中で武器屋と防具屋の店を見つけたので中に入ってみた。
武器(攻撃力+35) 金貨3枚
攻撃用セット(攻撃力+30) 金貨4枚
回避用セット(素早さ+30) 金貨4枚
武器は攻撃力が+5増えており、防具はそれぞれ+10アップしている。
代金は防具が川の街の2倍になっていた。
まだ自分の装備の方が上なのでここで買う必要はない。
その後は薬屋でポーションを補充したジョージ。街の中を歩いているとアイテム屋の看板を見つけた。ここだ。
「こんにちは」
挨拶をして店の中に入ったジョージ。奥からいらっしゃいませという女性の声がして若い女性が出てきた。彼女は多分アルバイトだろう。
「見せて貰いますね」
「どうぞ、ゆっくりご覧ください」
「ありがとう」
置かれているのは魔道具の灯りや野営用のテントなど他の街のアイテム屋で売られているものばかりだ。値段も高いと言う訳ではなく、むしろ良心的な価格になっている。
違う棚を見ると腕輪が売っていた。
素早さの腕輪(素早さ+30) 金貨4枚
攻撃の腕輪 (攻撃+30) 金貨4枚
どちらも今のジョージの装備している腕輪の能力よりも落ちる。ただ普通の迷い人にとっては良い装備であることは間違いない。武器、装備のチェックは終わった。他の棚の商品を見ながら店の様子を伺うと、奥に続く廊下が見えた。おそらく親父さんはあの奥の中にいるのだろう。
ホテルの部屋の机に置けそうな小さな魔道具のランプを見つけてそれを買った。
「ありがとうございます」
代金を払って商品を受け取ったジョージは店を出た。今日は初日だ。それに彼の目的は魔法袋ではない。それ以外の掘り出し物というかレアなアイテムを狙っている。
その後街の中を歩いてみたが、川の街以上に昼間に街の中を歩いている迷い人の数が少ない。皆外で活動をしているのだろう。木々が生えて日陰が多い街の中をのんびりと歩いてホテルに戻った。
次の日から山裾の街での活動を開始する。まずは街の北門から出て1時間ほど歩いて大きな森に入った。そこで魔獣を倒して身体を動かす。ジュンからもらった地図は魔法袋の中に入っているが、ジョージは今日のこの森の様子を事前に地図を見て覚えていた。森の中の魔獣を倒しながら地図と今の現実との差を見つけるのが目的だ。
夕刻まで森の中を探索し、街に戻ってホテルに帰った彼は部屋でジュンの地図を広げてみた。
「果実の木の場所、魔獣の種類と生息域。今日見たところはこの地図とほとんど変わっていないな」
森の全てを探索した訳ではないが、あと数日森のエリアを探索して地図と大差がなければ森は無視してもよいだろう。
ジョージは次の日も森の別のエリアを探索した。この日探索したエリアも貰った地図とほぼ同じだった。ジュンとケンゾーが詳細にチェックしていたのが分かる。ゲートの場所は変わっていないだろうと言われているし、ジョージもどこかにあるゲートは最初からその場所にあると思っている。そしてゲート以外で魔獣の種類や生息エリアについても最初からほとんど変わっていないと言う事がこの地図とこの2日の調査で分かった。もちろんまだ街の背後にある山の中の調査をしていないので100%そうだとは言い切れないが、傾向を予想する事はできる。
この日レストランで1人で遅めの夕食を摂ったジョージはホテルを出て市内を歩き、一軒の飲み屋の扉を開けた。店の前には”ウインドミル”と描かれた魔道具のランプが光っていた。
「いらっしゃい」
カウンターの中にいる背の高い白人が声をかけてきた。入り口から一番奥のスツールに客が1人座っている。泊まっているホテルでは見ない顔だ。ジョージは客とは反対の端の椅子に座ると酒を頼んだ。席は全部で10席で全てカウンター席だ。
「銅貨3枚だ」
銅貨3枚をテーブルに置くとグラスに入った酒が置かれた。
「初めてかい?」
「ああ、3日程前にこの街にやってきた。ジョージという。ジャパニーズだ」
「俺はサンダー。元迷い人で48歳だ。出身はオランダだよ」
「なるほど。それでウインドミル(風車)なのか。俺は4年目になる」
4年目と聞いてカウンターに座っている客がジョージに顔を向けた。マスターのサンダーも若いなと言っている。
「どこに泊まってるんだ?」
カウンターにいる客が聞いてきた。
「マウントヒル」
「俺と一緒だな。3日前なら俺が山にこもってた。俺はテミルベック14年目、38歳だ。出身はキルギス。知ってるか?キルギス共和国って」
「旧ソ連だったっけ?中国の西にある国だろう。シルクロードの途中にある国だよな」
ジョージはツーリングが趣味で暇があれば地図を見るのが好きだった。道路地図も見るが世界地図もよく見ていた。キルギスという中央アジアの小国の名前は覚えている。
「その通りだ。それにしてもよく知ってるな。嬉しくなるぜ。マスター、俺の金でジョージに一杯やってくれ」
ジョージの前にもう一つ酒の入ったグラスが置かれた。彼はありがとうと礼を言う。
14年目、38歳か。迷い人としたらベテラン中のベテランだな。と同時にそろそろ次の事を考える年代に差し掛かっている。
「4年目で山裾の街にやって来られる迷い人は少ない。チームで来たのか?」
ジョージの前に酒を置いたサンダーが聞いてきた。
「いや、ソロだ。俺はこの世界に来てからずっとソロだ。一度もチームを組んだことがない」
「そうなると相当の実力者ということになるな」
それほどまでにこの山裾の街に来ることは簡単じゃないという認識だ。と同時にその困難を乗り越えてこの街に来た連中は実力はもちろんだがプライドも高い。
「南の街に来て半人前、ここ山裾の街に来て一人前だぜ」
テミルベックがそう言っている。ジョージはなるほどと頷いているが内心ではゲートを見つけてない時点で皆半人前だと思っている。この考えは彼が迷い人になってしばらくしてから気づいた事だ。確かに半端な実力ではこの街までやって来られない。それは理解できる。でもそれだけだ。いくら実力があってもゲートを見つけられなければ周りと同じだ。
マスターのサンダーはテミルベックの話を聞いているジョージの表情を見ていた。こいつは腰抜けのジャパニーズじゃないな。表面的にはテミルベックの話に同意しているが内心では違う事を考えている。35歳で迷い人を辞めて、前任から居抜きでこの店を買って13年目、サンダーはこの酒場で様々な迷い人を見てきた。
4年目にしては落ち着いている。山裾の街に来たことで満足している迷い人は多いが、こいつは違う。目を見れば分かる。目が死んでない。獲物を狙う鷹の目だ。そこがテミルベックと大きく違うところだ。
テミルベックが立ち上がった。ジョージは酒のお礼を言うと彼の肩をポンポンと叩いてから店を出て言った。店の中が2人だけになった。




