第67話
次の日はキリシマに顔を出した。遅い時間だったこともあり、店の中にはケンゾーとジュンしかいない。ジョージは数日後にこの街から山裾の街を目指して行くと2人に話した。2人はそれ以前からジョージが山裾の街を目指すだろうということは知っていたので驚いた表情にはならない。いよいよか、と言った感じで彼の話を聞いていた。
「ジョージのルートだと移動で4ヶ月かそれ以上はかかるな」
「山に入れば果実もある。野営もリスクが低い。時間よりも安全を選択したから問題ないね」
マスターのケンゾーとジョージのやりとりだ。
「その通りだ。移動中の魔獣は基本ここにいるのと同じだ。ただ山裾の街から山越えする時にはまた新たな魔獣がいる。俺たちは砂漠の街には行かなかったが山は探索した。その時に出会った魔獣は牙を持った大きな虎だった。今までの虎よりも2回りは大きくなる。注意するのはその虎だな。他はここの山の中とそう変わらない。
「つまり、この街から山裾の街へ移動する間は新しい魔獣はいなくて従来通りという理解でいいのかな?」
ジョージが言うとそれまで黙ってやりとりを聞いていたジュンがジョージを見て言った。
「俺たちの知識は古い。今ケンゾーが言った状況とそう変わっていないとは思うが100%信用しない方がいいよ。不測の事態はいつでも起こりうる」
確かにそうだ。思い込みが事故につながる。
その後2人は山裾の街についてジョージに知っている知識を伝えた。山裾の街はここよりは少し規模が小さいがそれなりの数の迷い人が腰を据えて活動をしている。彼ら相手の飲み屋も数軒あるはずだ。またホテルも複数あると教えてくれた。
「山裾の街もこの川の街と同じで基本悪落ちした元迷い人はいない。ただだからと言って油断は禁物だ。落ちる奴はあっという間に落ちるからな。ジョージは分かっていると思うが良い宿に泊まることだ」
安全を金で買う。それはこの世界に来てからのジョージの哲学でもある。宿代をケチってリラックスできなければしっかりと休めず、事故が起こりやすくなると考えている。
「山裾の街、そしてその先の砂漠の街まで探索の視野に入れているのだろう?」
ケンゾーが聞いてきた。もちろんと答えるジョージ。
「ソロだと大変だがジョージならやれそうな気がするな。ただ探索は簡単じゃないぞ」
「分かってる。今まで何十年も見つかっていないんだ。簡単だとは思っていないさ」
ゲートについては彼らも迷い人をやっていた時に2人でよく話をしたそうだ。
「どんな形なのか、俺たちがイメージするゲート、日本にあった鳥居の様なのかそれともいわゆる門があるのか。洞窟の入り口にある門なのか。自然にできてゲートっぽく見えるものなのか。毎日そんな話をしていたよ」
ジュンが当時を思い出す様に言っている。ジョージは自分が日頃想像しているゲートと同じだなと思いながら聞いている。
「ただな、迷い人を辞めて自分を振り返ってみた時、そんな当たり前の形ならとっくに誰かが見つけていただろうと思ったんだよ。迷い人をやっている時はそこまで考えない。前のめりで毎日あちこち探していた。でも迷い人を辞めて次の生活が始まって落ち着いた頃に考えたんだ。ゲートと言われているものはひょっとしたら俺たちの想像の埒外の形をしているんじゃないかなって」
「想像の埒外って?」
ジョージはジュンに顔を向けた。
「たとえば森や山の中に生えている木の重なり具合を見てゲートに見えるとか。自然が生んだ偶然に見せかけているんじゃないかとかだよ」
「なるほど。となると探索範囲は無限に広がってしまうよな」
木の重なり具合とか言い出したら山や森の中をひたすら移動し続けなければならない。流石にそれはないだろうと思うが、一方で40年以上も見つかっていないのならその可能性もあるのかとも思ってしまう。ただ、ジュンの今の話でジョージが同意するのは、ゲートは人工物ではないだろうと言うことだ。
「流石に木の重なり具合はないだろうが、ジュンも俺も後になって人工物じゃないだろうなという結論に達したんだよ」
ケンゾーが言った。その言葉に頷くジョージ。
「予想もしないところに予想もしていない形でゲートがある。でないとここまで見つからないはずがない」
ジュンがもう一度言った。
「固定概念は捨てて探すよ」
ジョージが言うと2人が大きく頷いた。
ジョージは言おうか言うまいか悩んでいたが、「実は、」と言って最初の洞窟の中での女神とのやりとりを2人に話する。この話をするのは台地の下に降りてからは初めてだ。女神の話が終わるとポーチから木彫りの女神像を取り出してこれを手に入れた時の事についても2人に話をした。
話終えると驚いた表情のまま、しばらくの間声を出さない2人。
「すごい話だ」
ようやくケンゾーが声を絞り出した。
「ああ。最初の洞窟でのカラクリ。そして外に落ちていた女神像を住民経由で手に入れた経緯。ジョージ、お前ならゲートを見つけるかもしれないな」
ジュンがそう言うとケンゾーも大きく頷いている。
「この話は、最初の台地から降りてからは初めて話をする。装備系については上の台地の元迷い人に聞いたら俺のこの装備が手に入るのは砂漠の街だと教えてくれた。つまりそこまでの間にある街で売っている武器や防具よりも優れているということだ。だから俺はずっとソロで活動して、一度もチームを組んだことがないんだ。装備品狙いで殺しにくることもあるから注意しろとも言われていた」
「それは十分にあり得る話だ。と同時にジョージがそこまでソロにこだわっている理由もわかった」
ジュンはカウンターに置かれた木彫りの女神像を見ている。
「この女神像の顔が最初に脳内に聞こえてきた神の代理と同じ顔。つまり彼女は女神の代理ではなく、女神そのものだったということだね」
「そうなる」
「ジュン、さっき俺はジョージならやり遂げそうな気がすると言ったが、まさかここまでとは思っていなかったぞ」
「いや、俺もだ。それにしても最初の洞窟でそんなことがあったのか」
そう言ったジュンは再び女神像を見る。
「女神も言っていたよ。初めてこの部屋にやってきた人間だってね。性格が捻くれているのがあの場面では役に立ったよ」
そう言って口元を緩めた。
「こ女神像がジョージをゲートに案内してくれるかもしれないな」
ケンゾーは女神像を見つめたまま言った。
「だといいけど。今のところおとなしいんだよ」
夜はずいぶんと更けてきたが3人は時間を忘れて話をしている。
「ジョージの言葉を借りて大人しくしているということは、逆に言うとこの辺りにはゲートが無いということかもしれないな」
ジュンが言った。
「女神像が必ず俺をゲートに案内すると決まっている訳じゃない。何かあるとは思うけどね。だから俺はあちこちの街でも周辺をウロウロして目でゲートを探しながら女神像の反応を伺っていたんだ。ただ今のところ無反応だ」
「いずれにしても女神像がこの世界にあったということには意味があるはずだ」
ケンゾーが言った。ジョージもジュンもそう思っているので頷いている。
「ジョージ、お前なら出来る。俺達の夢を叶えてくれ」
「ケンゾーと俺が成し遂げられなかった夢、お前に託そう」
「頑張ってみるよ」
夜もすっかり更けた頃、ジョージとジュンはキリシマを後にしてリバーサイドホテルへの道を歩いている。
「出発はいつかな?」
「おそらく2日後。食料と水を明日1日で揃える予定なんだ」
「なるほど」
歩いている先にホテルが見えてきた。ジュンは正面玄関からではなく従業員専用の出入り口から戻るそうだ。聞いたらこのホテルの1階に自分の部屋というか住んでいる場所があるらしい。
「じゃあ」
「お疲れ様」
ジュンとはホテルの入り口で分かれた。




