第66話
この日の夜、ジョージはジャンセン、そしてレイモンド、ギャツビーの4人でニールセンがやっている飲み屋”メーラル”にいた。ニールセンが気を利かせて、看板の電気を落として貸切にした。
「いつから行くんだ」
「来週には出発しようと思っている」
ジョージは知り合いに来週この街を出て南の山裾の街に向かう言うという報告をする。この街で1年以上住んで知り合いも多い、何よりいろいろと世話になった。そんな彼らに黙って街を出るのは礼儀に反すると考えている。
「山裾の街までは2ヶ月から3ヶ月かかる。ジョージは情報を集めて知っていると思うが草原の野営がきついぞ」
マスターのニールセンが言った。その言葉に頷くジョージ。
「複数の人から聞いたよ。だから俺は西の山裾沿を歩いて南を目指すことにした」
その言葉でこの場にいる全員が理解した。
「野営は木の上、山の中には果実もある。時間はかかるがソロだとそれが結果的に一番リスクが低そうだな」
ジャンセンが言った。チームを組めば草原で野営をしながら南を目指していけるが1人だと身体がもたない。
「移動で数ヶ月かかっても少しでも安全に移動できる方法を選んだのは良い選択だと思うぞ。持っていく荷物も抑えられる」
「その通りなんだよ」
ニールセンに頷きながらジョージが答えた。迷い人が移動をするとなると食料や水と言った重くて嵩張るものをリュックに詰めて移動する。今までのケースでも移動に1ヶ月かかるのなら10日から2週間分の食料を鞄に詰めておき、あとは森の中で果実を食べ、川の水を飲み、戦闘をしながらの移動となる。今回は2、3ヶ月かかるとなるとどれくらいの量の食料を用意するかというのも迷い人それぞれの判断だ。多めに持つと安心できるが鞄が重くなる。少ないと移動は少し楽になるが常に食料を探しながらの移動になる。そのバランスは個人個人で判断し、最終的な荷物を決める。
「マスターは砂漠の街まで行っているんだよな
ギャツビーがニールセンに顔を向けて言った。
「その通り。山裾の街から山越えをして砂漠の街まで行っている。山裾の街から砂漠の街へは山越えで2ヶ月程だ。一番きついのがここから山裾の街への移動だな」
彼はそう言ったあとで山裾の街にも元迷い人がやっている飲み屋が数軒あると言った。山裾の街まで辿り着けることができる迷い人はそう多くはいない。なので今の数以上店は増えないだろうと言っている。
「おそらく今でもやっているだろう。迷い人の何人かはあの街に腰を据えているからな。酒の需要はある。向こうに着いたら顔を出すと良いだろう。変な店はない」
山裾の街まで行けるということ自体がある意味迷い人の中でもエリートという位置付けになる。もちろんゲートを見つけていないのでその点から見れば皆同じなのだが、それでもあの街まで行く実力があるということで周囲から一目置かれる。
レイモンドがジョージに顔を向けた。
「そこでなければさらに南にある砂漠の街まで行くのだろう?」
「もちろん。そのつもりだよ。身体の無理が効く間にできるだけあちこちの街へ移動してそこで探すつもりだ」
今ここに座っている4人も近い将来に山裾の街を目指していくだろう。ゲート探しを諦めるのはまだ先だ。皆やれる限界まで挑戦する気でいる。
酒を飲みながら話をしているとここにいる3人も半年から1年以内を目処に南の山裾の街に移動する計画を組み、それから逆算して日々活動をしている。
「ここにいる3人で移動の時だけチームを組もうって話をしている。付き合いも長い、背中を預けても安心だからな」
ジャンセンが言った。
「チャンやマッケインは?」
「奴らは最近、この街で腰を据えてもっと探す方が良いと言っている」
ギャツビーが言った。それも迷い人の決断だ。ゲートがもっと南にあると思ってそっちを目指す奴、いや意外とこの周辺かもなと思って川の街で頑張る奴。川の街まで来られる時点で実力者だ。あとは自分の勘というか決断でゲートを探す場所が決まる。
メーラルで飲んだ2日後、ジョージはこの店にアイクとキキと3人で顔を出した。自分が南の山裾の街を目指すことは言ってある。アイクもキキもメーラルにはすでに何度も顔を出しているのでマスターのニールセンとも顔馴染みだ。
「兄弟は山裾の街に行く、俺とキキはこの街でじっくりと探す」
「どこにゲートがあるなんて誰も知らない。なのでどこで探そうが人にとやかく言われる筋合いのものでもないしな」
アイクとキキが言った。
「見つかったら脳内にアナウンスが入るんだろう?俺たちが見つけたらジョージも知ることになる」
「そうだな。その時は俺にゲートの場所を教えてくれ」
そう言ったジョージがニールセンに顔を向けた。
「ゲートが見つかった時の脳内のアナウンスってのはマスターも聞こえるんだろう?」
「元迷い人の間じゃ聞こえるということになっているな。元なんて付いているがそれは勝手にゲートを探すことをやめた迷い人の呼称だ。この世界では住民と迷い人の2種類の人間しかいない。元と付いていても迷い人であることには変わりはない」
「言われてみりゃそうだよな」
アイクが感心した声を出している。
「ジョージ、移動はどうすんだよ?」
「ああ、山裾を南に移動することにした。それなら夜は森の木の枝の上で休める」
「なるほど。時間はかかるがソロだとそれが正解なんだろうな」
その後も酒を飲みながら話をした3人。店を出てホテルに続く道を歩き、ジョージは右に、アイクとキキは左に行くところでジョージはキキとは握手をし、アイクとはハグをする。それほど接点が多くあったわけじゃないが、アイクとはなんとなくウマが合った。死ぬ前の世界で会っていたら、いい友人になれただろう。お互いにそう思っている。
「ジョージ、気をつけてな」
「ああ、アイクもな」
「お互い頑張ろうぜ」
「そう言うことだ。じゃあ」
3人は手を上げて左右に分かれてそれぞれの宿に戻っていった。
シンディとナオミにはホテルのレストランで話をし、そのままヴァレンシアに顔を出した。ここのママのルシアもジョージが数日のうちに街を出て南を目指すことは知っている。
「もうジョージに抱いてもらえないのよね」
「本当だよね。遠出から帰ってきたらそれが楽しみだったのに」
酒を飲みながら2人が言う。アメリカ娘だからかシンディもナオミもオープンだ。ルシアは笑いながら2人の愚痴を聞いている。
「2人ともあまりジョージを困らせちゃダメよ」
そう言ってジョージを見る。
「いい女と別れるのは辛いが、ゲートを探す旅はまだ終わってないんだ」
「山裾の街だっけ?そこで探してなかったらその先の山を越えるの?」
ナオミが聞いてきて、その通りだと答える。
「私たちっていつまでゲート探しが続けられるんだろうね」
ナオミが独り言の様に言った。
「俺は最近思うんだよ」
ジョージが言うと。シンディ、ナオミ、そしてルシアの3人が彼に顔を向ける。
「今この世界にいる迷い人、元迷い人もそうだけどさ、本当だったら地球で20代で死んでそこで人生が終わってたんだよ。それが神の代理とか言うのが俺たちを選んでゲートを探すという試練を与えてきた。しかも死ぬ前の意識や肉体のままでだ。俺は日本でバイク事故で死んだんだけど、本来ならそこで終わっていた人生が神の気まぐれなのか悪戯なのか、とにかく死んだと思ったら復活してこうして生きている。これって本来は無い時間だよね?ボーナスタイムみたいなもの。場所は地球じゃないけどこうやって思いがけず自分の人生を延長して生きることができている。それなら悔いがない様に思い切りやってやろうってな」
ジョージが言うと3人の女性はしばらく何も言わない。静かな時間が店の中を流れている。しばらくの間があって再びジョージが言った。
「残りの人生という言い方がいいのかどうかは分からないけど、一度死んだ人間が迷い人としてこの世界で生き続けている。それぞれ好きな事をしたらいいと思うんだよ。ゲートを探したい奴は探す、飲み屋をやりたい奴はやる。のんびり過ごしたい奴はそうする。今のこの時間は本来は無かった時間なんだ。だから好きに生きればいいのさ。俺はそう思っている」
「ジョージの言う通りだよね。皆地球で一度死んでるんだよね」
ルシアが言った。
「ジョージ、一緒にホテルに帰ろ。最後の夜よ。楽しみましょう」
シンディがそう言うとそうしようとナオミも立ち上がった。
「ジョージ、気をつけてね」
2人に急かされて椅子から立ちあがったジョージにルシアが言った。
「ありがとう。ルシアには世話になった」




