第65話
ジョージは東の山の南側を2ヶ月ちょっとかけて歩いて探索した。西の山と同じく木彫りの女神像は遠出の間、一度も反応することがなかった。
久しぶりにリバーサイドホテルに戻ってきた彼はシャワーを頭から浴びながらこれからの自分の動き方、方針について考えていた。いや、方針はもう決まっている。問題はそこへの移動手段だ。
”キリシマ”のマスターとこのホテルのオーナーをはじめ複数の元迷い人から南にある山裾の街への移動についてはだいたい3ヶ月程かかると聞いている。移動途中の草原での野営が危険だという話も聞いている。それを踏まえてどうするか。
バスタオルで頭を身体を拭いてスッキリしたジョージは着替えを終えた時点で自分がどう移動するかを考える。髪が乾いた頃、結論が出た。
部屋で仮眠をし、夜の帷が降りた頃に1階のレストランに顔を出すと、見慣れた連中がそこに座っている。
「久しぶりに顔を見たぞ」
「お互い様だろう」
マッケインが軽口を叩きながらテーブルを勧めてきた。彼の隣にはギャツビーが座っている。ジョージは彼らと同じテーブルに座ると近づいてきた給仕に料理を注文してから顔を2人に向けた。
「またチームを組んだのか?」
「いや、たまたまここで会ったんだよ。2人ともソロさ」
「山裾の街に行く時はチャンとレイモンドも入れて4人で移動しようとは言ってるがな」
マッケインの後にギャツビーが続けていう。彼らも移動中の草原での野営が厳しいという事は情報として知っている。そのリスクを避けるために4人でチームを組んで南を目指すそうだ。それが普通の考え方だということはジョージにも理解ができる。
「ジョージはソロで目指すのか?きついぞ」
「分かっている。ただ今までずっとソロだったしな。1人の方が気楽でいいよ」
ジョージの話を聞いている2人はそれ以上何も言わない。迷い人のゲートの探し方は人それぞれで、他の現役の迷い人がとやかくいうものじゃない。
食事が終わると外で軽く飲んでくるという2人と別れ、ジョージは部屋に戻ってきた。魔法袋から木彫りの女神像を取り出すと机の上に置いてじっとそれを見てから手を合わせた。
「俺は絶対に諦めないからな」
次の日から、ジョージは朝街を出ると街の外の草原で敵を倒し、夕刻には街に戻るという生活を続ける。そうしながら少しずつ遠出の準備を進めていった。
「そうか、あと1、2ヶ月で南を目指すんだね」
アイテム屋の奥のテーブルでウマルと向かい合って座っているジョージ。
「自分なりに出した結論でね。ゲートはここには無い。無いのならもっと南に行かなければならないということだよ」
「なるほど」
「長い移動になる。ウマルから買った魔道具が役に立ちそうだ」
「そう言ってくれると嬉しいね。今のところは新しいアイテムは入荷していないが、出発までにいいのが入荷したら最初にジョージに伝えるよ」
「お願いします」
遠出から戻って3日後の夜の遅めの時間、彼はキリシマの扉を開けた。店にはいつもの客、ジュンが座っている。
「東の山はどうだった?」
「あそこには無いだろうと結論付けた。そう言う意味ではあそこまで出向いた意味、収穫は有ったよ」
「そうなるといよいよ南に出向くのかな?」
カウンターの隅に座っているジュンがジョージに顔を向けて言った。
「そうなります。今は遠出をせずに身体を動かしながら準備しているところですよ」
「長い移動はどうするんだ?3ヶ月はかかるぞ」
ケンゾーがジュンの前におかわりの酒を置いてからジョージを見る。
「俺は草原を通らずに西の山裾をずっと南に移動して街を目指すことにした。なのでもう少し時間がかかるだろう。でも草原で襲われるリスクを考えるとこれが一番良い方法じゃないかと思っている」
ケンゾーとジュンの2人はジョージの言葉を黙って聞いている。
「なるほど。時間よりも安全を優先したんだな」
「悪くないアイデアだと思うよ。ソロで移動するのならそれが一番安全だろう」
2人は自分たちが移動した時のことを思い出していた。草原での野営が一番厳しい。ジョージもそれを知っていて考えた末にその方法がベストだという結論に辿り着いたのだと。
「なぜ東じゃなくて西を選んだのかな?理由があるのかな?」
「東の山は絶壁が多いくて南にもずっと続いていた。西はそうじゃない、移動しながらゲートを探すのなら西だと思ってんだよ」
正解なんて誰も知らない。ジョージは自分の直感を大事にしている。ケンゾーもジュンもなるほどと言っただけだ。ただソロで動くとなると彼のやり方は正しいだろうと言うことはわかる。自分たちも経験しているがここから山裾の街への移動の中で最も注意するのは草原での野営だ。最短距離で目指すとなると草原を北から南へ移動することになる。1ヶ月前後は草原で野営をしなければならない。食料を十分に用意し、重いテントを担いでの移動は相当きつい。2人以上のチームなら夜に交代で休んで体力を回復することができるがソロだと全てを自分でやらなければならない。
そう考えた時に時間はかかるが木の枝で安め、果実を食べて飢えを凌げる山裾の移動は正解だ。ただおそらく移動時間は草原を横切る時の倍近くになるだろう。ジョージはそれでも夜間に襲撃されるリスクを下げる方法を選んだ。
「いつ頃移動する予定なのかな?」
「1、2ヶ月後くらいかな。いつと決めずに自分の体調と相談しながらです」
「山裾の街も探そうと思えばいくらでもゲートがありそうな場所がある。そして迷い人の数は少ない。少ないがあの街で迷い人相手に飲み屋をやっている元迷い人もいる。治安は悪くないので飛び込みで店に入っても大丈夫だろう」
「悪人はいませんか」
「この街にもほとんどいないが、山裾の街は私が知っている限りゼロだ。そこまで行ける力のある迷い人は実力がある上に精神力も強い。ことの善悪の判断ができる奴しかいないんだ」
つまりゲート探しに集中できるということだ。もちろん今のこの川の街でもジョージは集中している。この流れがこの先でも続くのであればそれが一番いい。
夕刻に外から街に戻ってきて換金屋で魔石を現金化して店を出るとちょうどアイクとキキが換金屋にやってきた。一緒に飯を食おうということになりジョージが外で待っているとしばらくして2人がやってきた。
3人で市内にある迷い人達がよく行くレストランに向かう。ジョージもたまに利用する店だ。客は迷い人を中心に6割くらいの入りだった。
「どうだい?」
「ようやく街に慣れてきた。最近は森まで足を伸ばしている。でないとホテル代が払えないからな」
アイクらが止まっているスターホテルはリバーサイドホテルよりは安いと言ってもそれなりの料金を取る。
「ジョージはどうしているんだ?」
「南の山裾の街に行く準備を始めた」
そう言うと2人がジョージを見る。
「ソロだろう?きついんじゃないか」
キキが言ったがジョージが何か言う前にアイクがキキの方を見る。
「ジョージはずっとソロだ。何か勝算があるんだろうよ」
「勝算はない。もちろんこのエリアも全部見ていない。でも南に行こうと思ってな」
行き先を決めるのも自由だ。
「南の街では魔法袋ってのが手に入るらしいな」
アイクもしっかりと情報を集めている様だ。
「それは俺も知っている。ただ滅多に売り物が出ないって話だ」
「そうらしいな。でも行けば手に入るかもしれない。行かなければ絶対に手に入らない。迷い人としてどう判断するかだよな」
「その通りだ。もちろん俺のメインの目的はゲート探しだ。ただその途中というか過程で魔法袋みたいなレアなアイテムが手に入ればいいなと思ってるんだよ」
ジョージの言葉に頷く2人だった。




